第2話 料理実験
さてさて。久方ぶりの『料理実験家』として腕を振るってみた――と、いうほど大層なことでもないが。
調理工程は簡単。
最初に卵を割った後、殻を使って黄身と白身を分ける(100均で売ってる黄身分け器を使っても良い)
黄身はこぼさない様に殻の中で一時避難。
白身は小鉢なりお椀なりに入れる。
その白身に好みの調味料やちょっとした具材を入れて、白身全体に行き渡るように軽く箸でかき混ぜる。
黄身を白身へ戻す。
後は焼くだけ。
まずは手始めに醤油入り目玉焼き。
長いので略称。
『醤油めだ』
薄っすらと茶色がかった白身。今回は味が濃くて色が薄い、薄口醤油を使ってみたが濃い口やたまり醤油だともっと濃く色がつくだろう。
黄身の見た目は生のようにも見えるが底の方だけ固まり、半分以上は生という焼き具合が私のベスト。
食べてみると当然ながら白身の部分は醤油の味。思っていたよりもいけた。旨い。
もちろん、めちゃくちゃ旨いとはならないが、普通に醤油をかけて食べるより好きだ。そもそも醤油を目玉焼きの上からかけると弾かれてほとんど流れてしまうが『醤油めだ』は白身のどこを食べても醤油の味がする。これは有りだな。
目玉焼きの食べ方は人それぞれだと思うが、私の場合はある程度白身を食べてから黄身と残りの白身を一気に食べることが多い。ごはんに乗せるときは別だが。
黄身と白身を同時に口に入れると、濃厚な黄身の味が広がって醤油の味を覆っていくがそれでも塩味は感じられ、直接醤油をかけて食べるときとはまた違った味わいがあった。
『タルめだ』
2品目にしていきなりの変わり種を投入。
お惣菜のカキフライとかに付いている使い切りのタルタルソースがあったので半分ほど入れてみた。
見た目に変化なし。
量が少なかったのかタルタルソースの味はほとんどしなかった。加熱すると酸味とかは飛ぶのだろうか?
イメージとしてはタルタルソース味の目玉焼きならば、市販のイングリッシュマフィンに挟んで食べると美味しいかもと思ったのだが……。再度検証の余地ありだが私はもうやらない。
『チーズめだ』
食パンに挟んで食べるとき用のスライスチェダーチーズを半分みじん切りにして投入。普通に美味しい。子供受けする味。所々チェダーチーズの橙色が鮮やかで見た目にも楽しい。
普通ならほぼ無味の白身が、噛むほどにチェダーチーズの酸味が広がっていく。ちょっと小洒落た喫茶店のモーニングで出てきてもおかしくない味。
濃厚なチェダーチーズの味は黄身にも負けず、お互いを主張しつつも喧嘩はしない。
『コーンめだ』
冷凍コーンを混ぜ込んで焼いてみた。
白身に歯ごたえなど無きに等しいが、これはプチプチとしたコーンの触感が楽しい。これも子供受けするかもしれない。
コーンは白身に混ぜ込む作業をしなくても、卵をフライパンに入れた後すぐに上から載せても大差ないと思われる。
コーンとピザ用とろけるチーズ、ケチャップ少々で『ピザ風めだ』になるかも?
『カレーめだ』
SなんちゃらBのカレー粉を使用したがうまく白身全体に混ぜ合わせるのが困難だった。先に少量の水で溶いたものを混ぜた方がよさそうだ。もしくはカレーライスの時にちょっとだけルーを拝借して使うのもありだろう。
味はカレー風味。違和感なし。
ピリッとしたスパイシーな味わいは結構食欲をそそる。そして黄身と同時に食べたときはそのスパイシーさを少しマイルドにする。カレーライスに生卵を落としたときのことを想像すればわかりやすいだろう。
ただ、目玉焼きにする際にちょっと注意が必要かもしれない。
フライパンから湯気が出るほど温め、油を適量たらして馴染ませたあとすぐさま超弱火にして卵を入れるのだが、粉ものだからなのかちょっと焦げやすく黄色というよりは明るい茶色の白身(変な日本語)になった。テフロンがしっかりと効いているフライパンだとまた違うのだろうが。
『チリめだ』
エビチリを作った時のチリソースを少し取り置いて使った。
まず最初に微かな砂糖の甘味。その後を追いかけてくるカレーのスパイスとはまた違った豆板醤の辛味。そして白ネギのシャキシャキ。まずまずの出来のチリソースを目玉焼きで味わう不思議。
チリソースの赤と白身の白のまだら模様は、見た目は焼いたトルティーヤのような感じとなった。
黄身が邪魔するわけでもないが、お互いに引き立て合うというわけでもない。もっとも、黄身と混ざってまずくなる味というのはあまり思いつかないが。
ここでふと思い立つ。私はいったい何を書いているのだろうと。
もはやこれはグルメ小説とはほど遠い"何か"に変質してしまった気がたまらなくしている――が、今更やめられない。
閑話休題。
『だしめだ』
『だし巻き卵』があるなら『だし入り目玉焼き』があってもいいじゃないか。
ということで市販の白だしを適量と、私は卵焼きに少し砂糖を入れる派なので砂糖も少々。
見た目はまったく変わらず。知らずに食べたら「ん?」となること間違いなし。口に入れて噛んだ瞬間、だしの味わいが広がる。これも私的には有りめだ。
黄身との相性もよし。
『紅めだ』
お好み焼きやたこ焼きに入れる刻んだ紅ショウガを入れてみた。
関西のおっさ……ある程度の年齢の方は紅ショウガの天ぷらや紅ショウガ入りの練り物、いわゆるしょうが天を好む人が多いだろう。かくいう私も好物の一つ。なので『紅めだ』もいける口。ただ、結構人を選ぶと思われる。
『紅めだ』は黄身を完全に固くしてみた。半熟の時とは違って黄身と紅ショウガの味がする白身と別々に口の中で混ざる感じ。ちょっと説明が難しい。筆力の低さが恨めしい。
固くした黄身で食べてもそれはそれで美味しい。今までの『めだ』の中にも黄身を固めた方が良かった物もあったかもしれない。
『普通の目玉焼き』
今まではハムエッグやベーコンエッグ、あるいはキャベツの千切りやマカロニサラダと一緒におかずとして食べていたので、改めて目玉焼きだけで食べてみることにした。
おかずとしての目玉焼きの時は白身を少し焦がして、かつとろりとした黄身をソース替わりにしてハムやベーコンを食べていたが、目玉焼きだけを味わう為に、火を付ける前にフライパンに油をひき、卵を落としてから弱火でゆっくりと焼いてみた。
白身が焦げないように少し水を入れて蒸らし焼き状態に。
出来上がった後に、食卓塩のビンを指でトントンと叩くように二振り。同じく胡椒も軽く二振り。
ここに来て身も蓋もないが、特に手を加えなくてもこれで普通に旨い。
番外編『甘味めだ』
気持ち多めの砂糖を入れて黄身が固くなるまで焼く。これも焦げないように弱火で蒸らし焼き。イメージとしてはスイーツ的になるかと思ったのだ。
ダメだった。
ランドセルを背負い立てのころには美味しく感じられたかもしれないが、甘い目玉焼きは無理っぽい。いや暖かいうちに食べたので冷えたら……。
ないな。
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