第19話 全て計画通りかよ

「こいつが襲撃の黒幕だな。

隣はテイマーのようだな。

となるとブラックウルフの群もこいつらの仕業だったか」


 黒幕とみられる男は、いかにも商人という恰好で、こんな荒事の現場にいるような人物ではなかった。

そして隣の男は、悪徳テイマーにありがちな鞭を装備していた。

魔物と信頼関係ではなく恐怖で縛るテイマーは鞭を使いがちなのだ。


「!」


 エルズバーグが息を呑むのが見えた。

たぶん、黒幕に心当たりがあったのだろう。


 その黒幕の周りには冒険者風の盗賊。

まあ、冒険者と盗賊なんて装備が若干綺麗かどうかぐらいしか見分けが付かない。

この盗賊は見栄えが良い感じなだけの話だ。

そして俺は何気なくその麻痺して倒れている盗賊も、他と同じように殺そうと剣を向けた。


「ちょっと待ってください!

そいつは護衛に雇った・・・・・・冒険者です!」


 そんな冒険者が黒幕の周囲に5人倒れていた。

ああ、最初から全員グルだったということか。

ブラックウルフもヤラセ、護衛もせずに逃げる冒険者も仕込み、そしてそれでも殺せなかったから盗賊団でトドメか。


「全て計画通りの襲撃だったということだな。

となると、黒幕こいつはエルズバーグの知り合いってことだな?」


 俺は黒幕と思われる男に顎をしゃくって、エルズバーグに訊ねた。


「はい、うちの本店の大番頭です。

本店の留守を任せたはずだったのですが……」


「大方、馬車の用意も護衛の冒険者を連れて来たのもこいつか」


 派手な馬車も、よくよく考えればおかしい。

盗賊に狙ってくださいと言っているようなものだ。

それに乗るエルズバーグも普通の感性じゃないな。


「はい、馬車はおかしいとは思ったのですが、頑丈で安心だということで……」


 なるほど、大番頭を信頼してたんだな。

だが、これは簡単に言うと店の乗っ取りだぞ。

嫌だねぇ、主人を殺して大番頭が後を継ぐって計画かよ。


「そうだったんだ、恐ろしい話だわ」


 残念さんは、いまやっと理解したのか!

ずっと、わかってるフリだったのかよ!


「まあ、無事で良かったよ」


「ケイン様には何から何まで助けていただきました。

この御恩、一生忘れません」


 おお、棚ボタで有力そうな商人と知己を得たぞ。


「クレア、こいつらは装備を剥いできつく縛れ。

装備は?」


 エルズバーグが頷く。

好きにして良いという意味だ。


「貰って良いそうだ。

俺のアイテムバッグに入れろ。

それとちょっと吸わせろ」


「はい♡」


「人前だ。 腕で良い」


 なんで尻を向けるかな、この残念さんは!

人前で尻穴を使えるわけないじゃないか!


「【魔力ドレイン】、【沈黙サイレント】、【睡眠スリープ】」


 俺はクレアの腕から魔力を吸うと、黒幕、テイマー、冒険者5人に沈黙と睡眠の魔法をかけた。

このまま領都まで大人しくしてもらうためだ。


「【浮遊フロート】」


 そして、その7人を浮かせて荷馬車に放り込んだ。


「事件の証言者は必要だからな。

それと冒険者はギルドの処分も上乗せさせてやろう」


 依頼主を売るような冒険者はギルドを追放処分のうえ罪を償わせないとな。


「何から何までありがとうございます」


「気にするな。

護衛の臨時依頼の料金のうちだ」


 盗賊団の死体には賞金もつくだろうしな。


 ◇


 馬車がソルビー子爵領の領都ソレイスに辿り着いた。

エルズバーグはこの街の顔らしく、門をフリーパスだった。

だが、俺たちには襲撃者を引き渡さなければならない。

エルズバーグが衛兵に顛末を伝えると、慌てた騎馬が2頭走り出した。

おそらく領主の元と冒険者ギルドの元が目的地だ。


 ソルビー子爵領での事件だから当然ソルビー子爵が裁くことになるし、共犯が冒険者ならば冒険者ギルドにも影響がある。


「盗賊はどこだ?」


 衛兵詰め所から、衛兵隊長だろう人物が出て来て訊ねた。

どうやらもう1つ、衛兵が駆け込んだ場所があったようだ。


「ここだ」


 俺はエルズバーグから借りたマジックバッグを叩いて示した。


「全員死体か」


「盗賊が23人、冒険者5人、テイマー1人、商人1人だ。

盗賊以外の7人は生かして荷馬車に放り込んである」


「そうか。

生きてる奴らはこちらで引き取ろう。

おい、襲撃者を牢に入れろ」


 衛兵隊長がてきぱきと指示をだし、なぜか俺に向き合った。


「すまないが、死体はこの奥の広場に出してくれ」


「アイテムバッグは使用者特定されていないものです。

どうぞそのまま渡してください」


 エルズバーグがアイテムバッグをそのまま渡して良いと言う。

たしかにその方が面倒じゃない。

この領都を拠点にしているエルズバーグならば、後でアイテムバッグを返してもらえば良いだけだ。

衛兵隊長も俺の持ち物だと思って、死体を出せと言ったっぽい。


「助かる」


 衛兵隊長がエルズバーグに礼を言って、俺とクレア(タマは眼中になし)は解放された。

エルズバーグは、この後領主と冒険者ギルドマスターに事情を訊かれることになるそうだ。


「ケイン様、御者と一緒に店まで行っていてください。

マルコ、屋敷に部屋を用意するように伝えなさい」


「助かる」


 どうやら、今日の宿代は要らないようだ。

エルズバーグからは緊急依頼の報酬も貰わないとならないしな。

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