第⬛︎話 世界が動く
祭壇のようなステージに、とある種族が一人立っている
「古代の力があらんことを。私たちの理想は、もうすぐ私たちの手に…」
後ろからヒタヒタと歩く音がして、やがて二人揃って復唱する
「古代の力があらんことを!神の力があらんことを!」
祭壇の炎が揺らめく中、大きな影だけが壁に映された。
「なんだって!?」
ギンからの電話の内容に国王ハルフーンは驚いて声を荒げる
時刻は日付を変更した真夜中、こんな時にギンは急用だと言って電話をかけてくるのだ。
だが話の内容を聞く限り本当に急用だ。
「今日の夜お前に頼んで偽金を用意してまで俺が参加したオークションの話、なぜそこまでして俺が参加したかは知ってるよな?」
ギンが小さな声で話す
「あぁ。奴隷が闇オークションで売られているからそれを保護するって言ってたな。まさかそいつが…」
どうやらギンがオークションで買い取った奴隷は天使アザゼルに育てられた奴隷だとギンは言い張っている
誠に信じがたい話だがこんな時間にギンがドッキリを仕掛けるはずもない。
おそらく本当なんだろう。
「話を聞いたところによると種族不明、親の記憶はなくて覚えている中で一番古い記憶がアザゼルと一緒にいた記憶らしい。」
「天使が他種族と関係を持つなんて…例外だろ。」
基本的に天使は動物などの生き物に関与しないはずなのだが…
「それよりも、種族が不明ってどういうことだ?元ハンターだったお前なら反社会的種族も面識あるだろ?」
ギンは絞るように声を出して答えた。
「いや、俺も初めて見た時は衝撃を受けたがその奴隷、姿を獅子と羊と蛇の三種類の姿に変えることができるんだよ。」
姿を変える種族など聞いたことがない。代々王位を継いできたファストマ家の記者にもそんなものはなかった。
ハルフーンは目を閉じて頭の中のごちゃごちゃした記憶を整理しながら話す
「信じれないさ、三種類の姿になれる奴隷だなんて……それに俺はアザゼルのことでもう信じられない。たしかにその奴隷は特殊だが、天使が関与するほどの話か?」
「確かに少し特殊な種族がいたところで天使にとってはどうでもいい話…となるとやはり奴隷側にも何かがあるのかも知れない。」
いきなり闇オークションで出会った種族不明の奴隷は天使に育てられた正体不明の生き物。
この世界はどうなっているんだ…と、自分でも問いただしてみたいものだ。
「ひとまず、明日緊急で別荘まで来て欲しい。言葉よりも目で見た方が早いし、お前も疑問に思ったことを言えば何か答えてくれるかもしれん。」
「わかった。昼ごろしか空いている時間がないがそれでもいいか?」
ギンはため息をつきながら「昼まで俺に任せろと?」と不服そうな声を漏らしたのでハルフーンが胸ポケットに入っているメモ帳を取り出して午前の用事に大きくバツ印を書いた。
「いや、朝一にしよう。こんな問題、早く解決しなければ世界レベルで問題になる。最も、俺たちだけで解決できる相手でも無さそうだが。」
いくら俺が国王であろうとも相手は世界中の誰でも知っているであろう神話のお方だ。
闇オークション以前に世界問題だろう。
「わかった。それなら明日の朝一によろしく頼む。俺もそこまでは精一杯この奴隷を守る。」
「あぁ。頼んだぞ。」
重い空気のままハルフーンはギンとの電話を切り、そしてため息をつきながらベッドに倒れ込んだ。
「…アザゼルが天使だった頃に引き取られ、堕天使になるとともに奴隷として売り捌かれた姿を変える謎の種族。こんな話が公に出たら———」
そこまで独り言を話していると得体の知れない嫌な雰囲気を体全体で感じ取り、ハルフーンはベッドからバッと起き上がり戦闘態勢になる。
「誰だ。盗み聞きとは趣味が悪いぞ!」
扉がゆっくりと開き、現れたのは側近のアヌビスだった。
「失礼しました。脅かしたつもりはありませんが少し声がしたので…」
アヌビスは片膝をついて屈み、忠誠の意を込めた。
ハルフーンは戦闘態勢を止めて重い口を開く。
「私の部屋の前まで見回りとは、気が利くな。」
優しい声でアヌビスに接したかと思えば今度は声の調子を変えて低く唸るような声で質問をする
「それで、どこまでの話を聞いた。場合によっては貴様の護衛を外すことになるが——」
ハルフーンの言葉を最後まで聞かずにアヌビスは答える。
「全てです」
ニヤリと笑うアヌビスに今まで味わったことのない恐怖感と制圧感、緊張感が一気に襲いかかる
ピリピリとした空気に背筋が凍るような悪寒、ハルフーンはアヌビスのその不気味な笑みに精神が吸い取られそうになる。
「無駄なことに頭を突っ込んだ貴方様はもう、用済みですので。」
ハルフーンはパニックになる感情を抑える。
すると次に飛び出してきたのは猛烈な怒りだった。
「何をふざけたこと———」
ハルフーンが怒りに任せて話そうとする中、自分の腹部にアヌビスの槍が刺さっていることに気づく
「大人しくしていればよかったものを…」
気づけばもう一人のアヌビスがハルフーンの後ろで腹部に槍を刺していた。
おそらく魔法で気配を消し、透明化して背後に回り込んだのだろう。
対抗しようにも魔法で体の自由を奪われているらしく、全く体が動かない。
「貴様ら…国王にこんな…事をして、許されると…思っているのか!!」
翳めた声に力を入れ、荒げながらハルフーンはアヌビスに問う
だがアヌビスはただただ不吉な笑みを見せるだけだった。
「大人しくしていたまえ国王ハルフーン。私たちが新しい真の世界を見せてやるのだ、お前はしばらくそこで休んでいろ。」
アヌビスが槍を思い切り抜く
瞬時に紫色の魔法陣が傷口を覆うように発動し、傷口の再生を阻害する
ハルフーンは意識が朦朧とする中で声にならない言葉を何度も叫んだ
「ヤ……メ…ロ………」
アヌビスは二人揃って無様に寝転がる国王を見て嘲笑い、「静かに寝ていろ」とだけ言って扉をバタンと閉められた。
冷たい空気が漂う中、蝋燭の光だけがユラユラと影を映すだけだった。
ハルフーンを始末したアヌビスが蝋燭の灯りのついた廊下をヒタヒタと足音を立てて歩く
「さぁ…キマイラを返してもらおうか。悠楽ギン。」
二人は不吉な笑い声を廊下中に響かせて、闇に消えていった———
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