第7話 治療2

「施術を始める」


「はい」


 なぜかクレアが良い返事をする。

しかもシャツの前をはだけて胸を出している――勘違いしてはいけないがブラはしている――のだ。

かなりシュールな絵になっている。

ベッドにタマが横になり、その足元にクレアが座っている。

その横に椅子を置いて俺が座る。

そしてクレアの左胸に左手を、やはりタマの左胸に右手を置いてスタンバイする。

魔結晶は左胸に出来やすい。

それは魔力の発生場所が心臓であると言われているからだ。


「【詳細探査】、【魔力ドレイン】」


 第1段階の魔法【詳細探査】を右手でかける。

かけている最中は魔力をゴリゴリと消費する。

それをクレアから左手の【魔力ドレイン】で補う。

使用魔力より吸収魔力が少ないため、俺の魔力残量が減っていく。


「よし、詳細探査終了だ。

良かった。心臓には癒着していない」


 これでタマの生存率は各段に上がった。


「【結界】!」


 第2段階の魔法、【結果】で魔結晶を包む。

先程詳細探査した内容で丁寧に行なう。


「ん、くっ♡」


 クレアが色っぽい声をあげた。

ちょっと強引に吸い過ぎたか?

反応がエロイな。


「よし、やるぞ。

【転移】!」


「あん♡」


 クレアのエロイ声と同時に俺の右手には魔結晶が出現していた。


「よし、最後の仕上げ【ヒール】!」


 これでなんとか助けることが……。


「ん? 様子がおかしい。

【詳細探査】!」


 タマの様子がおかしいので再度【詳細探査】をかける。

その結果……。


「しまった。血管の一部を巻き込んでいたのか!

【ヒール】では治しきれていない!」


 ここは【ハイヒール】、いや、欠損した血管を再生するには【エクストラヒール】が必要か。

俺の残存魔力は……。


「くそ、魔力が足りない。

クレアからの魔力吸収効率も悪すぎる」


 ここまでか。俺はタマの命も助けられないのか。

最盛期ならば、あの戦いの前ならば、こんな魔法100発使っても平気だったのに……。

落ちぶれたものだ。


「タマちゃんが危ないんですね?

そして魔力が足りないのに、私から吸う魔力の吸収効率が悪い」


「ああ」


「それならば、こうすれば良いんだよね?」


 そう言うとクレアは俺に顔を寄せキスをした。

粘膜接触は魔力吸収効率が上がる。

いや、吸収しながらの魔法行使が可能だ。

口が利ければな。

魔法には詠唱が、俺が使っている詠唱破棄ならば魔法名が必要だ。

それは口を塞がれていては使うことが出来ない。


 全盛期ならば、無詠唱魔法も使えたんだが……。

いや、ここは無理をしてでも無詠唱を使うところだ。

クレアにも無理をさせることになる。

だが、タマの命にはかえられない。

たかが大銀貨2枚の奴隷、そう言って諦めることも出来るかもしれないが、俺にはそれは無理だ。

この命、俺が助ける!

エクストラヒール!


 俺が無詠唱魔法を唱えると、タマの身体から眩い光が漏れ出した。

そして、タマは安らかな寝息をたてて眠っていた。


「う、くっ♡」


 クレアも俺から唇を離してベッドに横向きに倒れ込んだ。


「【詳細探査】!」


 まだ手を添えていた左手で、少しクレアの魔力を吸収してから【詳細探査】を発動させる。


「治ってる! 成功だ!」


 クレアも限界だった。

だが、おかげでタマを助けることが出来た。

俺はタマから過剰な魔力を少し吸って、クレアに魔力回復魔法をかけた。


「う、うーん」


 クレアが目を覚ます。


「はっ! タマちゃんは?」


 こいつ自分のことよりタマのことを心配するんだな。

それに、タマを救うためにあまり面識のない俺とキスまでするなんて、女性として嫌だったろうに。


「大丈夫だ。治療は成功した」


「ああ、良かった」


 こいつ、案外良い奴じゃん。

俺は見捨てようとしていたクレアに、少しばかりの愛着が芽生えたことを感じていた。

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