魔力回復量0の魔導士・全滅勇者パーティーのその後ー魔力が無いなら魔力を吸えばいいじゃないー

北京犬(英)

第1話 魔力回復量0の魔導士

 私の目の前におかしな剣士がいる。

剣を握っているけれども、その格好はいかにも魔導士然としたローブ姿なのだ。

でも、その剣技は一端の剣士のものだし、私が見ても強いとわかる身の熟しだった。


 彼がおかしいのは格好だけではない。

彼が相手にしているのは、経験値も少なくドロップもあまり良くない、そのくせやたら耐久値が高く、誰もが面倒くさいと敬遠している、岩石フロッグという魔物だった。

そんなどうでも良い獲物に、私が見ているだけで数十回も斬りつけていた。

攻撃力が低すぎるわ。あれではいつまで経っても倒せないわね。


「見ていてイライラするわね」


 冒険者の礼儀として、勝手に援護に入って、あまつさえ獲物のラストアタックを取ってしまうのはマナー違反となる。

でも、この魔物の経験値はたかが知れている。

彼も経験値が欲しくて戦っているわけではないはずだ。

ドロップ目当てだろうことは明らかだし、こんな雑魚に手古摺っているのを見ているのはイライラするわ。


 そんなにイライラするならば、離れれば良いだろうって?

生憎、私は此処で人と待ち合わせをしているから、この場を離れるわけにはいかないのよ。

なので私は、イライラの原因を解消することに決めた。

彼には倒した魔物のドロップ品をあげればそれで良いだろう。


「剣技、【烈風斬】!」


 私は彼に断りもなく魔物を倒していた。


「あ、こら! 何すんだよ!」


 そんな私に、彼はムッとした表情で怒声を上げる。

なによ! 手古摺っているから手伝ってあげただけじゃない。

確かにマナー違反だけど、あれだけ手古摺っていたならば、感謝されこそすれ、怒られる筋合いじゃないわ!


「何って、苦戦してるから手伝ってあげただけでしょ!

ほら、ドロップ品はあげるから感謝しなさいよ!」


「そんなもんいるか!

俺が欲しかったのは……。

くそ、また岩石フロッグを探さなければ。

せっかくの狩場だったのに台無しにしやがって」


 彼が何か言っていたが半分以上意味不明だった。

でも、どうやらドロップ品が目的ではなかったらしいことは理解できた。

だとすると私は、ただの経験値泥棒になってしまうというの?


「もしかして、私は余計なことをしたのかな?」


「そうだ。余計なことをしたせいで台無しだ。

ん? おまえ、見たところ剣士だよな?」


「見ればわかると思うけど、そうよ?」


 私は今は冒険者をしているが、出自は剣聖の一族の者だった。

祖父が初代剣聖で、父も剣聖という剣に生きる一族だ。

そして兄弟も剣聖を継ぐべく修行をしている。

だが、私は女でありながら兄弟一剣の才能に恵まれており、実家から疎まれてしまった。

それでこんな冒険者をしているのだけど、装備も防具もどこからどう見ても剣士のはずだ。

いや、この男こそ剣を持っているのにまるで魔導士のような格好だからね?

もしや逆もあると思われのたかしら?


「ふーん、その魔力量、魔導士の方が向いてないか?」


 その男が、私のトラウマを抉る。

私は剣聖の家に生まれながら魔力量が多く、将来魔導士に成れば良いと兄弟たちから言われていた。

それが嫌で、誰よりも剣の修行に撃ち込み、才能も有ったため、兄弟一強くなったんだ。

でも、貴族の跡取りは男と決まっている。

そこでの軋轢で家を追い出されたようなものだった。


「私を魔導士の方が良いなどと二度と言うな!」


「なら、丁度よい」


 そう言うと、彼はにこやかな表情で私に近付いて来る。

触れられる、そう思ったので避けようとしたのに、彼の右手が私の左二の腕に触れる。

女ながらに剣聖を継げるとまで言われた体捌きを私が駆使したにも関わらず、彼はその動きをも簡単に上回っていた。


「な! (あり得ない!)」


 その事実に驚愕する私に、彼は静かに訊ねて来た。


「その魔力、要らないだろ?

岩石フロッグを横取りした詫びはこれで良いよ」


 そう言うと彼はスキルを使った。


「【魔力ドレイン】」


 彼は私から魔力を吸い取った。

そうか、この彼は岩石フロッグの唯一の取柄、魔力量の多さを狙っていたのか。

だから殺さず何度の斬りつけていた。

彼は、斬りつけることで岩石フロッグの魔力をドレインしていたんだ。

つまり、彼が欲しかったのは経験値でもドロップ品でもない、岩石フロッグの魔力そのものだったんだ。

だから殺さずにドレインし続けていたのか。

じゃあ、やはり私は彼の邪魔をしてしまったんだわ。


「あー、かなり良質な魔力だな。

ドレイン効率が悪いのがもったいない」


「な、何のことよ?」


「剣で切るわけにもいかないし、皮膚接触だと吸い上げる魔力にロスが発生するんだよ。

まあ、粘膜接触ならばもっと効率が良いんだけどね」


 こいつ、何を言ってるのよ?

粘膜接触って、キ、キ、キスってこと?

乙女に何てことを要求するのよ!


 私の顔色を見て、彼は慌てだした。


「いやいや、効率の話をしただけで、何も粘膜接触でやってくれとは言ってないからね?」


 いや、そもそもなんで私の魔力を勝手に吸っているのよ?

そう気づいて、なんだか腹が立って来たわ。


「もうやめてもらえないかしら?

魔力切れになったらどうしてくれるのよ!」


「あれ? それだけ魔力があっても、君、使えないんだよね?

ならばさっき魔物を横取りした詫びで吸っても良いよね?」


 そうだった。

私のせいでこの彼は、魔力ドレインしきれなかったんだ。


「くっ。 仕方ないわね」


「良かった。これを拒否られたら、ギルドに横取りを訴え出るところだったよ」


 こいつ、なかなか強かな奴だわ。

これじゃ、断るわけにもいかないじゃないの!


「はい、終わり。

なかなかの魔力量だったよ。

また吸わせてもらっても良いかな?」


「二度とごめんよ!」


「そう言うなよ。

俺はケイン。魔導士だ」


「は? 魔導士? 剣で戦っていたのに?」


 いや、確かに格好は剣士というより魔導士だけど……。

あの身のこなしは純粋な魔導士ではないはずだわ。

どちらかというと、中身は剣士と言っても差し支えない感じね。

それにその名前、聞き覚えがあるわ!


「ああっ、もしかして、この依頼の同行者?」


 私は冒険者ギルドで受注した依頼票を出すと目を通した。

そこには同行者魔導士ケインと書いてあった。


「その同行者が俺だ」


「まさか、この依頼の条件にある魔力量が多いことって……」


「そうだ。君は俺の魔力タンクとしての同行依頼だ」


「えーっ! でも、たしかに魔力を使うという依頼だったわね……」


 使うって魔道具を動かすとか、そっちで使うんじゃないの?

後で知ったんだけど、彼こそが有名な魔力回復量0の魔導士だったのね。

魔王討伐に行った勇者に同行し、魔王軍幹部と相打ちになり、二度と魔力が回復しなくなった。

だから魔力回復量0の魔導士。

そして【魔力ドレイン】によって他者から魔力を吸うことで最強の魔法を使う。


 私はその魔導士ケインに同行して旅をすることになってしまった。

依頼をここで断ったならば依頼失敗になってしまうからだ。

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