第2話 魔力回復量0の魔導士(ケインサイド)

 俺の日課は岩石フロッグという魔物から魔力を吸い取ることだ。

魔力ドレイン、俺はこれをしなければ魔法が使えない。

だから何度も何度も斬りつけて魔物から魔力を奪うのだ。

魔力を奪うには身体に触れれば良いのだが、それは吸収効率があまり良くない。

一番効率が良いのは粘膜接触なのだが、魔物は反撃して来るので、剣で斬り付けその皮膚の下から剣を通して魔力を奪っている。

この剣は特別製であり、攻撃力が低い代わりに魔力吸収の媒体となってくれる。

岩石フロッグは魔力量が多く耐久力が高いので、何度も何度も斬りつけて魔力を奪っているというわけだ。


「剣技、【烈風斬】!」


 そう声が聞こえたと思うと、岩石フロッグが殺されてしまった。


「あ、こら! 何すんだよ!」


 どうやら、先程からこの近くに居た女が手を出して来たようだ。


「何って、苦戦してるから手伝ってあげただけでしょ!

ほら、ドロップ品はあげるから感謝しなさいよ!」


 はあ? 俺が欲しいのはそんなもんじゃない。


「そんなもんいるか!

俺が欲しかったのは……。」


 俺が欲しかったのは魔力だ。

だが、それをこいつに言っても仕方がない。


「くそ、また岩石フロッグを探さなければ。

せっかくの狩場だったのに台無しにしやがって」


 ここの岩石フロッグは倒さないのがここらでのお約束だ。

俺が生かさず殺さずで魔力を奪っていることは有名だからだ。

こいつ、何しにこんな所に来やがった?


「もしかして、私は余計なことをしたのかな?」


 俺の怒りに女は多少は後ろめたさを感じたようだ。

獲物の横取りはマナー違反だ。

例え経験値が少ない魔物であっても、俺のように都合があって生かしている場合もあるのだ。


「そうだ。余計なことをしたせいで台無しだ。

ん? おまえ、見たところ剣士だよな?」


 女をよくよく観察すると、剣士の格好なのに、膨大な魔力量を持っていた。


「見ればわかると思うけど、そうよ?」


 その見てみた結果がどう見ても魔導士向きなんだが?

それにしても見た目だけは良い女だ。

金髪碧眼、長い髪をポニーテールにしているのは、剣を振るうのに邪魔になるからだろうか。

体つきも程よく筋肉がついていて、確かに剣士体形ではある。

だが、どう見ても才能は魔導士向きだ。


「ふーん、その魔力量、魔導士の方が向いてないか?」


 俺は正直に転職をお勧めしておいた。


「私を魔導士の方が良いなどと二度と言うな!」


 すると女は激昂し怒鳴りつけてきた。

なんなんだこいつは?

こいつのせいで俺は次の仕事に支障が出そうなんだぞ?

そうだ、魔導士として使わないなら、その無駄な魔力は賠償で貰ってやろう。


「なら、丁度よい」


 俺は女に近付くと腕をとりに行く。


「な!」


 おいおい、こいつ、なかなか良い体捌きじゃないか。

だが、俺に敵うものではない。

避けようとする女に、俺は1つギアを上げる。

こう見えても……、いや止めよう。

そして俺は難なく女の左二の腕を掴んだ。


「その魔力、要らないだろ?

岩石フロッグを横取りした詫びはこれで良いよ」


 さて、仕事に必要な魔力分ぐらいはいただこうかな。


「【魔力ドレイン】」


 俺は女から魔力を吸った。


「あー、かなり良質な魔力だな。

ドレイン効率が悪いのがもったいない」


 女の魔力はなかなか美味だった。

皮膚接触なのがもったいない。


「な、何のことよ?」


 俺の台詞に女が戸惑いの声をあげる。

初めて魔力を吸われたのか、ちょっと色っぽい声になっている。


「剣で切るわけにもいかないし、皮膚接触だと吸い上げる魔力にロスが発生するんだよ。

まあ、粘膜接触ならばもっと効率が良いんだけどね」


 そう言うと女は、警戒した目を向けて来た。

はあ? 俺が粘膜接触を望んでると思ったのか?

確かに良い女とは思ったが、そんな気はさらさらないわ。


「いやいや、効率の話をしただけで、何も粘膜接触でやってくれとは言ってないからね?」


 俺は変に誤解されて慌てて否定していた。

いや、これちょっとダサいだろ。


「もうやめてもらえないかしら?

魔力切れになったらどうしてくれるのよ!」


 おっと、つい吸い過ぎてしまったようだ。

だが、この魔力、この女自身は使えないんだぜ。

俺が有効活用してやるだけじゃん。

女の言い方に俺は少し意固地になって虐めたくなってしまった。

俺のS心がうずくぜ。


「あれ? それだけ魔力があっても、君、使えないんだよね?

ならばさっき魔物を横取りした詫びで吸っても良いよね?」


「くっ。 仕方ないわね」


「良かった。これを拒否られたら、ギルドに横取りを訴え出るところだったよ」


 なんて鬼畜。ちょっと追い込み過ぎたか?

女もギルドに報告されるのはまずいと思ったのか大人しく吸わせてくれるようになった。


「はい、終わり。

なかなかの魔力量だったよ。

また吸わせてもらっても良いかな?」


 俺は程よいところで魔力を吸うのをやめた。

社交辞令のリップサービスもつけておく。


「二度とごめんよ!」


 だが、女は不機嫌に断って来た。

なんだか揶揄いたくなってしまった。

またの機会があるかもしれないので名乗っておくか。


「そう言うなよ。

俺はケイン。魔導士だ」


「は? 魔導士? 剣で戦っていたのに?」


 いや、戦っていたんじゃなくて魔力を吸っていただけだって。

それにどう見ても魔導士の格好だろうが!

俺が呆れていると、女は何かを思い出したようにポンと手を打った。


「ああっ、もしかして、この依頼の同行者?」


 女が冒険者ギルドが発行した依頼票を見せた。

まさか、この女が同行者だったとは。


「その同行者が俺だ」


「まさか、この依頼の条件にある魔力量が多いことって……」


 当たり前だが、魔力タンクとして吸わせてもらうためだ。


「そうだ。君は俺の魔力タンクとしての同行依頼だ」


「えーっ! でも、たしかに魔力を使うという依頼だったわね……」


 受付嬢め、きちんと説明しなかったのか?

この依頼は俺が片付け、同行者は俺に魔力を渡すのが仕事だ。

だから、この女は此処で待っていたのか。

確かに待ち合わせ場所に此処を指定してたような気がするわ。


「納得したならば、仕事に向かうぞ」


 俺はパニックになって名乗ることも忘れた女を連れて、仕事を熟すための旅へと出るのだった。

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