第10話 思考回転2
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休み時間に入るなり、俺は携帯で昨晩の事件について調べ始める。
事件現場は、例の公園に近い繁華街の路地裏。
犯行時刻は昨日の午後九時頃。
繁華街近くを歩いていた一般市民が首筋から血を流して倒れている警察官を発見。119番をするが、懸命の治療も虚しく亡くなったそうだ。
俺はそれだけの情報を集め終わった後で、【〇〇町連続殺人事件】【被害者特定!】といった見出しが記載されていた大型掲示板を興味本位で覗いてしまう。
詐欺広告の類かと思いながらリンクを辿ると、そこには卒業文集などに載っているであろう集合写真から切り抜かれた被害者の写真が載っていた。
(この人……昨日、俺たちに話しかけてきた?)
脳が負荷を嫌がるかのように、ずきんっと痛みを発してくる。
俺はゆっくりと心を落ち着けると、静かに携帯電話の画面を落とす。
(俺が殺ったのか?)
確証も無ければ、確信もない。
ただ、俺は昨日彼に会って……少なからずストレスを感じていたのは確かなのだ。
それを無意識の俺が恨みに思って、あの警察官を行き掛けの駄賃のように殺したとは考えられないだろうか。
有り得なくはない。
ないのだが、強烈な違和感がある。
何だ? 俺は何かを見落としている?
「おーい、むっつり丹生ー。アンタ、イブっちに何やったのさ?」
俺の思考を邪魔する女子の声。昨日、イブリースと仲良さげに話していた女子の一人が俺に詰め寄ってくる。勘弁して欲しい。
「別に何も」
「アンタは何も感じなかったかもしれないけど、相手が勝手に傷付いている事もあるんだからね? 今度、イブっちに会ったら謝っときなさいよ!」
まるで、俺が何かをしたかのような前提で非難される。
その言葉に俺が傷付くとは思っていないのだろうか。
女子生徒は一方的にそれだけを言うと立ち去っていった。想定していた通りではあるが、クラスでの俺に対する風当たりが強い。そもそも、俺は昨日イブリースを家に送り届け、それ以降に彼女に会っては……。
――出会ってはいた。
嗚呼、何故こんな重要なことを忘れていたのだろう。
イブリースとはあの夜の公園で出会っていたではないか。
あの時、公園に忍び込んだのは俺だけではなかったのだ。
俺とイブリースはほぼ同時に公園に忍び込み、異様な体験をした。
その経験が良いものではなかったからこそ、俺はその記憶に蓋をしたのだ。
(思い出した)
イブリースが学校に来れない理由も分かってしまった。
上半身を失くしたイブリースの姿が脳裏にチラつく。そうだ――。
イブリースは昨日死んだのだから、来られるわけがない。
思い出したくない記憶をゆっくりと思い出すようにして、俺は思考の海へと没入していった。
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