第10話 襲撃1
Side:???
「やっと、あのケインの足取りを掴んだぞ」
「なんだと! どこだ?」
「ダラムだ」
「近いではないか!」
「どうやら、なんらかの理由で足止めをくらっているようだ」
「チャンスだ」
「積年の恨み、ここで晴らすとしよう」
「魔物は用意できているのだな?」
「ああ、飽和攻撃で、やつの魔力を空にしてやるのだ」
「魔法が使えなければ、魔導士など赤子同然」
「やつが地べたに這いつくばる姿、想像しただけでも顔が綻んでしまうな」
「それはそう遠くない現実だ。楽しみにするが良い」
◇
Side:ケイン
綺麗な服を着てニコニコのタマは獣人の基礎体力故か、早々に旅に出ることが出来るようになった。
とはいえ、俺の長距離移動に同行させるのは過酷だと思ったので、そこはクレアにおんぶさせることにした。
クレアはあれだけ俺が用無しアピールをしたのに、なぜかまだ旅に付いて来ているのだ。
魔力はタマの治療で吸っているので充分だ。
二人から吸えば良いと思うだろうが、残念なことに俺の身体はある一定以上の魔力は漏れ出して保持することが出来ない。
タマとクレアの二人から魔力を吸うことは可能だが、クレアから吸う2/3は無駄となってしまう。
まあ、魔法発動同時魔力吸収など回避手段はあるのだが、それは緊急回避に限られるし、その吸収効率から使える魔法も限られる。
他に手もあるにはあるのだが、さすがにそれを許してくれる魔力タンクはいないだろう。
その手段を男には使いたくないしな。
それらが俺が使える魔法の限界となっている。
「よし、今日はここで野営だ。
結界魔法をかけるぞ」
夜食の調理の前に結界魔法をかける。
これはタマに安心して料理をしてもらうためだ。
俺とクレアだけならば、料理をしながら多少の魔物の対処は可能なので、不安はないのだが、タマは夜の闇が恐いらしいのだ。
いつ魔物が襲って来るかわからない恐怖があるという。
タマには安心して料理を作って欲しいから、結界魔法は調理前となったのだ。
「ありがとうなのです」
俺の殺伐とした人生にタマは光を齎してくれたのかもしれない。
娘を持ったらこんな感じなのかもしれない。
「過保護なんじゃないの?」
クレアが言うのは昼のおんぶも含めての事だろう。
契約外のことなのに、文句ひとつ言わずにタマをおぶってくれたことに、俺はクレアを見直していた。
いや、クレアが居なければタマとの旅はもっとスローペースとなっていただろう。
今はむしろ、クレアに逃げられたら俺の方が困るかもしれない。
そう少し思い始めている俺がいた。
「黙れ、ちょっと魔力補充させろ」
俺がクレアの腕をとろうとすると、スルリとクレアが逃げやがった。
「きゃー、襲われるーっ」
誰が襲うか! 風呂に一緒に入っても襲ってないだろうが!
まあ良い。結界もあるし、ここらに出る魔物ぐらいは倒すだけの魔力は残っている。
クレアも疲れているだろうし、後でたっぷり吸ってやれば良いのだ。
いや、エロいことじゃないんだからね!
だが、この判断が後に俺たちを窮地に陥らせることとなる。
◇
タマの調理を手伝い、さっさと食事を作り3人で食べる。
魔力が吸えていない以外は、当たり前の野営の日常だった。
パリーーーン!
その団欒を邪魔をする者が現れた。
「結界が破壊されただと!?」
俺は剣を抜いて周囲を警戒した。
俺が張った結界の強度はここらに居る魔物では破壊できないはずだった。
テイムされた強力な魔物か、あるいは結界破壊の特殊な魔導具が使われたのだろう。
つまり、それは人の悪意が介在していることの証拠だった。
「タマ、こっちへ来い」
俺はタマを守るために呼び寄せようとした。
タマとクレアがお代わりで竈まで離れていたのだ。
まさか、その隙を狙われたのか?
魔力が惜しくて【探知】を常時発動出来ない弊害が出たな。
しくじった。さっき強引にでもクレアから魔力を吸っておけば良かった。
「あのガキが魔力タンクだ!
殺せ!」
グオーーー!!
賊の1人から声が上がる。
そして、それに呼応するように魔物の雄叫びが聞こえ、数人の賊と魔物が俺とタマの間に入る。
どうやら複数の人間と魔物による襲撃のようだ。
そして、奴らは俺が魔法を使うために魔力タンクが必要なことを知っている。
何処かで俺が恨みを買ったやつらか?
「クレア! タマを守れ」
幸い、タマの傍にはクレアが居た。
タマはクレアに守ってもらうしかない。
「わかった。
賊どもめ! 食事の時間を邪魔するとは許さないからね!」
そこかい。
安定のズレた感じに、俺はなぜか安堵を覚えた。
さて、魔物だけでも俺が倒さなければ危ないかな?
魔法は……。早く合流するべきだな。
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