第32話 最終決戦 (1)
ギンが寝室に行ってから、私たちもすぐに寝る準備をした。
メキライは部屋がないので私の毛布を一つ貸してあげてリビングのソファで寝ることにしたらしい。
ただ、私は眠れなかった。
あの時…メキライが私に言った一言が原因で。
「なんでわかったんだろう…」
エレシアは布団を目の下まで被って小さく呟く
あの時……
「この感覚……もしかしてドラゴン?」
エレシアに撫でられたメキライは何かを感じ取るようにその言葉を呟いた。
「え……?なんで?」
いきなりの出来事にエレシアも頭の処理が追いつかない。
「だってこの…魔素が身体中を流れてる感覚、ドラゴンに似てるなって思って…」
「そ、そそ、そんなわけないじゃん!私人間だよ!?どう見てもドラゴンには見えないじゃん!」
エレシアは慌ててメキライから手を離して距離を取る
こんなにもあっさりバレるものなのか…
エルフの森の女王リフリアにもバレたことはあったがここまで早くバレることはなかった。
「あれ、違ったかな。違ったらごめんなさい。なんだか似てる気がして…」
「そんなわけないよ!私もドラゴンがいたら見てみたいな〜なんて。」
エレシアは無理に話を逸らそうとしてアッハハハと声を出して笑う
メキライも「そう、ですよね。見てみたいですよね。」と言って愛想笑いをした。
これで何事もなく話は終わったのだが……
「なんでわかったんだろう。」
いくら私が他の種族に見えたとしてもいきなりドラゴンと当てに行くのはおかしなことだろう。
「それに、魔素の感じがドラゴンに似てたって…」
明らかにドラゴンと一度出会ったことがあるような言い草に聞こえる。
そうじゃなければわかるはずがない。
しかし、ドラゴンがポンポン姿を見せるわけないし人間に姿を変えて生きていることなんて言うはずもない。
「あの子…本当に何者なんだろう…」
エレシアはメキライに対する疑問を抱えながらも、静かに眠りについた。
早朝からドタドタと騒がしい足音でエレシアは目が覚める
リビングに出るとギンが仕事をするときの黒いジャケットを羽織って忙しく支度をしていた。
「ギン〜?もしかして朝からなんかあるの?」
ギンが朝食を三人分準備しながら答える
「メキのことでハルフーンと話すことになってな。朝食食べたら、三人で向かうぞ。」
メキライが朝食の匂いにつられて起きる
「あ、おはようございます。えっと……」
何かいいたそうにしているメキライを見てギンが何かに気づいたように「あ!」と声をあげてメキライに近づく。
「そういえば俺ら名前言ってなかったな。メキにだけ自己紹介させて俺らないのはおかしかったよな。」
「そうですね…まだ二人の名前を聞いていなかったので。」
どうやらメキライが何かを言いたそうにしていたのは本当に名前のことだったらしい。
ギンはジャケットをピンと張って自己紹介をする
「俺は悠楽ギン。種族は人間のほぼ純血で、巡都市間取締官って仕事をやってる。まぁ簡単に言えば都市の治安を維持するために動く警察みたいなものだ。よろしく。」
ギンに続いてエレシアも自己紹介をする
「カドモス=サブド・エレシアです。混血の種族で、今はギンの家に預かってもらってる身です。」
エレシアの名前を聞くとメキライは何か感づいたような仕草をしてエレシアに目線を向けるが、私は精一杯メキライから目を逸らし深掘りされることなく話が続いた。
…正直助かった。
「…ギンさん、エレシアさん。改めましておはようございます。僕はメキライ・ファスフロト、種族不明の奴隷です。」
『奴隷』と言う言葉にギンがピクリと眉毛を動かす
「おいおい…俺らが保護したんだから自分を奴隷呼びするのやめようぜ?」
ギンの言葉にメキライは「あぁすみません…口にこびりついてしまってて…」と片手で口を制して口を噤んだ。
ギンの一言で空気が悪くなり、しんとした空間がリビング中に広がる
「さぁて、簡単な自己紹介はこれで終わり!これからメキのためにハルフーンを朝一から呼んでるんだ。急いで朝食を食べてすぐ行くぞ!」
ギンお得意のノリで重たい空気を押しのける。
メキライはエレシアにクイクイと優しく頭突きをして顔を近づけるよう合図し、耳打ちをした
「あの…気になったんですけどハルフーンって?」
「あぁこの都市の国王様。ギン昔からハルフーン国王と仲が良かったらしくてね。」
エレシアの補足でメキライは「えぇ!?国王と会うんですか?」と驚くが、ギンもエレシアも国王と会うことにあまり特別感を感じていないことにどうも驚きの感覚が鈍る
「んも?何やってんだお前ら、用意したんだから早く食べろよ。」
気がついたらテーブルには三人分の食事が綺麗に並んでいた。そのうちの一人はすでに半分以上を食い尽くしている。
「ギン早すぎでしょ…」とエレシアは笑いながら席に座り、朝食を食べ始める
話の切り替えの早さにメキライも追いつけず戸惑うが、とりあえず自分の分まで朝食が用意されたことに感謝しながらメキライも椅子に座って朝食を食べた。
三人で食べる初めての朝ごはんは、なんだかちょっと美味しく感じた。
三人とも食べ終わり、ギンが席を立つ
「さて、食べたやつから皿をくれ。洗っとくからそのうちに家から出る準備しとけよ。」
エレシアはギンに「それじゃあ頼んだわ!」と、メキライの分も回収してギンに託し、二人は王に合う支度をした。
ギンの皿洗いも終わり、メキライとエレシアも準備が完了した。
「みんな準備いいか?」
ギンはジャケットの胸の位置についているバッジを親指で擦って綺麗にして、身だしなみを整える
「それじゃあ行くか!」
ギンは扉を勢いよく開けて隣の豪邸まで歩き始めた。
「ハルフーン。いないのか〜?」
管理者に門を通してもらい、豪邸の中に入る。
普段なら玄関から入って真正面の扉を開けると謁見室にハルフーンがいるのだが、今日は約束している時間を過ぎても一向に現れる気配がない。
「ねぇギン、本当にこの時間?何か間違えたんじゃないの?」
いきなり用事を入れ込んだのでギンも「もともと予定が入ってたのを無理やりキャンセルさせちゃったからなぁ…どうなんだろう。」とあやふやな返答しかできなかった。
しばらく三人で待っていると正面の王座の隣に黒い霧のような陰が渦巻く
ギンが警戒して二人を庇いながら、戦闘態勢へと切り替える
黒い霧の中から現れたのはハルフーンの側近のアヌビスだった。
ギンは戦闘態勢をやめてアヌビスに聞く
「ハルフーンの側近だな。ハルフーンはどこに?」
アヌビスは普段と変わらない口調で話す
「ハルフーンは、現在眠っておられます。」
「寝てる?まだ寝てるのか?朝一に来いと俺が電話したのに?」
そこまで質問をしてギンは何かの異変に気づいた。
再びアヌビスに対して戦闘態勢を取る
「お前、ハルフーンに何した。」
アヌビスはシラを切るように答える
「なんのことでしょうか。」
「とぼけるなよエセ側近が!!」
アヌビスの態度に食いつくようにギンは大声で怒鳴った。
さっきまでとは違い、ピリッとした空気が謁見室全体を覆う
「ハルフーンを呼び捨てする側近は無礼知らずのクズぐらいだろ。お前に言ってんだよ。」
ギンは湧き上がる怒りをなんとか沈めながらアヌビスを探る
「流石、国王直属の取締役なだけあって感が鋭いですね。悠楽ギン。」
「ハルフーンはどうした。今どこにいる」
「言ったはずです。アイツは眠っている…と。」
ギンが言葉を理解した時、ギンの体は無意識にアヌビスを攻撃対象として認識して動き始めていた。
「お前!ハルフーンを殺したのか!!!」
思い切り右フックを仕掛けるが、顔の手前でそれを止められる
「殺したとは言っていないだろう。頭に血が上りすぎだぞ悠楽ギン。」
「どっちにしろ貴様を叩きのめす!!」
アヌビスの余裕感と不快な笑顔にギンは怒らずにはいられなかった
左手で魔法陣を作り出して魔法を至近距離で放つが、アヌビスは全くの無傷で反撃もせずにその場を動かない
ギンは再び距離を取って相手の様子を探る
「もう少し強いかと思っていましたが…あまり実力派ではなさそうですね」
「クズが…粉々にしてやる…」
明らかに冷静な判断ができていないギンを、エレシアとメキライは謁見室の扉の近くで見守ることしかできなかった。
いや、どう対処すれば良いかわからなかったのだ。
「そろそろ終わりにしましょう、悠楽ギン。君は実に感が鋭く行動力にも優れている…なかなかにいい器だが、人間だ。もう少しマシな種族だったら生かす選択もあっただろうが、お前にドラゴンとキマイラを渡すわけにもいかないのでね。」
「何わけわかんないこと言ってんだ…」
「おや?その様子だと、気づいていない?」
アヌビスは不吉な笑いを謁見室中に響かせて話す
「やはり低種族、君は用済みだ。」
ギンはその言葉に露骨に怒りを表すが、その感情を押しのけてニヤリと笑う。
「ああ、お前もな。」
ギンは相手から見られない位置で魔法を使い、力をずっと増幅させていた
赤黒い光が大きなエネルギー弾から溢れ出す
「ぶっ飛べクズが…!」
ギンは左手を突き出して魔弾をアヌビスに向ける
「アプロカイト・バルブラスト!!」
ギンの詠唱とともに、謁見室全体は光に包まれた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます