第23話 大事になる
「それにこの感覚……快感っ♡」
シーラは俺に魔力を吸われることに快感を覚えている。
本来は、皮膚から魔力を吸われることには若干の苦痛を伴う。
粘膜接触の時のクレアもそうだが、シーラはなぜか性的な興奮を伴っているようだ。
生粋のM――いや、魔力タンク適性だといえるだろう。
「私からも吸わないと許さないからっ!」
嫁の立場が侵されそうになった危機感だろうか?
クレアも魔力を吸って欲しいと言ってきた。
俺は両手で2人の女性から魔力を吸った。
それにより吸収速度が倍速になる。
「マジか! 早く増やしておくんだった」
このような贅沢な状況、試してもいなかった。
タマの時は治療だったので、吸い切りが必要だったし、魔盾亀をテイムしてからは、常時タマの魔力で拘束しているので吸うわけにはいかなくなった。
そのため、2人同時に吸うということをしたことが無かった。
そもそも使える魔力タンクが2人になったことなど初めてなのではないか?
となると、クレアを手放すのは勿体ないな。
嫁として囲うのはやはり有りかもしれないな。
尤も、エイベル公爵激オコの件をなんとか回避してこそだが。
その怒りをアレスティン侯爵のクズ息子に擦り付けられれば良いのだが……。
◇
タマを寝かして、魔盾亀を護衛につけた。
良い子は睡眠が必要なのだ。
魔力もシーラのおかげで満タンなので、アレスティン侯爵軍の増援が来たとしても、タマの眠りを妨げることなく殲滅してやれるだろう。
そう構えていると、大軍の接近を探知した。
個々の位置やその敵意まで把握する【
言わずもがな、魔力の節約だ。
「ソルビー子爵の旗印です!」
外で監視していたエルズバーグ邸の警備員が叫ぶ。
それを聞いて俺とエルズバーグが正面玄関から外に出る。
やっと待ち人来たるだ。
「間違いありません、ソルビー子爵軍です!」
エルズバーグがソルビー子爵軍であることを確認した。
これは事前に打ち合わせていたことで、子爵軍の騎士と面識のあるエルズバーグの目で確認することにしていたのだ。
あのクズ弟ならば、他家に成りすまして襲撃するなど普通にやりかねないのだ。
「間違いないな?」
「ええ、ソルビー子爵ご本人がおります」
他家の私兵が領内に侵入した大事件だから、子爵本人が出張ったということだろう。
そこにはエイベル公爵令嬢クレアが巻き込まれているという事情も多少――いや、かなり含まれているのだろう。
「エルズバーグ、クレア嬢はご無事か!」
ソルビー子爵は開口一番そう言った。
エルズバーグの安否よりもそっちの方が大事だったと言ってるようなものだが、それはそれで好都合だ。
「ご無事です」
エルズバーグがそう伝えると、ソルビー子爵は安堵のため息をついた。
「どこの貴族家か知らんが、公爵令嬢を襲うとは……徹底的に追いこんでくれる!」
思惑通り。
この件、エイベル公爵を巻き込むことに成功したようだ。
「して、不届き者の軍は?」
「あちらに」
エルズバーグが指し示した先には、俺が雷撃で倒した100名あまりの兵士の遺体が横たえられていた。
その中にはうっかりものがいて、アレスティン侯爵家の関与を示す証拠を所持していることだろう。
アレスティン侯爵が俺に圧をかけるために、襲撃者に持たせていた痕跡が役に立ったわ。
証拠の捏造だって?
手続きの簡略化と言ってくれ。
襲撃者の身元を調べる手間が省けただけだ。
「この数を倒しきったのか?」
一戦交える覚悟のソルビー子爵には悪いが、子爵には
それに、証拠となる100名の遺体を運ぶのには、子爵が率いて来た大軍が打って付けだろう。
後は証拠を添えて、王家に訴え出ることになるだろう。
クズ弟は子爵家だと思って舐めているんだろうが、襲撃現場に
「それと暗殺者が1人。
我が家の警備員が毒ナイフで殉職しております」
「なんと暗殺者とは!
標的はクレア嬢だったのですな?」
「よくわかりませんが、その可能性は否定できません」
打ち合せ通り、エルズバーグがターゲットを濁す。
そうした方がアレスティン侯爵家の心象が悪くなるからだ。
◇
この後、エイベル公爵とソルビー子爵の連名で王家に訴状が提出されることになった。
罪状はソルビー子爵領への越境襲撃、しかも公爵令嬢殺害未遂の嫌疑だった。
主犯はアレスティン侯爵家次男ジェイク――長男が亡くなっているので跡取り息子になる――とされ、アレスティン侯爵は知らぬ存ぜぬで家の関与を否定、ジェイクを廃嫡しトカゲの尻尾切りで差し出した。
ジェイク本人は、エルフを手に入れたかったなどと戯言をのたまったそうだが、軍隊規模の兵を動かし隣領を襲撃したこと、そこに公爵令嬢が居て暗殺者に狙われたことが決定的となり、ジェイクは死罪となった。
廃嫡され一般市民扱いになったことが、刑の重さを変えた。
尤も、廃嫡していなければ、侯爵家が重い処罰を受けたことだろう。
エルズバーグが被害者ならば、金を払って形ばかりの謝罪で終わるところだった。
そこに
クズ弟め、ざまぁ。
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