第6話 治療1

 マルセロの隷属魔法により隷属対象の書き換えが終わった。

これで猫獣人の女の子の購入手続きは終了だ。

しかし、猫獣人の女の子の健康状態は、思った以上に芳しくない。


「【クリーン】」


 そもそも病気になったのは、衛生状態が悪いからだろう。

そして栄養状態も悪そうだ。

13歳なのに見た目は10歳ぐらいに見える。

マルセロが損切りに入って病気の手当や食料までケチっていたのだろう。

そして一番の問題は魔力過剰症だ。

膨大な魔力を持っているにもかかわらず、それを消費する術を持っていないのだ。

同じく膨大な魔力を持つクレアは、勿体ないことに過剰な魔力を垂れ流すことが出来る。

なのでクレアは魔力過剰症を発症していないのだ。


 ◇


 俺は猫獣人の女の子を宿屋に連れて行った。


「一人追加だ。同じ部屋で良い」


「素泊まり大銅貨3枚、食事付きは朝晩で大銅貨1枚追加ね」


 ちょっと高い。同じ部屋ならば、もう少し安いはずだ。


「食事は病人食になるか?」


「やっぱり病気なのかい?」


 宿の女将が嫌そうな顔をする。

宿に病気を持ち込まれたくないということだろう。

まあ、その気持ちはわかるが、気分は良くない。


「俺が治療して、部屋にも【クリーン】をかける。

問題があるか?」


 俺はちょっとイラッと来て声に不機嫌さが出てしまう。

ちょっと威圧が入っていたかもしれない。


「それなら良いんですよ。それなら。

心配ですねぇ」


 俺が声に不機嫌さを表すと、女将は態度を豹変させて猫なで声で応じた。

尤も、俺が部屋に【クリーン】をかけると言ったからこそなのだろうが。

宿としても病気を蔓延させられるわけにはいかないだろう。

そこは気にして当然ではある。だが気に食わない対応だ。


「ならば病人食を頼むぞ」


「わかりました」


 俺はそのまま2階の俺の部屋に猫獣人の女の子を連れ込んだ。


「その子はどうしたんですか?」


 ぐったりした猫獣人の女の子を連れ帰ったため、クレアが驚きの声をあげる。

クレアは座っていたベッドから立ち上がると、そこへ猫獣人の女の子を寝かせるように促して来た。

この部屋にはベッドが2つしかないからだ。

つまり、先程の宿賃はボッタクリだ。

病気の迷惑料だと我慢したのだが、女将が嫌そうな顔をしたため、ちょっと声に威圧が乗ってしまったのだ。


「まさか誘拐!?」


 クレアが俺をロリコン犯罪者かのような目で見る。


「違うわ! 奴隷を買って来たんだよ!」


 その意味はクレアが用済みだってことになる。

可哀想だが、ここでお別れだとクレア本人も察することになるだろう。


「まさか、そんな趣味だったんだ……。

引くわー。

だから私と同衾しても襲って来な「違うわ!」」


 どうやら、こいつは俺をロリコンにしたいようだな。

確かにこの子の見た目は10歳ぐらいに見えるかもしれないが、実年齢は13歳だぞ?

13歳ならば丁稚奉公に出ても良い年齢ではないか!

はっきり「お前は用済み」と言ってやりたいが、これから魔力を使わざるを得ない。

クレアがいなくなったとしても、猫獣人の女の子が治ってから魔力を吸おうかと思っていたが、クレアから吸った方が良いに決まっている。

弱っている猫獣人の女の子から吸うのはいたたまれないからな。


 それにしても、いちいち猫獣人の女の子呼びは面倒だな。

よし、今からこの子は仮称タマだ。

奴隷は元の名前は呼んで欲しくないというのがあるらしい。

本名はステータスで知っているが、その名を呼ぶのは本人の希望を訊いてからの方が良いだろう。


「タマの病気を治す。手伝え」


「タマちゃんっていう名前なの?

可愛い名前だね~♪」


 いや、仮称だから。

まあ、居なくなるやつに言っても仕方ないか。

今日分の日給は払っているんだ。

存分に魔力を吸わせてもらおう。


 タマの魔力過剰症は重度で、体内に魔結晶――魔物でいう魔石――が出来てしまっている。

このままでは死に至る。

俺の残存魔力では治しきれるか微妙なラインだ。

安全策をとって、クレアの魔力を吸うことにした。


「とりあえず【キュア】」


 俺が治癒魔法を唱えると、タマの全身を青色の光が包んだ。

これで治るのは感染症だけだ。

おそらく魔力過剰症で弱ったために見捨てられ、劣悪な環境に置かれたせいで発症したものだ。


「治ったんですか?」


 いや、それだったら手伝えって言わないよね?

クレアはまだ何も手伝ってないよね?

やはりこいつ、残念さんだ。


「いや、本番は魔力過剰症の治療だ。

【キュア】では治しきれない。

クレアには魔力ドレインで魔力の補充をしてもらう」


「わかったわ」


 魔力過剰症の治療は、魔結晶の除去と過剰な魔力の発散で行なう。

魔結晶を除去しても魔力が過剰な状態ならば、直ぐに再結晶化してしまうからだ。

魔力の発散は継続治療となるので、俺の魔力ドレインには好都合だ。

問題は魔結晶の除去だ。

へたに魔法で治療すると魔結晶が成長してしまう。

今も感染症治療の【キュア】で、命に別状がないレベルでの魔結晶の成長があった。

魔結晶を治療魔法で除去しようとすると、タマを死に至らしめることになりかねないのだ。


「今から手順を説明する。

【詳細探査】で魔結晶の位置や癒着の状態を把握する。

次に【結界】魔法で魔結晶を隔離する。

そして【転移】魔法で除去して終了だ」


「随分簡単なんだ」


 いやいや、結構高度な魔法てんこ盛りなんだからね?

クレアは何もわかってないようだが、ここで説明しても仕方ないだろう。


「だが、この治療には問題がある。

俺の魔力が足りない」


「そこで私の魔力を吸うんだ。

任せてっ!」


 クレアが自分の胸を叩いた。

任せろというポーズだろうが、さすがスタイル抜群。

その揺れる胸に思わず目が釘付けになる。

いや、そんなことをしている場合ではない。


「そう、それがクレアの役目だ。

今回は、魔力吸収効率が鍵となる。

出来れば心臓に近いところから吸わせてほしい」


 直接接触が必要だから背中に手をあてて吸わせてもらおう。


「わかったわ。

恥ずかしいけれど、タマちゃんの命がかかっているんですよね?

さあ、どうぞ」


 そう言うとクレアは着ていたシャツの前を大きくはだけた。

え? 前からですか? しかも直で?

背中からのつもりだったんだが……。

うん、間違ってるけど黙っておこうか。

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