第4話 記憶の無い男4
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鼻血の原因は彼女にあるのだが、何故か彼女も付いてくるという。
俺としては遠慮したいところではあったが、担任教師の「フォローしてやれ」という言葉があっただけに簡単には断り辛い。
結局、断る為の理由を探している内に、俺はイブリースを伴って保健室にまでやってきてしまった。
軽くノックをして保健室に入るが、保険担当の教諭は留守のようだ。適当に中に入り込み、鼻血を止める為のティッシュを鼻に詰め込んでいく。
ハンカチの方は……この染み、落ちるんだろうか?
「はぁ、やっと落ち着ける。あんなに人が集まってくるなんて思わなかったよ」
俺に続いて保健室に入ってきたイブリースは、勝手に保健室のベッドの上に座ってグッタリとしていた。どうやら、俺に保健室の場所を教えて欲しいと言ったのは方便だったようだ。
なるべく、イブリースの姿を見ないように、俺は保健室備え付きの洗面台でハンカチの血を洗い流し始める。
「丹生くんもゴメンね。迷惑掛けちゃって」
「別に。気にしてない」
「そう、なら良いんだけど……」
何故だか歯切れの悪い言葉。その意味に考えが及ぶよりも早く、イブリースが口を開く。
「あのね、勘違いだったらごめんね。丹生くんって私のこと嫌いかな?」
「どうして?」
何か彼女に対して、嫌な思いをさせるような事をしただろうかと振り返る。
俺の記憶に残っている限りでは特段何かをしたという記憶はなかったのだが、彼女がそう感じてしまう何かがあったのだろう。
恐る恐るといった調子で彼女は語る。
「何と言うか、態度が素っ気ないし……」
それは別の事を考えていたので、上の空だっただけだ。
「私の目を見て話さないし……」
目を合わせたら殺人衝動が襲ってくるんだから、目を合わせられるわけがないだろう。
「会話も必要最小限な気がするから」
会ったばかりの相手にベラベラと何を話せと?
なるほど。分かった。
彼女という人間は、総じて頭がお花畑な人間だと理解した。
俺はなるべく彼女を傷付けないように端的に言い返す。
「勘違いだな」
「…………」
端的にし過ぎたのかもしれない。
ぶすーっとした顔で睨んでくるイブリースの顔がちらりと見えた。見たくなかったのに、黙り込んでこちらに様子を窺わせるとはとんだ小悪魔である。
何か補足しないとテコでも動かないような重い空気を感じて、俺は嘆息を喉の奥底にまで飲み込んでから、なるべく柔らかい空気を演出する。実際に柔らかくなっているかは不明だが。
「少し考え事をしていたんだ。だから、反応が薄かったのかもしれない」
「考え事? それで、あんなに眉間に皺を寄せていたんだ」
転校生にまで察知されていたのか。
俺は、どれだけ険しい顔付きをしていたのだろうかと思わず暗鬱とした気持ちになる。
「なになに? 考え事って? 恋バナ?」
女子はすぐそっちに話が行くのは気のせいか? それとも、このイブリースが特殊なのだろうか? 分からない。
「悪いが教えられない」
教えられないというか、教えたくないというか。こんな悩み、誰にも相談出来るわけがない。
「ふぅん……」
だが、俺はこの時、視線を向けていなかったせいで、イブリースが面白い玩具を見つけた猫のような顔をしている事に気が付かなかったのである。
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