第26話 王都へ行く
公爵家の勇者候補――クレアの兄は、アランといった。
アランは王都で勇者(仮)パーティーを結成し修行の旅に出ていた。
人望も有り、第一級の仲間が揃ったが、唯一聖女だけが侯爵家の勇者候補に付いたのだとか。
「知ってた?」
「知らないわよ。 私が家を出てもう2年も経ってるから……」
クレアが言葉尻を濁したのは兄との仲が良くなかった話をしたくなかったせいらしい。
「何があったか教えてもらえるか?
俺たち、婚約じゃなく結婚してるんだからな」
そう、善は急げと貴族の婚礼にしては異常な速さで結婚が成立していた。
通常であれば下調べや手続きに数カ月はかかるところだ。
さすが公爵家、婚姻が決まった翌日には王家からの許可と婚姻証明が送られて来た。
クレアは既にシュタイナー伯爵夫人だった。
だから、話したくないではもう済まないのだ。
アランとは、俺は安全確保要員として接しなければならないのだ。
事情を知っておく必要がある。
クレアもそれは理解出来たようで、嫌々ながらも事情を話し始めた。
「私と兄が不仲と言われる様になったのは、私の剣の腕が公爵家の子供たちの中で飛び抜けていたからです。
次期当主は剣聖になることが必至の家系で、男子が女子に劣る、それが兄を苦しめました。
私はそれに気付かずに剣の修行が楽しくて腕を上げてしまって……」
「それで家に居られなくなったと」
「私が嫁に行けば跡取りから外れると縁談が舞い込んで……」
「ん?」
クレアの継承順位って最下位だよな?
そこに剣の能力どうこうは関係ない。
まあ、アランが気まずいというのはあるだろうが。
「相手の方が昔から嫌いだったし、それで家を飛び出しちゃいました」
「おおい!」
家で疎まれた理由が、跡取り争いが少しは関わっているというのは解る。
だが、縁談が嫌で飛び出したのが、なんで兄弟の軋轢の結果という話になる?
まあ、巡り巡って少しはそんな理由もあったかもしれない。
だが、クレアぐらいの年齢での婚約話なんて、普通に良くある話だろう。
「お兄様ったら酷いんですよ。
お前のような剣一筋の女なんて嫁の貰い手が無いって!」
そういや、こいつ、冒険者にもなって料理の1つも出来なかったな?
まさか、花嫁修業が嫌で逃げただけじゃないだろうな?
「だから剣の修行のために飛び出しちゃいました」
それで剣に拘っていたのか。
それに、たぶんお兄さんは剣しか能の無いクレアの嫁の貰い手を心配しただけだぞ?
しまった!
そこに舞い込んだ俺との結婚話、俺は伯爵位を持っていてクレアを降嫁させるのに打って付け。
しかもクレア本人からの申し出。
逃げられないように外堀が埋められた事実。
やたら早い結婚手続き。
気になるのは公爵からの斬り殺す勢いの腕試しだが、あれは父親故の「娘はやらん」の一種だとすると納得できる。
「なるほど」
残念さんは、やっぱり残念だったようだ。
「これで心置きなくアランと会えるよ」
たぶん、アランはクレアを娶ったことを心から喜んでくれるだろう。
軋轢があったならば、面倒な対面になっていただろうから助かったよ。
◇
結婚したとはいえ、俺とクレアの関係が変わったわけではなかった。
まあ、人目が無いところで尻穴から魔力を吸うのにお互い躊躇いが無くなったぐらいはあるか。
それを見てシーラまでもが「どうぞ」とやり出したのは、タマの教育に悪いからやめて欲しい。
あの例の奥義使用が結婚により障害が無くなったことは事実だが、あの方法を口に出すのはさすがに夫婦でも憚られた。
だって、クレアは性的にお子ちゃまだったからな。
ということで、俺たちはまだ初夜も迎えていない。
公爵家が用意した馬車で、俺、クレア、シーラ、タマの4人は、アランが修行をしているというダンジョンのある王都に向かっていた。
さすがにエイベル公爵家の娘婿となった俺に、アレスティン侯爵家は手を出せなくなった。
その代わりと言ってはなんだが、三男ジェイコブの勇者育成に力を入れているらしい。
最初からそうした方が有益だっただろうに、あの異常な執着はなんだったのだろうか?
いや、侯爵こそが息子の不始末を最も理解出来ていたはずだ。
その恥ずべき行為を隠すために俺を犠牲にするしかなかったのだろうな。
鬱陶しいやつだ。
王都に到着し、アランと接触しようと王都公爵邸に向かう。
すると、そこには俺宛ての王城への召喚状が届いていた。
「王様が会いに来いってことか?
それよりも、どうして
「シュタイナー伯爵邸が荒れ放題だからでしょう」
公爵邸の執事が全うな理由を教えてくれる。
そういえば、王家から賜わったまま、一度も利用したことがない。
俺自身は、あの件で爵位が剥奪されているだろうと思っていたから、使用人も雇っていないので、荒れ放題になるのは当然だろう。
そんなシュタイナー伯爵邸に召喚状を送っても意味がないということだろうな。
そして、上手いことにエイベル公爵の娘と俺が結婚したという情報を得た。
異例の速さで手続きが終わったのだから、王家が知っているのは当然だろう。
「なんだろうな?」
「一応、夫婦同席のようだから、私も行く」
「いや、クレアは良いけど、俺は礼服なんて用意したことが無いぞ?」
「私だってドレスは2年前のお古だよ?」
まずい、俺たちは王様に会うまともな服も持ってなかったぞ。
立派な服は仕立てるのに時間がかかるものだ。
どうしよう?
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