第11話 殺人現場2

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 まだ深夜というには明るく、昼間というには薄暗い時間帯。

 そんな時間帯に、俺は自然公園の街灯の下で佇んでいた。

 こうしていれば、あの時の夢の光景と同じような事が起こる気がしたからだ。

 俺が夢の中で人を殺した場所も調べた。

 だが、余程上手く血の痕跡を消してしまったのか、この薄暗い状況下では俺が殺しを行った痕跡は何も発見出来なかった。

 だが、臭いはする。

 嗅ぎなれた血の臭いが残っている。

 だから、俺はこうして時間が経つのを待っているのだ。あの時と同じ状況になれば、何かしらを思い出すかもしれないから。

 がさり、と鳴ったのは草を踏む音か。

 俺は音の鳴った方向に鋭く視線を向け――その動きを止める。

「丹生……うぅん、明日斗くん……?」

 闇夜に顔と胴体が浮かび上がって見えるのは、そういう服装だからだろう。

 白のタートルネックニットと黒のプリーツスカート、それに青い帽子を被っている。ブレザー姿とは印象が異なるが、その目立つ金髪は見間違えようがない。

「何故ここにいる?」

 俺がそう告げると、彼女――イブリースは唇を尖らせながらも、こちらへと歩み寄ってくる。足元……パンストやブーツが黒で固められていることもあり、まるで足の無い幽霊が近付いてくるかのような印象だ。

 それでも、怖いと感じないのは俺の感覚がおかしいのか、イブリースの印象が幽霊からかけ離れているからなのか。

 どちらも、という可能性もあるだろうが。

「やっぱり、明日斗くんじゃん! 返事くらいしようよ! 人違いかと思ってちょっと緊張しちゃったじゃない!」

「此処は立ち入り禁止だぞ。どうやって入った?」

 闇に呑まれ掛けていた俺の意識が急速に浮上してくる。

 脳を取り巻く血管に負荷が掛かったのか、ズキズキと鈍い痛みが脳の奥底から滲み出してくるかのようだ。イブリースを直視してしまった事も原因かもしれない。

「壁の一部が壊れていたから、そこから? ……じゃなくて! 明日斗くんこそ、どうして此処にいるの! 帰ったんじゃなかったの!」

「殺人事件の犯人が俺の知り合いかもしれないというのは言っただろう。その証拠があるかもしれないと思って探しに来ただけだ」

 その証拠というのは、俺の記憶との整合性という果てしなく不安定なものだ。物証にすらならない。

 そんなものを求めるのは、俺の心の平穏を望むからである。

 だから、イブリースには俺が求めているものが正確には理解できないはずだ。

 それでも、彼女は大きく頷く。

「なるほどね。友達が犯人じゃない証拠が出れば、一気に安心出来るものね」

「そんなところだ」

 驚くべき事にニュアンスこそ違えど、イブリースの言葉は的を射たものであった。本能的な部分で、彼女は鋭いのかもしれない。

「そういえば、聞いていなかったけど、明日斗くんの友達ってどんな人なの? 殺人事件の犯人として疑われるって事は、日頃からそういう疑わしい行動をしているって事だよね」

 近くのベンチの下などを「証拠無いかな?」と探しながら、イブリースがそんな事を言う。

 俺は街灯に背を預けながらも、どう言ったものかと悩みつつ、口を開いていた。

「常日頃から、人を殺す事ばかりを考えているような変人だな。頭の螺子が緩んでいるから、何かの拍子にやるんじゃないかと思えるような奴だ」

「うわ、危ない子だねぇ」

「そうなんだ。危ない奴なんだ」

 だから、俺の側には居ない方が良いんだがな――、そんな事を思う。

「でも、そんな子の為に真犯人を探そうなんて、友達思いじゃん」

「そんなんじゃない」

 友達思いとか、そういった擽ったい感情ではない。俺は全て俺の為に動いているだけに過ぎないのだ。だから、褒められたものではない。

「うーん。なかなか凶器とか落ちてないねぇ」

 そんな簡単に見つかるものであれば、今頃、鑑識に回されている事だろう。

 とはいえ、この広い自然公園の敷地内であるから、探す場所は無数にある。

 あまり手入れが行き届いていない背丈の低い草、自然に生えた木々を利用した林、公園の中央には大きな池などもあり、その周囲には申し訳程度にベンチも設置されている。

 散歩の途中に立ち寄るには最適な場所といった印象だ。

 そんな風景を見るとも無しに眺めながら、俺は結論を導き出していた。

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