第25話 公爵の思惑
「それにしても、シュタイナー伯の剣技、魔導士にしておくのは勿体無いな」
クレアの婚姻が決まったことで、エイベル公爵はとても機嫌が良かった。
その理由は2つ。
クレアの王位継承権と公爵家継承権が無くなること。
そして、俺という存在に王国への鎖を繋げることが出来たことだった。
「俺はこれでも剣よりも魔法の方が得意なんだが」
「わはは、剣聖の不意打ちを防げる者など騎士でもそうそう居ないのだぞ?
誇られよ」
身内となると決まったら、やたら距離感が近いぞ、このおっさん。
俺の正体を知るまでは「殺す」って言われてたからな。
気に入らない者は斬り捨てる斬り裂き魔扱いだったんだぞ?
しかも、あの一撃、対処出来ていなければ俺は死んでたぞ?
どうやら、公爵は剣の腕で男の価値を見計らっているフシがある。
だが、そこが息子たちへの当たりの強さになっているように思えた。
どうやらクレアの剣の腕は兄弟たちより上のようなのだ。
それでクレアと比較された兄弟たちがクレアを疎んだのが、クレアが家を出た理由のようだ。
ん? 待てよ。
俺ってクレアよりも剣の腕が上だぞ?
つまり、その兄弟よりも剣が使えると……。
魔導士の方が剣の腕が上、それをネチネチと息子たち……。
新たな火種にしかならない。
「偶然ですよ。
死なないように必死だっただけで」
「そうか! 訓練に必死さが足りないのだな。
なるほど、実戦訓練はありか」
変なところに火を付けちゃったぞ。
幸い、ここには件の兄弟はいない。
そして、俺は公爵家の紐付きになった。
王家筋がそれを歓迎したのには何の裏があるのだろうか。
「少し質問してもよろしいてしょうか」
「何かな?」
「俺が出奔した後、何があったのですか?」
俺は勇者が亡くなった責任をアレスティン侯爵に擦り付けられ、嫌気がさして国を出た。
伯爵位を持っていたが、それ以来登城すらしていなかったので、既に爵位を没収されているものと思っていた。
それなのに、爵位はそのまま維持されていて、公爵も俺が婿となることを望んでいたフシがある。
「まず、
状況証拠がそれを否定し、調べた結果、言い分に反する目撃者の証言もとれた」
俺が魔王軍幹部と戦っている最中のことだ。
俺と勇者は離れていたし、目撃者が居たならば、誰のせいで負けたのか理解出来たことだろう。
その評価が許せなくて、アレスティン侯爵が俺を狙い続けていたということか。
「シュタイナー伯、貴殿がまた王国のために働いてくれることを国王も願っている」
「俺は魔力が回復しない魔導士失格の男ですよ?」
「だが、魔法を使い、あの男の私兵100人を一瞬で倒した。
ドラゴンも倒したと娘に聞いているぞ?」
あのおしゃべりめ!
俺の秘密が完全に筒抜けではないか。
ということは、俺が魔力ドレインで魔力を吸うってことも
「それは娘さんが居てくれたからこそです」
「そうか、娘の無駄な魔力が役に立ったのだな?」
「ええ、まあ」
そこまで知ってるのか!
どのように吸ったのかもだったらヤバいぞ。
それでクレアとの婚姻を許可した――いや、俺の意志に反して積極的に進められた?
となると、俺は王国に何をさせられるかわからないぞ。
「妾を持つのも構わないぞ。
ただし、魔法を存分に使うために限ってだ」
シーラが魔力タンクだということも知られている!
もう降参です。
「いったい俺に何をさせたいのですか?」
「わはは、そのような強要をするつもりは無いんだがね。
我らは次の勇者パーティーを育てなくてはならないのだよ」
つまり、また魔王が活動しだしたということか。
「勇者は誰なんですか?」
「勇者はいない。
だが、勇者候補としてうちの長男と、あの家の三男の名前が挙がっている」
あの家ってアレスティン侯爵家のことかよ。
勇者候補も強引にねじ込んだとしか思えないな。
「ちなみに勇者候補になった根拠は?」
「うちは剣の腕で、あの家は……教会のお告げだったかな?」
そんなの教会に金を握らせだけじゃないのか?
「俺にあの家の三男の相手は無理ですよ?」
「構わん。
勇者候補で2パーティー編成して、そえぞれを育てる予定だ。
惜しむらくは、向こうに聖女が付いてしまったことだがな」
ああ、そういうことか。
勇者候補が微妙でも、王家としても聖女の存在は無下に出来ない訳だ。
「だが、剣の腕もしっかりした
「そこに実戦経験という話が丁度良く出て来たわけだな」
なるほど、俺は指南役ではなくて安全確保要員か。
それならば義弟としてやらなけれなならないか。
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