キミだけの目玉焼き

維 黎

第1話 恥ずかしい料理

 『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト』に参加しようと思い、空想アイデアを何となくいくつか思い描いている内に物語ではなく料理の方でピンと来るものがあった。

 面白そうな料理。

 ただ物語の中に料理を出すのではなく、実際の料理ありきの話と考えるとジャンルとしてはエッセイ・ノンフィクションが書き易いと思ったのだが、そこでふと思う。


『思わずご飯が食べたくなるグルメ小説であること』


 求める作品像の一つの事例だが、果たしてエッセイ・ノンフクションは『小説』のコンテストとして有りなのだろうか――と。


――しばし考えた結果、まぁいいかとの結論に至る。



 私は幼少の頃から何かの拍子で『料理実験家』になることが稀にあった。研究ではなく実験。

 あまり良いことではないかもしれないが料理でのだ。結果、独自の食べ方や料理が出来上がったりする。

 しかしながら私は思うのだが、誰しも人とは違う変わった味付けや食べ方があるのではないだろうか? 中にはちょっと大きな声では言えない恥ずかしい料理なども。

 

『なんちゃってそばメシ』


 そばメシを知らない人は誰もいない――とまでは言えないが大半の人は知っているだろう、いわゆるB級グルメ。

 ウィキペディアには昭和30年以前からあるようなことが書かれている。

 そのそばメシを私は自分で考えだして食べていたのだ。子供の頃に。

 誤解がないように言っておくと、私が先に考え出したと言い出すつもりはないのであしからず。そもそもぜんぜん生まれてないし。

 誰に教わる訳でもなく、テレビなどで見た訳でもなく、当時はインターネットもなかった時代。私は有名なカップ焼きそば――未確認飛行物体的なやつ――に茶碗で食べていた白ごはんをぶっ込んで軽く混ぜ合わせて食べるのが好きだった。今ではやらないが。


 今にして思えばカップ麺のソース焼きそばは、子供の味覚には濃かったのかもしれない。

 未確認飛行物体的なやつにはマヨネーズが付いていなかったので、冷蔵庫から取り出したマヨネーズをかけて食べていた。

 ソースとマヨネーズの組み合わせは、関西人にはたこ焼きやお好み焼きを通して馴染みの味で、その味付けがごはんと混ぜ合わさってB級的な味が子供の未熟な味覚には美味しく感じられたのではと思う。

 ソースとマヨネーズの組み合わせの話でいえばもう一つ。


『お好み焼き丼』


 丼というほど大げさな物ではないが、箸で一口大にしたお好み焼きをお好み焼きソースとマヨネーズの茶碗のごはんに乗っけて、ごはんごとすくい上げて放り込む。

 実はこれは今でもやったりする。

 ごはんとお好み焼きを一緒に食べる、いわゆる定食スタイルは関西以外の人には馴染みがないかもしれないが、上記の『なんちゃってそばメシ』同様、マヨソースの味とごはん、そしてお好み焼きの混沌が口の中にある幸せ。とはいえ、お薦めするほどの物でもないけれど。

 直接ごはんにかけるソーライスや醤ライス、マヨライスなどは抵抗があるがお好み焼き丼は無抵抗に食べることが出来る不思議さ。


『らーめし』


 思わず笑ってしまったのだが『らーめし』で検索してみると、超有名塩袋麺で作るリュウジ氏の『塩ラー飯』の動画がピックアップされ、つい最後まで見てしまった。

 酔えば酔うほど旨くなる。

 動画の中の彼は相も変わらず酔拳の使い手だった。

 リュウジ氏の『塩ラー飯』はチャーハンの類だったが『らーめし』は違う。

 茶碗のごはんの上にラーメンを乗せてごはんごと食べるのが『らーめし』だ。カップ焼きそばのそばメシとは逆の発想。

 それだけか、と言うことなかれ。なにせ幼い子供の時に思いついたこと。大目に見てやって欲しい。

 ここで注意していただきたいのがラーメンをおかずにしてごはんを食べる『ラーメンライス』とは微妙に違い、あくまでラーメンとごはんを融合させる食べ方――大げさにいえば『らーめし』という料理であることに留意をお願いする。

 

『オム赤飯』


 そのまんま。

 チキンライスの代わりに赤飯を卵で巻いたもの。

 当時の幼き自分になぜ赤飯? と、問うてみたい。

 正月や誕生日などには必ず作ってくれていた母の赤飯は『おふくろの味』の一つ。

 一流料亭の赤飯など食べたことはないが、市販で売られている物と比べれば母の赤飯を超えるものはない。こっ恥ずかしくて本人に言ったことはないけれど。

 で、肝心の『オム赤飯』は旨い、普通、まずいの三択で言えば四択目の微妙。食えないことはないけれどオムにする必要なし。ごま塩最強説。


 あとは大人になってからちょっとした自炊をするようになると、自分では創作料理のつもりであっても、今のご時世、ネットで調べればすでに当たり前にある料理の数々。『エビチリパスタorうどん』とか『鳥回鍋肉』等々。

 プロアマ問わず料理研究家が考えうる創作料理が日々出来上がっている中、そう目新しくも珍しい料理などあるわけもない。そんな中での冒頭のピンと来た面白そうな料理。モノによってはもしかしたらゲテモノの類になるのかもしれないが。

 ここからが本題。


『目玉焼き』


 これを料理とするのかどうかの議論は今回はパス。料理として考えていただきたい。どうかお願いします。

 シンプルなものほど奥が深いとはよく言ったもので、単に卵をフライパンや鉄板の上で焼くだけの料理だが、焼き加減、片面焼きか両面焼きか、何をかけるか、黄身はどのタイミングで食べるか等々、議論は尽きない。

 そんな『目玉焼き』をネットで調べていると二つほど疑問が浮かび上がってきた。

『目玉焼き専門店』で検索すると出てこない。もしかしたらじっくり調べ尽くしたら出てくるのかもしれないが、簡単には検索にひっかからないのだ。卵かけご飯専門店はあるのに。なぜだろうか?

 一部個人の見解として『わざわざ外食に専門的に求めるほどの物でもない』と書かれていたが、それをいうなら『卵かけご飯』だってそうだろうに。ちなみに『目玉焼き定食』はいっぱい出てくる。


 もう一つの疑問。

 目玉焼きのアレンジレシピを料理サイトでざっと調べてみたが、私が思いついたアレンジが出てこない。ほとんどが何かとのコラボやトッピング、何をかけているかとか、或いは変わった形にして焼くというのもあった。けれども――。

 が出てこないのだ。

 そこで私はパッと思いつく簡単なものを実際に作ってみることにした。幸いにして近所のスーパーの広告が入っていたので。


『500円以上お買い上げの方に、一人につき一パック。Mサイズ98円(税抜き)』


 10年ほど前であれば、タイムセールや特売で普通に98円で売ってるのも珍しくはなかったのに――などと所帯じみたことを思いながら買い出しへ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る