第11話 魔物4体を倒すには

 魔物は4体。

魔盾亀マタテタートル炎狐ファイアーフォックス氷虎アイスタイガー風狼ウインドウルフ、どれも魔法耐性が高い奴だ。

俺に魔法を連発させて魔力を枯渇させて仕留めようという魂胆だろう。

魔力タンクを同行させて魔力を吸いながら戦えば苦戦することもない雑魚だ。

だが、今の俺は結界魔法を使ったばかりで魔力に余裕がない。

クレアとタマとも分断された。

魔法で戦うのは事実上無理だろう。


「おや? どうやら魔力を補充しそこねたようですね?」


 テイマーと思われる茶ローブの男がニヤリと口を三日月形にする。


「それがどうした?」


「ここは好機なようですね。

さあ、やってしまいなさい!」


 テイマーの男は魔物を俺にけしかけた。

良かった。こいつらにタマとクレアの方に行かれなくて。

しかし、この男、気付いていないのか?

まあ、良い。


 俺は剣を構えると、炎狐ファイアーフォックスに向かう。


「は? 魔法は?」


 テイマーの男は素っ頓狂な声を上げる。

魔導士の俺が剣で向かって来るとは思っていなかったのだろう。

そして、遠巻きに囲んでいた魔物たちは、炎狐ファイアーフォックスの懐に俺が潜り込んだことでフレンドリーファイアの危惧により攻撃出来なくなった。


 炎狐ファイアーフォックスも俺が遠距離から魔法を使うと思っていたのか、俺の動きに着いていけていない。


ザン!


 俺が袈裟懸けに剣を振り下ろすと、炎狐ファイアーフォックスは首筋を切られて倒れ伏した。


「ばかな! 魔導士がなんで剣を使える?」


 そりゃ修行したからだよ。

魔法が使えなければ剣で身を守るしかないじゃん。

そんなテイマーに俺はそのまま接近する。

炎狐ファイアーフォックスの真後ろにはテイマーが居たからだ。

俺の狙いは最初からテイマーだ。

炎狐ファイアーフォックスは邪魔だから斬ったにすぎない。


 残り3匹の魔物は基礎能力が高く、防御力もある。

倒せないことはないが、今はタマたちを助けることを優先しなければならない。

ならば、テイマーを倒せば良いというわけだ。

そのことにテイマーは気付いてなく、ノコノコと俺の前に出て来たのだ。


 俺は縮地を使って一気にテイマーへと接近する。


スパン!


 そしてその首を剣ではねた。


「そんな……」


 それがテイマーの最後の言葉だった。


 そして、テイマーを失った魔物はその契約が解かれることとなった。

つまり、それは野生の魔物が3匹になったということだった。

そこに敵味方は存在しない。 誰もがターゲットになり得る。

魔盾亀マタテタートルは、面倒臭そうにその場にしゃがみ込んだ。

風狼ウインドウルフは解放されたことを喜び、風となって去って行った。

そして氷虎アイスタイガーは……。

怒り狂ってこちらに突っ込んで来た。

飼い主のテイマーに情愛でもあったのだろうか?


 俺は身を守るために身構える。

氷虎アイスタイガーは口を大きく開き、その武器である牙を見せつけて来る。

そして、俺の横を素通りすると、テイマーの死体に貪りついた。

どうやら、テイマーは魔物たちから相当恨みを買っていたようだ。

テイマーはスキルで隷属化しただけで、魔物たちに好かれていたわけでは無かったのだ。

むしろ恨まれていた結果が、これなのだろう。

氷虎アイスタイガーは、一頻りテイマーを食うと、その残りを咥えて闇の中に去って行った。


「あの虎は強かったな」


 戦わないで済んで良かった。

だが、これで終わりではない。

タマを襲っている賊がまだいるのだ。


 そう思ってタマたちの方に向かうと……。

腕を切り落とされた賊たちが地面でのた打ち回っていた。


「ケイン、賊は退治しておいたわよ?」


「ご主人様、クレアがすごかったのです」


 どうやら、賊は全てクレアが倒したようだ。

あれ? クレアって残念さんだとばかり思っていたのに、剣の腕は優秀だったの?


 タマに褒められて、クレアが有頂天になっていた。


「クレア、タマを守ってくれてありがとうな」


 そう言いながら、俺は賊に止めを刺してまわった。

どうやらクレアに人は殺せないようだ。


 とりあえず、賊の死体を漁る。

まともな刺客ならば、身元を示す所持品は持っていないだろう。

だが、1人だけ、魔導具と身元に繋がる所持品を持っている者がいた。


 魔導具は、俺が張った結界を破壊した、結界破壊具ブレイカーという高価なものだった。

これを売ればひと財産だろう。

それを使うだけの財力が襲撃者の背後にいる人物にはあるということか。


 そして、もう一つ。

金糸も使われた豪華な布に縫い付けられた紋章、それはアレスティン家の紋章だった。


「やはり、やつらか」


 どうやらやつらは正体を隠す気もないようだ。

いや、いつまでも俺を狙っているぞという意思表示なのだろう。

アレスティン家。勇者とともに戦った俺の元同僚の生家、アレスティン侯爵家だ。

どうやらあの家は、やつの死の責任を俺に擦り付けたいらしい。


「冗談じゃない!」


 やつのせいで俺は魔力回復力を失い、勇者が帰らぬ人となったのだ。

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