第4話 こいつ逃げるな

 俺たちはドラゴンの住み家である北の霊峰を目指し旅を開始した。

旅程は徒歩となった。

街道には辻馬車が通っているが、その脚は遅く、さらに遠回りだった。


「なんで辻馬車に乗らないんです?!」


「こっちの方が近いから?」


「聞いてませんから、徒歩だなんて!」


「辻馬車に乗るとも言ってないよね?」


「ぐぬぬ。

それにどうして森の中に入って行くんですか!

こっちは魔物が出るじゃないですか!」


 いちいち五月蠅い女だ。

魔物なんて排除すれば良いだけだろ。

それに俺を恐れて魔物なんて寄って来ないぞ。


「嫌なら、ここで契約解除でも良いぞ?」


「ここで放り出されたら1人じゃ帰れないでじゃないかーっ!」


 駄目だこいつ。こりゃ次の街で終了かな。

そうでなくても、早々に途中で逃げるな。

俺はクレアと名乗った女に期待するのをやめた。

この感じで長続きしたやつは今まで一人もいないのだ。

逃げられる前に次をなんとかしないと。


 ドラゴンとの戦いの前に魔力タンクが居なくなるのは勘弁して欲しい。

どうせ日給だから、逃げるならば早くして欲しいところだ。

その代わりを見つけるのは、なかなか大変なのだ。

人選的に、あと魔力残量的に。


 ああ、しまった。どうせ逃げられるならば、成功報酬を後払いにして日給を下げておけば良かった。

日給を上げておけば逃げないと思ったが、後払いにすればその支払いが惜しくて長続きしたかもしれない。 

これは今後の契約時のために頭の隅に残しておこう。


 ◇


 俺たちは森の中で野宿している。

今は石を積んで竈を作ったところだ。


「火」


 薪をくべてクレアに火を要求した。


「どうしてあんたが魔法を使わないのっ!」


「魔力がもったいないから?」


「どうせ私から吸うじゃないか! それを使えば良いじゃないの!」


「そんなんで吸っても良いの?」


 吸わせたくないのか吸わせたいのかわからんやつだ。


「私もまさか魔導具が無いなんて思ってなかったから、火なんて着けられないんだからね!」


 うわ、こいつ、そんな基本的な準備もしてないのかよ。


「まさか、テントも持って来てないとか?」


 俺がそう指摘するとクレアは黙って下を向いた。

おいおい、冗談だろ?

野営道具は持参してくださいって依頼書に書いてあっただろ?


「まさか、そんな旅だとは思ってなかったから、寝袋しか持って来てないわよっ!」


「で、俺のテントで寝るつもりか?」


「そうだけど?」


 え? 同衾して良いのかよ?

マジか。クレアは残念さんだが、顔とスタイルは極上。

あっち方向で吸えれば魔力吸収効率は最高だ。

まあ、そんなことにはならないだろうがね。


「え? 交互に見張りをするんだよね?」


「いや、さすがに夜は魔力を惜しげもなく使って結界を張るぞ?」


 何を言ってるんだ?

結界を張った安全な夜に魔力回復しないで、どうするつもりだったんだ?


「え? えーーーーっ!」


「じゃあ、今日の魔力ドレインは2回ね」


 なんか調子が狂う。

もしかして、こいつ、良いところのお嬢さんなのか?

 

「仕方ないわね……」


 いや、俺と一緒にテント泊で良いのかよ。


 ◇


 竈で調理して食事を始めると、隣から腹の虫の音が聞こえた。


「どうした? おまえも食事の用意をすれば良いではないか」


「用意してないんだってば」


「はあ?」


 何言ってんだよ。素人じゃあるまいし。

一端の剣士じゃなかったのかよ。


「食事は宿で出来ると思ってたから、用意してないのよっ!」


 だめだこいつ。やっぱり世間知らずのお嬢さんだ。

仕方ない。次の街で別のを探そう。


「はあ……これを食え」


「ありがとうふぉざいまずー」


 泣くな鬱陶しい!

そんなに腹減ってたのかよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る