第14話 ドラゴン1
高価な魔導具を失ったからか、あれから襲撃は起きていない。
さすがにドラゴンの生息域までは追って来なかったのだろう。
「ここからは俺1人で行く。
クレアはタマを守ってやってくれ。
また襲撃されかねないからな」
「わかったわ」
「いやなのー」
タマがぐずる。
俺と離れたくないのだろう。
「タマ、必ず帰る。
ここからはタマが危険なんだ。
だからクレアと待っていてくれ」
俺はタマの頭を撫でて真剣に説得をする。
「うー、わかった。必ず帰って来てね」
「ああ」
タマのためにも失敗するわけにはいかないな。
「クレア、もう1度魔力を吸う」
「どうぞ」
クレアも魔力を吸われるのを躊躇わなくなった。
今回は特別だから、少し我慢して欲しい。
「【オーバードライブ】【魔力ドレイン】」
俺は自らを活性化する魔法【オーバードライブ】をかけた。
これにより、俺の身体能力は爆発的に上がり、その分魔力保持量も跳ね上がるのだ。
今までならば、吸っても漏れてしまっていた魔力が、これにより今までの倍以上保持できる。
ただし、これは時間制限付きの切り札だ。
ここぞという時にしか使うことは出来ない。
ドラゴンを相手にする今だからこその使いどころなのだ。
俺はドラゴンが住むという洞窟に分け入った。
「いるな」
洞窟は然程深くなく、ただのドラゴンの寝床だった。
ドラゴンといえばダンジョン最下層にいるイメージがあるだろうが、ここはダンジョンではなく、ただの穴だった。
俺は隠蔽魔法をかけてドラゴンに接近する。
今回の仕事はドラゴンの素材採集。
ドラゴンを倒さなくても素材さえ手に入れば良いのだ。
俺が欲しい素材は、まさにドラゴンの寝床には普通に落ちているものだった。
「(あった、ドラゴンの鱗だ。 このまま持ち帰ればクエスト終了だ)」
だが、その時、予期せぬことが起きてしまった。
「ケイン、どこに居るの?
敵が襲ってきて大変なの!」
洞窟の入口にクレアとタマがいた。
クレアとタマは襲撃者に襲われ、このドラゴンの巣穴まで誘導されてしまったのだ。
さすがのクレアも数で押され、逃げる道を制限され、知らず知らずうちに、この最悪の危険地帯に誘導されたのだろう。
「(なるほど、俺たちをドラゴンに始末させるつもりか)」
そうなると、依頼自体が怪しく思えて来る。
俺をここに来させるために、依頼を出した可能性がある。
「(だから、追って来れたのか)」
ぎゅぎゃおー----ん
ドラゴンが咆哮した。
俺がみつかったのではなく、クレアたちがみつかったのだ。
俺はとりあえず依頼品のドラゴンの鱗をアイテムバッグに入れ、クレアたちの救助に向かうことにした。
「こっちだ! ドラゴンよ。
俺たちは出て行く、眠りを妨げてすまなかった」
ドラゴンは高位の生物のため、人語を理解することが多々ある。
そのためあえて語り掛けたのだ。
だが、その時。
ヒュン、スドー------ン!
何処からかファイアボールが飛んで来てドラゴンに当たった。
ドラゴンにファイアボールなんか効くわけがない。
これは明らかに誰かによる挑発だった。
案の定、ドラゴンは怒り狂い、説得など通じる状態ではなくなってしまった。
俺だけならば逃げることは可能だが、タマとクレアが危険だ。
必ず帰ると約束した。命を守ると約束した。
久しぶりに本気になる時が来たようだ。
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