第5話 奴隷を買う

 急遽予定を変更して街に寄ることにした。

このままでは俺の食料が尽きる。

あれからクレアには毎食食事をたかられているのだ。

携帯食料も持っていないなんて、何を考えているのだろうか。


「やっと街の宿屋に泊まれるわね♪」


 なんて能天気なんだ。おまえのせいで街に寄ったんだぞ?

たしかこの街には奴隷市があったはずだ。

ここで他の魔力タンクを手に入れれば、クレアともお別れで良いだろう。

そのためにも、クレアには契約解除するか、食事付きだが日給を減額するかの選択を迫るとしよう。


 だが、その前に代わりの魔力タンクをみつけないとならないな。

みつからなければ自前の食料を買わせて次の街まで我慢する方向もありだ。

クレアが逃げなければな。


「ちょっと出掛けて来る」


「わ、わかったわよ!」


 なんだ? なぜ顔を赤らめる?

何処に行くと思ってるんだこいつは?

部屋代を節約するために二人部屋にしてやったのに、同室泊に何の文句も言わなかったが、何か勘違いをしているのか?

同じテントで同衾しても手を出さなかったから安心しているのかと思ったが、この反応は何なんだ?


「まあ良い。おまえも携帯食ぐらいは買っておけよ。

次からは食事抜きだぞ」


 しまった。逃げるならばそうさせるように仕向ければよかったのに、どうして継続する方向でアドバイスしてしまったのか。


 ◇


 俺はこの街の奴隷商にやって来た。

この街には1軒しか奴隷商が無い。

ここで見つからなければ、次の街まで我慢だ。

魔力がもったいないが、【鑑定】で魔力の多い奴隷をみつくろおこう。

今日はまだクレアがいるからな。魔力は後で吸って補充すればよい。


 この世界の奴隷制度は何でもありだ。

戦争奴隷、犯罪奴隷、借金奴隷、身売り奴隷、奉公奴隷なんでもござれだ。

まあ、さすがに誘拐されて売られたようなものは違法とされているが、家族が売った身売り奴隷と見分けがつかないため、かなり横行しているようだ。

まあ、俺が奴隷にされるのでなければ、別に関係ない。


「魔法が使えない奴隷で良い。見せてくれ」


 魔力が多くて魔法が使える奴隷は当然だが高い。

魔力タンクが目的ならば、魔法が使えない方が好都合なのだ。

この世の中、魔力を持っているが魔法を使えない者も少なからずいる。

魔法を教えたり育てれば良いというわけではなく、使うことが出来ないのに魔力を持っているのだ。


「これはこれは、我がチャバリア商会へようこそ。

お客様がお望みの奴隷をご用意いたしましょう。

わたくし、商会長のマルセロと申します。

以後お見知りおきを」


 マルセロと名乗った奴隷商は、俺をちらりと一瞥すると奴隷をみつくろって並べた。

どれも美人ばかりだ。


「こちらの奴隷、夜の技を仕込みました極上品にございます」


「パス」


 なんで性奴隷ばっかりなんだよ!

俺の顔を見て選んだよね?

俺がそっち方面の奴隷を求めてると思ったってことだよね?


「これは大変失礼いたしました」


 わかれば良いんだよ。わかれば。


「こちらの趣味の方でしたか」


 そう言うと奴隷商はうら若い乙女ばかりを並べた。

あきらかに危険な年齢の女の子も混ざっている。


「違ーう!

飯炊き洗濯、身の回りの世話、そっち系の奴隷だ!」


「ちっ」


 おい、今舌打ちしたよね?

安い奴隷を買いに来たと思って舌打ちしたよね?!


「それでは料理スキルを「それも違ーう!」」


「仕方がありませんね。

こちらの檻にいる安ーい奴隷でも見ていってください」


 マルセロが厭味ったらしくそう言う。

こいつ、俺にわざと高い奴隷を売りつけようとしてたな。

料理スキルなんて飲食店を始めない限り必要ないではないか。

しかも、一気に商売っ気がなくなって、檻から勝手に選べって言いやがった。


 この街にはこの奴隷商しか存在しない。

面白くないが、仕方がない。

ここでみつからなければ、次の街まで我慢するしかない。


 俺は安ーい奴隷のいる檻の前に行くと全員に【鑑定】をかける。

ポイントは魔力、そして健康状態だろう。

魔力があっても直ぐに死なれたら意味がない。

旅は徒歩が多いので、それに耐えられない健康状態でも困る。

腕が1本無いぐらいの多少の不備は目を瞑ろう。

この檻の中は、いつ処分されてもおかしくないレベルの奴隷が詰め込まれているのだ。

販売額と経費の兼ね合いでは、病死として処分されたり鉱山に送られてしまうのだ。


 鑑定の結果、目ぼしい奴隷が1人だけいた。

クレアには劣るが、魔力が多く、魔法が使えない。

だが、健康状態が微妙だ。

他は魔力タンクとして使うには10人ぐらい連れ歩かなければならないような魔力量だった。


「こいつ一択か」


 まあ、この健康状態ならば治せないこともない。


「おい、マルセロ、こいつにする」


「この娘ですね?

大銀貨3枚になります」


 は? この檻の中は、処分品だろうが!

ぼったくるつもりだな。


「高いな。仕方ない他を「大銀貨2枚で!」よし、買おう」


 本来ならば、おそらく大銀貨1枚半ってところだが、クレア20日分と思ったら安く感じてしまった。

次の街に行っても気に入る奴隷がみつからないかもしれない。

ここはこの魔力量にかけるしかない。

それだけ掘り出し物だったのだ。

健康以外は。


 こうして俺は13歳の猫獣人の女の子を買うことになった。

さて、この健康状態、治すのには多少手間がかかりそうだぞ。

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