第12話 後始末

 日課であり治療でもあるタマからの魔力ドレインを、周囲を警戒しつつ行なう。

なぜか居付いている魔盾亀により、弱い魔物は寄って来ないが、血の臭いに誘われた捕食者や、賊の残党がやって来ないとも限らないのだ。


「これで良し」


「ありがとうなのです」


 俺が利用しているようなものだが、その結果が治療となっているタマは、いつも俺に礼を言う。

それがこそばゆく、いつまでも守ってやらないとという感情と、俺と一緒に居ればまた命を狙われるかもというジレンマに陥っていた。

だが、俺以外にタマの治療を行なえる者がいない。

もちつもたれつで、俺は今後もタマと一緒にいることになるのだろう。


「となると……。

クレア、日給銀貨1枚に値上げだ。

いざという時はタマを守ってやってくれ」


「お安い御用だ」


 タマから魔力を得ているため、クレアからはいつもの2/3ほどしか魔力を吸わなくてもよくなっている。

その分も含めてタマの護衛として頑張ってもらおう。

なぜかクレアは一緒に旅を続けるつもりらしいしな。

だが、それが今は有難い。


「さてと、魔力も回復したし、やることをやらないとな。

【ホール】【ホール】【ホール】」


 俺は土魔法の初級魔法【ホール】を連発し穴を掘った。

中級魔法を使えば一度にもっと大きく深い穴も掘れるが、魔力の節約と、使う用途としてこれで充分だったからだ。


「クレア、こいつらを穴に放り込んでくれ」


「タマも手伝うのです」


「ああ、タマは汚れるからやらなくて良いぞ。

そっちの狐の魔物をアイテムバッグに入れてくれ」


「わかったですの」


 タマには俺が倒した火狐をアイテムバッグに入れてもらう。

アイテムバッグは、対象物に口をかざせば中に収納されるので、手が汚れることはない。

火狐はあとでギルドに持ち込んで換金するのだ。

レア種なので、高く売れるだろう。


「クレア、手を汚す必要は無い。蹴って良いからな」


「それにはちょっと忌避感があるなぁ」


 クレアは先程も殺して良い賊に止めをささずに戦闘力を奪うに留めていた。

殺そうと襲って来た相手を返り討ちにしても良いのは、この世界では当然の権利だ。

そこらへんに躊躇いがあるのは、後で俺たちにとって不利益になるかもしれない。

ちょっと釘を刺しておくか。丁度よいやつもいるしな。


「その躊躇いが、タマを傷つける結果になったらどうするつもりだ?

たとえば、こいつみたいに死んだふりをして襲おうとしていたら?」


 俺はその男の顔を蹴り飛ばし、剣で首筋を刺した。


「グハッ!」


 この男、心臓を一突きにしたにもかかわらず生きていた。

どうやら、スキルか何らかの魔導具を使ったようだ。

クレアがその男が手にしていた大ぶりなナイフを見て顔を青くする。

息をひそめ死んだふりをし、俺たちを殺そうと身構えていたのだから。


 俺は情け容赦なく、血の流れる首を必死に抑えている男をそのまま穴に蹴り込む。


「これが現実なんだよね……。

タマちゃんが襲われると思えば、こんなやつら!」


 クレアが思いっきり死体に蹴りを入れて穴に落とした。

どうやら理解出来たらしい。

いまここに横たわるのは弔うべき遺体ではなく、俺たちを襲い殺そうとした賊の残した遺物なのだ。


「よし、少し離れろ。

【クリエイトフュエル】【ファイアボール】」


 燃料創出の魔法とファイアボールで穴の中の物体を焼く。

これも魔力を節約し効率良く大火力を得るための魔法の組み合わせだ。

こんな魔力貧乏くさいことをするのは俺だけだろうけどな。


 このように処理しないと、死体はゾンビやグールと化す。

その前に血肉を欲した魔物に襲われ、巻き込まれる危険性も高い。

夜も更けつつあるこの場を、今から離れるのは現実的ではない。

ならば、もろもろの処理をして、野営を続けなければならないということだった。


「【クリーン】。よし粗方片付いたな」


 残った血やもろものの汚物をクリーンで綺麗にする。

まだこの場で野営を続けなければならないのだ。


「この魔物はどうするつもり?」


 クレアが示したのは、魔盾亀だった。

テイマーが死んで解放されたにも関わらずここに残っていたのだ。


「亀さん、大人しいのです」


 タマがペットにして良い? という感じのキラキラした目で見つめて来る。


「テイム出来なければ連れて行けないんだからな?」


 俺はそう一言念押しした。

これはテイム出来ないことを前提にした一言だ。

テイム出来なかったから諦めようというパターンだ。


「だいたい、こいつは大きすぎなんだよな」


 そう言いながら魔盾亀に手を当てる。

さすが魔盾亀、魔力の通りが悪い。

そこで俺は悪戯心が湧いて来て、魔力を吸ってみた。


「【魔力ドレイン】」


 なんと、魔力を弾くことには定評のある魔盾亀は、魔力を吸われることには無防備だった。


「え? 吸えるの?」


 魔物の魔力はそのままでは使えないため、魔力変換しながら吸うこととなる。

その魔力も魔盾亀からの魔力で補えてしまった。

これってなかなか良い魔力タンクだぞ。

ちょっと真剣にテイムしてみるか。


「【テイム】!」


 俺が吸った魔盾亀の魔力に乗せて、魔物使役魔法が魔盾亀に届く。

どうやら魔盾亀自身の魔力に乗った使役魔法は、弾かれずに通ってしまったようだ。


『魔盾亀をテイムしました。

魔盾亀が待機モードを要求しています』


「待機モード?」


『許可しますか?』


「ああ」


 システムメッセージが訳の分からないことを言っているがまあ良いだろう。

俺はその待機モードの許可を出した。

すると魔盾亀は全長8m程から20cmぐらいまで小さくなった。


『テイムした魔物はマスターとパスが繋がり、魔力を継続譲渡しなければなりません。

そのマスターにあなたおよび隷属者が選択可能です。

誰を選択しますか?』


 魔力回復量0の俺から魔力を継続譲渡なんて無理に決まってるだろ。

だが、これってタマを選択して魔力を継続譲渡すれば、タマの治療で俺が魔力を吸わなくても良くなるのではないか?


「タマで」


『隷属者タマをマスター登録しました』


 まさかタマに諦めさせるための建前目的のテイムで、魔盾亀をテイム出来てしまうとは。

しかもタマにパスを繋げることで、タマの魔力過剰症の自動治療となる一石二鳥。

いや、問題が1つある。

タマの魔力過剰症の治療が必要なくなれば、クレアから魔力を吸わなければならない。

となるとタマを買って来た意味が……いや、タマの命を助けられたことに意味がないはずがない。


「タマ、この亀はタマとパスが繋がった。

しっかり面倒をみるんだぞ」


「わかったですの」


 小さくなった魔盾亀を抱えてタマがとびっきりの笑顔を見せる。

その笑顔にやられ、これだけでも良かったと思える俺がそこにいた。

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