第30話 訴えておこうか
結局、俺が王城に呼ばれた理由は、ドラゴンスレイヤーの認定とドラゴンの購入打診だった。
勇者パーティー壊滅騒動の影響が鎮まっていたのはまあ良いが、サラーナ姫による俺の婚姻への横槍は王様も想定外だったようだ。
それほどドラゴンスレイヤーの称号は魅力的らしい。
むしろ生かして継続的に素材を貰った方が有意義だったのに。
人里にも降りずに、誰にも迷惑をかけない良いドラゴンだったのにな。
ドラゴンの素材は骨が砕け、内臓や肉が潰れていたが、皮や鱗、そして牙や爪は使えるものが残っていたようだ。
その売却益は鱗採取の依頼で得る報酬を数桁上回るものだった。
「そういや、あの依頼、おかしなとことが有り過ぎだったな。
冒険者ギルドに文句を言っておかないとな」
十中八九、あの依頼はアレスティン侯爵家の罠だった。
俺をドラゴンの前におびき出し、ドラゴンを怒らせて始末させる、そういった筋書きだったのだろう。
俺は王都に居る事を最大限利用するため、王都冒険者ギルドに依頼に関する異議を申し立てることにした。
王城から公爵家の馬車で直行である。
◇
王都冒険者ギルドに行くとドラゴンの鱗を取り出し、依頼完了手続きと共に異議申し立てを行った。
これは依頼に事実誤認があったとか、意図的に騙されそうになったとか、そういったケースに冒険者が訴えることが出来る制度だった。
滅多にない異議申し立てに王都ギルドがざわつく。
しかも、地方ギルドの不祥事が王都ギルドに持ち込まれるという、ギルド職員の犯罪を示唆するような状況だった。
これに対して動くのは副ギルドマスター以上だろう。
しかも、その申立人である俺は、ドラゴンスレイヤーだと大々的に発表されたばかりだ。
俺たちが謁見している間、王都はその話題で持ちきりだったらしい。
更に、マダムに作ってもらった礼服もハッタリとして効いている。
案の定、応接室で待たされた俺の前には直ぐに副ギルドマスターが現れた。
「待ち伏せですか?」
「ああ、ドラゴンに俺を襲わせるようにと潜伏していたようだ。
実際、寝ているドラゴンを起こし、攻撃を仕掛けて怒らせた。
その傍に俺がいたのでは、どうなるかは解るだろう?」
「依頼は指名依頼、待ち伏せるには依頼内容を知らなければならないということですな」
話が早い。
そう副ギルドマスターが言うということは、ギルド職員の関与が疑われる案件だと理解したということだ。
「その者たちは、俺に恨みがあると言い放った。
つまり、依頼から全てがドラゴンの前に俺をおびき出す罠だったのだ」
「なんということだ……」
いつのまにか、姫が乱心し、俺に求婚したという噂は王都を駆け巡っていた。
あんな貴族の目のあるところでやらかしたのだ、話が漏れないわけがなかった。
そしてドラゴンスレイヤー認定。
その王家の覚えめでたい俺を罠に嵌め、殺そうとしたことにギルド職員が関与している。
それは冒険者ギルドを揺るがす大不祥事だった。
「この件、しっかりと調査し、厳しく対処いたします」
指名依頼を受けた職員はクビ確定だな。
はたして、どれぐらい上までの関与を調べられるかだな。
侯爵家のアホが引っかかれば面白いんだが。
そして、この依頼は王都冒険者ギルドマスター預かりとなった。
ただのドラゴン素材採取ではなくなったのだ。
そこには依頼失敗のペナルティもなく、完了による素材の引き渡しもなくなった。
唯一、ギルドに預けられていた報酬だけが支払われることとなった。
迷惑料だ。
まあ、ドラゴン1頭の値段と比べたら微々たるものだけどな。
少し留飲が下がったので、俺はまた奴隷商に向かうことにした。
クレアと結婚したからには、俺の王都邸を機能させなければならなかったからだ。
まだあったよ、シュタイナー伯爵王都邸。
王様から叙爵の時にもらったきり、放置されていたやつだ。
あの事件以来、爵位も何もかも没収になったと思っていたので荒れ放題だった。
俺には使用人を融通してもらう宛てが全く無い。
エイベル公爵に頼むと、全てを牛耳られそうで怖いしな。
使用人が全員公爵の派遣した暗部工作員だったなんてことになったら、怖くて眠れないわ。
そこで奴隷を見繕うことにしたのだ。
金ならばドラゴンを売ったから充分以上にある。
執事、メイド、料理人、掃除係、馬車を買うとなると厩務員と御者もいるのか。
ちょっと、俺には手に余るな。
そこらへんは生まれながらに知り尽くしているクレアに任せるのが妥当か。
「よし、クレアに任そう。
俺は奴隷を買うだけに専念だ」
俺は冒険者ギルド前に待たせていた公爵家の馬車に戻るとクレアに話をした。
「奴隷商に行くならば、着替えましょうよ」
「それもそうか」
さすがに謁見用衣装で貧民街の側まで行くのはまずいよな。
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