第24話 事情ってなんだ?
暗殺者を倒し、クレアを守ったという良い印象のうちにエイベル公爵に会うべく、ソルビー子爵領を通過してエイベル公爵領に向かう。
ジェイク指示のアレスティン侯爵家私兵によるソルビー子爵領襲撃を無傷で乗り切ったため、俺に対するソルビー子爵の印象もすこぶる良い。
ソルビー子爵は、アレスティン侯爵家から少なくない詫び賃を貰ったからだ。
息子を死に追いやった恨みは俺に来て、美味しいところだけを受け取れたのだから、気分が良いに決まっている。
しかもエイベル公爵が睨みを効かせているから、アレスティン侯爵もソルビー子爵に手を出せない。
良い事尽くめというやつだ。
エルズバーグから借りた馬車での移動だし、領主には歓迎されているしで、俺とクレア、タマ、シーラの4人旅はすこぶる順調だった。
その目的がエイベル公爵に会うためでなければ楽しい旅だったのだがな。
◇
ついにエイベル公爵領に入った。
まあ、まだ領都までは距離があるので心の準備の時間はあるはずだ。
公爵は直ぐに剣を抜く斬り裂き魔だというから、俺も準備を怠れない。
一瞬の隙が死を招くだろう。
「クレア様御座乗馬車とお見受けする。
我らが護衛いたしますのでここからはご安心ください」
俺たちがエイベル公爵領に入ったことが、領境にある関所から伝わったようで、護衛の騎士団が走り寄って来た。
騎士と言うが、その騎乗するのは騎獣と呼ばれる魔物で、彼らは二足歩行のトカゲに乗っていた。
トカゲといっても大きさ的に竜と呼ばれることが多いやつだ。
トカゲにも鎧を着せているが、それでも充分な機動力がある。
その騎竜隊を揃えられるというのは、よほどの騎士の練度と領に財力があるということだ。
「追い出される様に領を出たのに、どういうつもりなの?」
クレアが戸惑いの台詞を吐く。
そこら辺の事情を俺は知らないが、いといろあって残念冒険者をしていたのだろう。
「逃がさないという意志は感じるな」
騎士団は俺たちの護衛というよりも、逃がさないための護送という空気を醸し出していた。
そんな窮屈な状態でも、あらゆる検問をスルー出来るのは楽だった。
おかげで思った以上に早くエイベル公爵領の領都に辿り着いた。
心の準備的には全く良くないのだが。
騎士団に囲まれて、そのままお城かと見紛う公爵邸に入る。
いや、本当に城だった。
城壁の奥にいくつかの塔を備えた石造りの城が聳え立っていた。
「あれが実家?」
「そうなるかな」
気遅れするが、ここまで来たら仕方がない。
クレアとシーラのおかげで魔力は満タンになっている。
もうなるよにしかならないだろう。
俺たちは馬車を降りると正面玄関から中に入った。
クレアは実家だから問題ない。
俺は
問題は奴隷身分のシーラとタマだ。
奴隷の同席がエイベル公爵の逆鱗に触れる可能性がある。
だが、このようにしたのは公爵側だ。
俺はもう開き直るしかなかった。
正面玄関を入ると大階段がぐるりとホールを囲むように設置されていた。
その上から40代ぐらいの男性が降りて来ていた。
仕立ての良い豪奢な服に、腰には煌びやかな宝剣を携えている。
「あれがお父さんなのか?」
俺は思わずクレアに訊ねた。
「誰がお義父さんだ!」
男性が烈火の如く怒り、俺に向けて一瞬で歩を詰めて来た。
その手には既に抜き身の剣がある。
俺はヤバイと思って腰の剣を抜く。
【思考加速】と【身体強化】をかけておいて良かった。
ガキン
両者の剣が鍔迫り合いをする。
「何をなさるのですか? 公爵」
「解っているのだろう? ケイン・シュタイナー伯爵」
俺をまだ伯爵と呼ぶということは、俺の爵位は国に奪われていなかったようだ。
「お父様、やめてください!」
クレアが止めに入る。
いや、危ないってば。
この人、本気で斬りに来てるからね?
クレアが自らが傷ついても構わないという勢いで割って入る。
危ないと思ったが、そこは公爵、だてに剣聖とは呼ばれていない。
公爵はクレアを傷付けることなく剣を収めた。
「ふん、魔導士のくせにやりおるわ」
どうやら俺の剣の腕は合格らしい。
この後、俺たちは応接室に連れて行かれた。
公爵が正面のソファーに腰掛け、その対面に俺、そして何故か俺の右隣にクレアが座った。
左隣にはタマを抱っこしたシーラが座る。
良いのかこれで?
公爵もチラチラとシーラを気にしている。
そして徐に公爵が口を開いた。
「もしや、そのエルフがジェイクが手に入れたかったエルフか?」
そういや、そんな話があったな。
ジェイクはエルズバーグからエルフを奪いたかったと。
そして、俺はエルズバーグからエルフを譲り受けた。
あれ? そういうこと?
「ジェイクの思惑など知り様もありません」
「そうだな」
エイベル公爵があっさり引く。
まあ、その件はどうでも良いんだろう。
「して、シュタイナー伯は、我が娘を嫁に欲しいと?」
え? そこまで言ってたっけ?
まさか、クレアが勝手に進めていた?
俺は慌てる素振りを見せずにクレアの様子を伺った。
そこには、にっこり肯定しているクレアが居た。
こいつ、やりやがったな。
これは否定できない状況。
違うと言いようものなら、
「はい、クレア嬢の魔、いえ魅力にぞっこんです」
危ねー。魔力と言いそうになったわ。
クレアの魔力は吸っていて心地よい、それは間違いない。
「そうか、悔しいがシュタイナー伯ならば、釣り合いもとれておる。
剣の腕も同格だし、我が家の事情もある。
この結婚、認めよう」
ん? 家の事情? なんだそれは?
家のためには、クレアが嫁いだ方が良いという話なのか?
そういやクレアは追い出される様に冒険者になったとか。
だが、そんな事情に構ってはいられない。
公爵の目が俺の吐く台詞を待っている。
その台詞は1つしかない。
「有難き幸せ」
こうして俺とクレアの婚姻が決まった。
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