第9話 思考回転1

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「それじゃ、朝のホームルームを始めるぞ」

 見慣れた教室。いつもと変わらぬ朝のホームルーム。

 生徒たちはざわめきを以て迎え、本日の授業に向けて徐々に気分を切り替えていく時間帯。いつも通りの風景。単調にして変わらない日常。

 そして、「またか」といった、いつも通りの感想。

 確かイブリースを送り届けた後で、夜の自然公園に俺は忍び込み……そこから先の記憶がない。

 記憶はないが、学校に来ているという事は、俺はそのまま家に帰って登校してきたという事なのだろう。我ながら自信はないが。

「佐藤イブリースは欠席か? 誰か、連絡を受けてないか?」

 普遍的な日常に変化が訪れた事を、好む者と好まない者がいる。

 俺は勿論後者なのだが、このクラスの圧倒的多数は前者のようだ。

 イブリースの席に多くの視線が向き、そして何故か俺へと視線が注がれる。

 その気配を感じ取ったのか、担任教師が俺に水を向ける。

「丹生は何か知らないか?」

「いえ、特には」

 俺がそう言うと女子を中心に視線の圧が強まる。

 この様子だと、俺がイブリースと一緒に帰った事は知られているようだな。エスコートして送ってやったのにも関わらず、女子からの風当たりが強くなるのは理不尽この上ない。

(それにしても、転校二日目から休みか)

 まるで一日で不登校になってしまったかのような状況。

 疑わしきは最後に出会っていたであろう俺か。

 嗚呼、最悪だ。

 状況がどこまでも俺に不利に出来ている。

 あの地図アプリさえ読めないポンコツはきっと通学路を見失って遅れている可能性だってあるのだ。俺のせいばかりにしないで欲しい。

 俺が静かに憤慨していると、こほんっと担任がわざとらしい咳払いをして生徒たちの注目を集める。

「あー、ニュースで見て知っている者もいるかもしれないが、また昨夜、殺人事件が起こった」

 また殺人事件が起きた?

 何で、俺が記憶を失くす時に限って、そう殺人事件ばかりが起きる?

 …………。

 まさか……。

 嫌な想像が止まらない。

「昨日に引き続いて同じ事を言うが、生徒はなるべく早く帰るように。ニュースでは無差別殺人じゃないかと言われているようだし、お前たちが巻き込まれても不思議じゃない。他人事だと思わずに、各人がなるべく早く帰るように努力してくれ」

 担任の言葉はまだ続いていたようだが、俺の耳には既に入っていなかった。

(殺されたのは誰で、殺したのは誰だ?)

 俺の頭の中ではそんな思考がぐるぐると巡っていたからである。

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