第18話 意思疎通がおかしいぞ

「なんて送ったんだ?」


「会わせたいひとがいる。

今から一緒に帰るって送ったわ」


 俺だという言及は無いんだな?

魔法手紙が長文を送れなくて助かった。


「あ、返事が来たわよ?」


「どんな内容だ?」


「『どんな男だ?』だって」


「よし、絶対に変な返信をするなよ?」


 ここで面会を止めて旅に出ればとりあえずは命永らえることが出来る。

俺だってバレてないし、追われる心配も無いしな。


「うーん、『その男を殺す!』だって。てへ」


 テヘじゃねーよ。

何を返信したら、そうなるんだよ!


「おまえ、なんて返信したんだよ?」


「子連れの男性?」


 確かにタマと一緒だから間違ってはいない。

だが……。


「言い方!」


 それではシングルファザーが若い娘に手を出したように聞こえるだろうが!


「だいたい俺はアレスティン侯爵に命を狙われてるから、そっちには直ぐには行けないんだからな?」


「『犯罪者なのか?』だって」


 送ったのかよ!

説明すると長くなるな。

仕方ない。

アレスティン侯爵の名が伝わったからには、ここで逃げたらアレスティン侯爵にエイベル公爵から問い合わせが行く。

残念さんはなんてことをしてくれたんだよ。

ここは俺の正体を知らせてでも向こうから断って貰おう。


「俺の名前を伝えろ。

魔力回復量0の魔導士だって」


「あ、『直ぐに連れて来い』って言ってるわ」


「それって、どっち目的だよ」


 俺を殺すため? それとも真面目な話で会うため?


「『アレスティン侯爵には手を出させない』だって」


 どうやら会うためらしいな。

ここは会わないわけにはいかないか。

残念さんを通すと誤解が広がりまくるからな!


 ◇


 さすがにアレスティン侯爵領は危険なので、エイベル公爵領までは迂回して向かうことにした。

タマもいるし、危険は冒せない。

俺たちはいま、ソルビー子爵領の領都ソレイスに向かっている。

ソルビー子爵はエイベル公爵派閥なので安心ということだったからだ。

クレアも子爵と面識があるらしく、アレスティン侯爵領を通るよりも安全なことは間違いない。


「いやー、助かりました。

それにしてもお子様連れで徒歩とは大変でしたね」


 俺たちの目の前で馬車に揺れているのは、ここらで商人をしているエルズバーグという中年男だった。

ブラックウルフの群に襲われているところを助けたところ馬車に乗せてくれたのだ。

護衛の冒険者はさっさと逃げたそうだ。

それで感謝されているというところだ。


 エルズバーグの馬車は2台で、商品を積んだ荷馬車と本人が乗る箱馬車で移動していた。

箱馬車は高級な仕様で、なかなかの財力があると見える。

これはお礼に期待が出来るな。


「旦那様、盗賊です!

前を塞がれました!」


 御者をしている使用人が箱馬車の壁にある小窓を開けて伝えて来た。

魔物に盗賊が連続で襲って来るって、エルズバーグは運が悪いのか、それとも狙われているのかどちらかだろう。


「ケイン様、クレア様、お願いします」


 護衛の冒険者が逃げたので、俺たちが護衛役というところだ。

俺の魔力補充は満タン。

タマとエルズバーグが乗る馬車にはタマの抱えている小さくなった魔盾亀が防御壁を張る。


「【広域探知マルチサーチ】」


 馬車の中からの探知には盗賊の反応が30人ある。

変な反応もあるが、まとめて倒しても問題無いだろう。

俺は馬車から顔を出すと降りる前に即魔法を発動した。


「【照準固定ロックオン】【麻痺スタン】」


 俺は変な反応が気になったので、全員を麻痺させることにした。


 道に広がって馬車を囲んでいた盗賊たちが麻痺によりバタバタと倒れる。

俺は振り返って箱馬車の中のエルズバーグに訊ねた。


「変な奴がいる。

たぶん、あなたを襲わせた黒幕だ。

見に行くか?

あと、倒れている盗賊は殺しておくか?」


 俺の問いかけにエルズバーグは口をポカンと開けていたが、暫くして頷いた。

馬車を降りる前に全て終わったのだから驚くのも仕方ない。


「行きましょう。

盗賊は生死を問いません。

面倒なので殺しておいてください。

死体はこちらに」


 エルズバーグは、そう言うとアイテムバッグを差し出した。

盗賊の死体をアイテムバッグに入れろということだ。

たしかに盗賊を縛って歩かせ街まで連れて行くよりも、殺してアイテムバッグに入れれば簡単に運べる。

この世界、人の命は軽い。

盗賊など、犯行=死刑なのだ。


 麻痺した盗賊をサクっとやりつつアイテムバッグに入れていく。

これは後で警備所に持って行って賞金首かどうかを調べるためだ。

そして、例の変な反応だった奴のところに辿り着いた。

盗賊ではない存在、おそらく襲撃を依頼した黒幕だ。

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