第17話 切裂き魔だった

 地雷を踏んだ後で回避する方法は、地雷に気付かれないように足を外すか、地雷にまだ踏んでいると思わせながら足を外すことだ。

あ、地雷とは踏んだ後に足をあげると自爆する小さな魔物の事だ。

その爆発音が地面から雷が発生したかと思うほどなので、地雷と呼ばれている。

転じて、踏んではいけないものを踏んでしまった時に「地雷を踏んだ」と例える。


 クレアと粘膜接触してしまったことは、まさに地雷を踏んだ状態だった。

いかに被害を受けずに回避するか?

俺はその事に頭を悩ますことになった。

とにかく、クレアの父親――切り裂き魔の剣聖と会うのは止めだ。

死に繋がる未来しか見えない。


「さあ、私の父に会いにエイベル領に向かいましょう♡」


 クレアは俺に貞操を奪われたと、結婚する気満々だ。

それはまあ良い、いや、良くはないんだが……クレアは残念さんだが美人なので悪い気はしないんだよな。

結婚するという結論に関しては、魔力タンクが終生傍らに居るということで悪いものではない。

問題はクレアの父親である剣聖にある。

なんとか会わないようにしたい。

それが地雷を爆発させないための唯一の道だ。


「ん? エイベル領?

ちょっと待て、クレアの父親はエイベル公爵なのか?」


 嘘だろ。

公爵と言えば、王家の血筋だ。

え? クレアって王位継承権持ち?

そんなお姫様が、なんで冒険者やってるんだよ!

継承権争いだとしても、男が優先されて女性はその後になるって言うよな?

王家や公爵家に男児が生まれれば、年下であっても女性の順位の上に入ってくる。

そんな存在を歯牙にかける必要もない。


「そうよ。

あまり帰りたくはないんだけど、父も兄弟も結婚となれば歓迎してくれるはずよ」


 そうか、結婚すれば継承権が無くなる。

それはエイベル公爵家にとっては歓迎すべきことなのか。

ん? クレアも帰りたくはない?

そこは利用できるかもな。


「帰りたくないのであれば、無理に帰らなくても良いだろう。

このままの関係で過ごしていつか報告すれば良い」


 クレアの方から愛想をつかされるかもしれないしな。

いや、それを狙うのも有りか。

クレアが俺を嫌って自ら去ってくれるのならば有難い。


「こういったことは、きちんとしないとだめよ」


 なんでだよ?

命を賭ける必要なんてないだろう。


「さっき、会ってくれるって言ったわよね?」


「それは公爵家で剣聖だって知らなかったからだろ?

俺は斬り殺されるかもしれないんだぞ?」


「え? ケインならば、勝てるわよね?」


「剣聖を相手なんて出来るか!」


「そうかなぁ?」


 なんだその確信した表情は?

確かに魔法を使えれば勝てるだろうが、威力が有り過ぎてクレアの父親を殺しちゃうからね?

さすがに剣で剣聖に勝つなんて出来ないしな。


「うーん、どうしても駄目かな?」


「まだ早いだろ。

それと、俺には片付けないとならないことがある。

ほら、エイベル公爵領に行くにはアレスティン侯爵領を通る必要があるだろ?」


「アレスティン侯爵?」


「俺たちを襲わせた連中の親玉だ」


 クレアは「ああ、あれか」と今思い出したという表情をする


「それならば、父に言ってどうにかしてもらえば良いわよ。

私も襲われたって言えば……それと私が剣を捨てれば大丈夫だから」


 おい、急に暗い表情になったな?

それに剣を捨てるって何のことだ?

もしかして、クレアが家を出た理由が剣に関わることなのか?

剣聖の家だというし、そこに何かあったのは間違いないな。


「クレア、捨てられるのか? 剣を。

剣が大事だから公爵家の姫が冒険者なんてやってるんじゃないのか?」


 当てずっぽうだ。

クレアが道楽で冒険者をやっているのではないのは、その稼ぎの状況から判る。

俺の変な依頼に飛びつくなんて、よほど切羽詰まっていたからだろう。

公爵家からの援助もなく冒険者をやっていて、剣を捨てれば家に帰って歓迎される。

つまり、剣が大事だからこそ家を出たって推測をしたわけだ。


「大事だけど……」


「そんな大事なものを俺のために捨てるなよ!」


 決まったーーーーっ!!!


「ケイン!」


 クレアが感動の表情を俺に向けて来る。

家に帰らなくても、剣を捨てなくても大丈夫だ。

さあ、俺のために家への結婚報告を無かったことにするんだ!


「このまま冒険をして、満足いくまで剣を極めたら公爵に会いに行こう」


「うん♡」


 やったぜ。

これでクレアの貞操を穢した件は先送り出来たな。

さすが残念さん、チョロいぜ。


「だけど魔法手紙だけは送っておいたからね」


「は?」


 魔法手紙とは、親しい間でやり取りできる手紙の転送魔法だ。

お互いに魔導具を持っていれば手紙をやり取り出来るのだ。


「いつの間に?」


「さっき会ってくれるって言った後よ?」


「おおい!」


 いつもまにか外堀が埋められていた。

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