第33話 最終決戦 (2)

ギンの放った魔弾は謁見室に穴を開け、レーザー砲のように飛んでいった。




眩しい光にエレシアとメキライは目を瞑り、再び開けるとそこには———







二体目のアヌビスに腹部を槍で刺されているギンの姿が見えた



「ギン!!」


エレシアが助けるために走り出そうとしたが、メキライが行手を阻んでくる



「やめたまえ!今行ったらそれこそギンが殺される…判断を誤るな。冷静になれ」


その落ち着いた声と冷静な判断にエレシアは正気を取り戻し、苦しい状況だがアヌビスたちの行動を観察することにした





「随分とまぁ凶悪な魔法を使えたもんだ…」


確かにギンはアヌビス目掛けて魔法を撃ち放ったのに、アヌビスは全くの無傷で立っている



「な……ぜ……」


ギンは口から血を吐きながらアヌビスに問う



「なぜ…?それでは逆に問おう。なぜお前は『神』に勝とうとした?」



「アヌ……ビ…ス…お前………」


もう一体のアヌビスがギンに刺した槍を引き抜く

ハルフーンと同様、刺された傷口に紫の魔法陣が掛かり、再生阻害をする

ギンは立つ力もなくそのまま倒れた。



アヌビスは二体揃って並び、天に崇拝するかのように復唱する



「古代の力があらんことを!神の力があらんことを!」



ギンが負けた…

あんなに強く、優しく、時に頼りになるギンが…負けた。


エレシアは涙を無意識に流して放心状態になる

「ギンが……ギン……」


その姿にメキライもエレシアから目を逸らす







「さて…残りはドラゴンとキマイラだ。」


アヌビスは二体同時に持っている槍の石突き部分を地面に二回打ち付ける




するとリフリアが以前使った魔法の世界のような白い世界に飛ばされた。

ギンも飛ばされている





「ドラゴン、キマイラ、大人しくしていれば命は保証する。」


そう言いながらアヌビス達はゆっくりとこちらに向かってきた。



どんどん近づいてくるアヌビス

メキライは放心状態に陥っているエレシアに前足で強めにパンチする


エレシアが正気を取り戻してメキライの方を見た。

メキライは…何か決意をしたような目つきをしている



「エレシア、すまない。僕はみんなに隠してたことがあって…」


メキライは姿を変え、どんどん大きくなる

変身した姿は獅子、羊の二つの顔を持ち、尻尾が蛇になった姿だった。



「その姿…」

「ああ。僕はキマイラさ。」

メキライは二つの顔で話す



エレシアはもともとキマイラのことを知ってはいたが、メキライがキマイラだとは知らなかった。



「君も実はドラゴンなんだろ?カドモスの赤いドラゴン」


バレているから特に嘘をつく理由もなく、エレシアは全て話した。


「ええ。私はカドモス…アーレスの子供エレシア。ドラゴンよ。」



その言葉を聞いてメキライはホッとする

「そうか、やっぱり。少し作戦があるんだが、戦闘は得意か?」



「エルフの森である程度習得した。けど誰とも戦ったことないから戦えるかどうかはわからないけど…」


そう言ってエレシアはハイブリッド型になる


「戦闘態勢…いいね。僕はエレシアがアヌビスと戦っている間にギンを助け出す。その間エレシアには二体のアヌビスと戦ってもらいたいんだが…できるか?」


「でもギンはこの空間に一緒に飛ばされてるし、どうやって——」


キマイラはアヌビスの様子を見ながら話す

どうやらアヌビスは二人の話が終わるまで待っているように見える



「大丈夫。僕に秘策があるんだ。」


「…わかった。信じる。」


エレシアはメキライ信じて、ガンを助けてもらう間、アヌビス二体を止めることにした。






二人してアヌビスの方を向いた。

アヌビスは二体とも似たような動きをして、余裕そうな表情で話す


「もう決まったか?大人しく俺らの言いなりになるか…対抗して殺されるか。」



「もちろん僕は…」

「もちろん私は…」


二人で息を揃えてアヌビスに答える



「「ギンを救うために抵抗する!!」」



威勢のいい返事にアヌビスは拍手をする


「そうかそうか…君たちを殺すのは御法度だが、楽しませてもらおうじゃないか。」




拍手をし終えたアヌビスはいきなり二人との距離を詰めてくる



メキライは私の方を向いて小さく「頑張って耐えてくれ。ギンの処置が終わったらすぐ駆けつける」と呟いた。


アヌビスが二手に分かれる

それぞれ一対一で戦うつもりだ



エレシアはリフリアから教わった格闘技を思い出し、戦えるように身構えた。




「行くぞ!」


メキライの合図とともにエレシアはアヌビスに突っ込む




メキライは……



『別空間選択』



一瞬にしてアヌビスの作った世界姿を消す


「…何!?」

メキライをターゲットしていたアヌビスは標的を失って辺りを見渡す


「くっそ…アイツ、特殊な技を…!!」









メキライはアヌビスの作り出した世界を抜け出して元の世界へと戻る


「やっぱりあの空間は偽装してるわけじゃない。アヌビスを中心にある程度の範囲内にいる生命体を一気に別世界へ飛ばしたのか。」



認めたくないがアヌビスの使ったあの魔法は魔素でしか使えない特定の魔法。

魔素は神話に基づいて古くから語られる種族のみが使える。


「ただアヌビスは魔素の習得ができなかったはずだが…」



アヌビスは忠誠心の高い種族で古くから重要人物の側近を務めることが多かった。

ある時一人の人間に仕えた際、自身が魔法を使えなくなる代わりにその人間に魔法の力を与えるという誓約の元、ある人間に魔法の権利を渡したという記録が残っている。



「嘘じゃないはずだ。アザゼル様から頂いた書物に書いてあったんだ…そうなるとアヌビスは何か裏で手を引いてる可能性が……」



考えても思い当たる節はないし、手がかりも全くない。




「…この話題は後で分析するか。今はギンを助けることに集中だ。」



メキライは現世界でギンがアヌビスに刺された場所の近くに行き、再びそこで特殊魔法を使ってアヌビスの世界へと戻った。









エレシアはアヌビスの槍を鱗で防ぎ、反撃するがそれを受け止められてしまう


だが、エレシアの攻撃を受け止めたのにも関わらずアヌビスは吹っ飛ばされる



「何故だ…なぜ受け止めたのにダメージを…そもそも神にはくだらん魔法や打撃は効かないはず…!」


そこでアヌビスは受け止めた手が無意識に震えているのを見て思い付く



「まさか…魔素の衝突か!?」



魔素を使って纏った防御オーラは基本的に魔法や打撃を受け付けない。

ただ同じ魔素で攻撃された場合には魔素の衝突が生じて唯一の攻撃手段になる。



エレシアはメキライをターゲットしていたアヌビスが後ろから来るのを察知して素早く槍を交わして二体のアヌビスから距離を取る




「ビスタ、大丈夫か?」

「あいつ…魔素を習得している。気を抜くなよ。」


アヌビスが再び連携を立て直してエレシアに向かってくる

エレシアはそんなアヌビス達よりもギンを助けるメキライの方に目がいった。



(メキ!あなたもそうやって頑張ってるなら、私も頑張れる!)



メキライはギンを加えると再び姿を消した。

それを見たエレシアは気持ちを改めて向かってからアヌビスを見つめる



「ギンのためにも…お母さんのためにも、お前らには負けない!」



エレシアは勢いよく地面を蹴って向かってくるアヌビスに突っ込んだ。

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