第14話
「お待たせ」
放課後のホームルームが終わり、京が屋上まで上がった時、屋上には既に未来の姿があった。
悠と瑠夏の姿はまだない。
それでも昼過ぎに送った京のメッセージに対する二人の返答は了解の旨だった。
そう待つことも無いだろうと未来に軽い挨拶をしながら京は未来が腰掛けているベンチに座った。
「……あれ、どうかした?」
未来は挨拶に対する返答も腰掛けた京への反応も無く、ただ俯いたままだった。
昼に別れた時とは随分差のある未来の様子に京は首を傾げる。
「……なんていうか、緊張?……するかも」
「あっ、あーね」
京は未来の言わんとすることをすぐに察した。
対人経験が小学生にも劣るような未来にとって友達を紹介されることは初の事。
包帯とガーゼが最近ほとんど無くなったとはいえ、未だクラスメイトからすら遠巻きにされる未来は新たな友達獲得の機会に胸を躍らせ、それと同じくらいに緊張していた。
ここ一月の付き合いで、未来のこうした人間性に多少の理解がある京はその不安をきちんと汲み取れるようになった。
「そんなに緊張しなくていいって」
「……うん」
そう言われても緊張は高まるばかりの未来だ。
京に友達を紹介してもらえると聞いた時には胸躍らせた未来だが、よくよく考えてみれば良いことばかりでは無いと思った。
京にとっての未来はまだ知り合って間もない友達だ。
しかしこれから紹介される友人は京と長い付き合いであることは未来にも分かる。
もしその友人達に粗相を働けばきっと自分は京に切られると未来は確信していた。
お気楽な京と緊張する未来が2人で待つ時間はそう長く無かった。
「おっはー」
「よっす。てか置いていくなよ、同じクラスのこの俺を」
陽気な挨拶と共に屋上に現れた瑠夏と悠。
その姿を確認した京は待ってましたと言わんばかりに未来と二人の間に立った。
「いやーすまん。とりあえず紹介しとくとこっちが三組の鈴代未来ね。色々聞いてると思うけどあんまり気にせず接していいと思うよ」
そう紹介されつつ未来はそっと立ち上がり、俯き加減で上目遣いに瑠夏と悠の顔を見た。
「よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる未来に悠と瑠夏は多少安堵する。
話したことは無いがどうやらある程度はまともな女子であることが二人にも伺えた。
「んで、こっちの二人が柏木悠と山城瑠夏だ。ちなみに二人とも俺の幼馴染だぞ」
京に紹介された二人も自然と未来に頭を下げる。
「あーと、まあその、よろしく」
「よろしく!初めてちゃんと顔見たけどめっちゃ可愛いね!」
悠には多少緊張の様子が見られたが、瑠夏にそんなものは無かった。
むしろ他人への踏み込みが早い瑠夏はしれっと近づいて俯く未来の顔を覗き込んでいる。
「おお、美人さんだ!確かに京なんかの彼女になるには勿体無い可愛さだよ!」
「張り倒すぞ」
「あ、よ、よろしく、お願いします」
未来もなんとか声を出して返答を返していた。
置いていかれる三人だが瑠夏の快進撃は止まらない。
「ていうか連絡先交換しようよ!もう私たち友達じゃん?」
「は、はい」
あっさり友達になるという壁を乗り越え、勢いに流されてスマホを取り出した未来と連絡先を交換している。
友達歴が瑠夏より長い京でさえ手に入れていない連絡先を易々と手に入れた瑠夏は満足気にスタンプなどを送っていた。
「あ、じゃあ俺にも教えてよ」
とあっさり言ったのは京の二人目の親友こと悠だった。
「ど、どうぞ」
「あ、じゃあ私から送っとくよ」
そして未来の連絡先を手に入れた二人目の親友。
その事に焦りを感じた京だがここで「あ、俺にも」とは言えなかった。
何故ならそれは二人に関係性で先をいかれたことを公言するという事であり「え?連絡先の交換してなかったの?」と呆れられるのが京の目には見えていたからだ。
当然未来も京に連絡先を教えてなどとは言えない。
何故なら未来は京の友達を名乗った自分が、連絡先を教え合うほど京と仲良くなかったとは思われたくないからだ。
ここにこの二人が来てくれたのは『京と仲のいい友達』の鈴代未来だったからに違いないと未来は思い込んでいた。
「ま、まぁ、ほら、それはカラオケについてからでもいいしさ、早く行こうぜ」
場の流れの風向きが良くないとみた京は三人に移動を促す。
「う、うん」
京の言葉にこれ幸いと未来も乗っかった。
「おー、いこいこ」
「……おや?」
二人の移動になんの疑問もなく従い歩き出す悠の後ろで、首を傾げた瑠夏がスマホの画面を操作した。
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