第34話 最終決戦 (3)
ギンを咥えて、メキライは現世界へと戻る
ゆっくりとギンを下ろして傷口を見る
「これは、反転魔法…やっぱりアイツらの狙いは『ツタンカーメン』か。」
反転魔法は通称『堕ちた魔法』と呼ばれ、罪のあるものに罰を下すために用いられる魔法
それをこの世界で使われたという記録がアヌビスの書物に載っていた。
ツタンカーメンだ。アヌビスから魔素を使う魔法を奪い、堕天使ルシファーから魔素を用いる反転魔法を習得した生きる悪魔。
その呪いはツタンカーメンとの接触を図った者を殺すほどの威力を持つほど強力らしい。
「ツタンカーメンが何らかの方法で一定期間復活、アヌビスを従えて反転魔法を与えたのちに完全復活を果たすために動かした…これなら全ての辻褄が合う。」
メキライはギンを器用に背中へと運び、空間を変えてフラットな世界へと移動する
「反転魔法を治せるのは魔法に相当の知識があるものでなければいけない。そうなるとエレシアに魔法を教えたエルフの森の女王か……」
メキライは現世界でエルフの森がある方向を向いて、フラットな世界を全速力で駆け出した
「助けるから…ギンさん!そして、待ってて…エレシア!!」
アヌビスが作った世界でエレシアはアヌビス二体と互角の死闘を繰り広げていた。
槍は鱗以外の場所にあたれば致命傷、それに加えて近接もできるアヌビス二体を相手にするのはなかなかに体力と集中力が試される
「パルスインパクト!」
アヌビス一体にヒットして思い切り吹っ飛ばす
(やった…!)
リフリアの教え通りに戦えているのに喜んでいるともう一体のアヌビスが槍を大きく振って柄の部分が体に当たる
「ぐぅぅう…」
いくらお腹の部分を鱗で覆っていても打撃の振動が体に響く。
その間にさっき吹っ飛ばしたアヌビスがもう距離を詰めてきている
休みのない二体の攻撃
エレシアは徐々に攻撃が受け切れなくなり、アヌビスから強烈な右フックを顔にもらう
顔までは鱗で覆うことができないので大きなダメージが入るが、体を捻りながら飛ばされることで首の損傷は免れた。
「うっ……くぅ…」
口の中が切れて血の味がする
頬もヒリヒリしてて少し腫れているのが触らなくてもわかる
(顔が弱点になってるのがバレてる…こうなったら……)
尻尾から鱗を持ってくる方法で顔をドラゴン化させる
これをすると顔と体のバランスが崩れて気持ち悪い姿になるが、こんな戦いの場面に見た目を考える余裕なんてない。
「ヴォォォォォォォォオ!!」
大きな雄叫びをあげながら、エレシアは再びアヌビスの元へと突っ込んでいった。
(エルフの森まで後少しだ。)
特殊魔法『別空間選択』を使ってエルフの森まで全力で走る
この魔法は空間や時空を飛び越えることができる魔法であり、自分以外が作った空間でさえも飛び越えることが可能である。
ただ使いにくい点として空間を選択したのちに別空間での自分の立ち位置を変更し、元の空間に戻ると別空間で移動した分元の空間でも動いたことになる。
逆を言えばどれだけ遠いところに行こうとしてもそこまでの距離を近づけることはできず、その世界と同じ距離を移動しなければならないのだ。
今回も、フラットな世界に別空間選択をして走ってはいるが、もともと国王の別荘からエルフの森までが遠いのでその距離をフラットな世界で移動しなければいけない。
(ここら辺か?どうだ、着いてくれ!)
別空間選択をして現世に戻るとエルフの森があるクレーターの前まで来ていた。
メキライは大きな声で叫んだ
「リフリア女王!すまないが緊急の事態だ!手を貸してくれないか!」
それを喋った数十秒後にリフリアが転移魔法を使ってメキライのもとにやってくる
リフリアはキマイラの姿のメキライを見て驚く
「キマイラ…まさか本当にいるなんて…」
「すまない。今はそんなことに感銘を受けている場合ではないんだ。ギンが…」
メキライはゆっくりと体を動かして背中に乗せているギンを下ろす
そのギンを心配してリフリアは側に駆けつける
「ギンが…これ、反転魔法!?どうしてこんな傷を…?」
「国王の側近アヌビスがおそらく裏で手を引いているんだと思われる。どうだ、エルフの森の女王なら治せると思ったんだが…」
リフリアは傷の状態を見て険しい顔で言った
「難しいわ。この反転魔法は傷口が再生するのを阻害するものなの。だから内側から傷を治すのはできないし、いくら私でも反転魔法を無力化する方法はわからないわ。けど、生命活力を増幅させることで延命をすることはできると思う。」
メキライはその情報を聞いて一安心する
「そうか、それならよかった。すぐに手当してくれ。俺は国王を探しに行く。話を聞くとアヌビスにやられている可能性がある。」
メキライとリフリアがいることにエルフやシルフの妖精達が集まり、ドルフやプルピィも寄ってきた。
プルピィは意識のないギンを見るなり号泣しながらギンにしがみついた
「ギンが…どうして!!なんでこんな…!」
リフリアは元からプルピィがギンのことを好きだということを知っていた為、何も言えずにいた。
「ギンが助かるなら今すぐ手当をして欲しい。俺は国王を助けに再び戻る。…迂闊だった。アヌビスの話を聞く限り国王はギンより前に刺されている可能性がある。一緒に探し出して持ってくればよかった…」
困っているメキライを見てリフリアが提案する
「私は医療室にてギンを応急処置します。そのため他のことに魔法を使うことができませんが…」
プルピィの方を向いてリフリアは話す
「プルピィなら転移魔法が使えます。」
リフリアは泣いているプルピィを優しく抱えてお願いをする
「私は全力を尽くしてギンを助けるわ。だからあなたはギンの友達を救うためにも、このキマイラに転移魔法を使ってください。それがあなたにできるギンを助ける手段です」
プルピィからして見れば憧れのリフリア王が自分にしかできないとお願いをしている状況だ。
当然溢れ出ていた涙はスッと引っ込んで真剣な顔つきになる
「わかりましたエレシア王、プルピィ・プリューゲル、この身を尽くしてでもギンの友達を助け出します。」
そう言ってプルピィはキマイラの元へ羽ばたいて魔法を説明する
(ギンのためにも、この森のためにも、頑張ってね。プルピィ)
リフリアは他のエルフやドリヤードに協力してもらってギンを医療室まで運んだ。
「簡単な説明をするわ。私の転移魔法は持続性のある特性魔法。特定の場所まで移動できる魔法陣を出現させることができて、そこに乗れば行き来が可能になるわ。」
「片道切符じゃないのはとても時間短縮になって助かる。早速作ってくれ。」
プルピィはメキライの前を円状に飛び、真ん中で魔法を唱える
「ディメンションゲート!」
大きな魔法陣が完成し、黄色い光を放つ
「さぁ乗って。自分が一番行きたい場所を頭の中で想像すればそこに辿り着けるわ。」
メキライは魔法陣の上に乗ってプルピィを見る
「ありがとう。必ず助け出す。」
そう言ってメキライは国王の別荘の謁見室まで転移した。
(なるべく早く帰ってきてね…キマイラさん……)
「ブラスタ!」
エレシアはアヌビス二体から距離をとりながら遠距離魔法を放つ
いくら弾けたとしても少しずつダメージは与えている
(ただ、二人を相手するのは…!)
一体に集中している間に二体目のアヌビスが距離を詰めてきた。
エレシアは尻尾を器用に使ってアヌビスを叩く
一度怯んだものの尻尾を掴まれてしまう
(くっそ!それなら…)
エレシアは尻尾のドラゴンを解除して切断し、再びドラゴン化をして尻尾を生やす
「これはなかなかやる…」
アヌビスは切り捨てられた尻尾を捨てて再び襲いかかってくる
(こんな逃げ一択…いつまで経っても逃げ切れるとは思わないし、ここで一発…)
エレシアは立ち止まって口を膨らませ、襲いかかるアヌビス向けて炎の弾を撃ち放つ
「何!?火を吹いた!?」
流石のアヌビスも避け切れずに火炎弾に直撃、大ダメージを与える
「よし!ドラゴンの姿なら炎が吐ける!」
顔をドラゴン化しているので炎を吐くことができ、それを使ってアヌビスにダメージを負わせることができた。
だが、
「そんなもので勝てると思うなチビドラゴン!」
もう一体のアヌビスが思い切り突っ込んできて槍の石突き部分で腹部を思い切り突かれる
「うぐっ…」
エレシアはその衝撃に吹っ飛ばされて受け身を取りきれずに地面に打ち付けられる
「鱗が硬いから槍が刺さらない。ならば内部を破壊すればいいだけだ。」
アヌビスは攻撃を止めることなくエレシアに向かっていくのだった。
プルピィの転移魔法によって再び謁見室に戻ったメキライは大きなキマイラの姿を獅子の姿に変えて別荘を探し回る
(どこだ…?どこにいる?)
ただ別荘を探し尽くしてもどこにも国王ハルフーンの姿が見られない
(こんな時間ないのに…そうか。別荘じゃなく本拠地にいるんだ。)
メキライは再びキマイラの姿に変身して王の本拠地、都市の中心へと向かった。
(ここら辺だろうか…)
見張りに見つかることなく建物の中で別空間選択をして潜入する
(やっぱり…血の匂いがする!)
鼻がいいメキライはたくさんある部屋の中から一番血の匂いが濃い場所を突進して扉を突き破る
そこにいたのはベッドで横たわっている青白くなった国王ハルフーンだった。
血の渇きぐらいから見て今日刺されたわけげはないようだ。
「やっぱりか!くそっ、判断が甘かった!今すぐエルフの森に戻って手当てをしなければ」
メキライはギンの時と同じように器用にハルフーンを乗せるがギンを乗せたような温かみはなく、だいぶ冷え切っている状態だった。
「まずいぞ…ここまで冷え切っていると命にも関わる、全力で魔法陣のところに戻るぞ!」
メキライは再び別空間選択をしてフラットな世界に飛び、全速力でプルピィの魔法陣のところまで戻っていった。
エルフの森でプルピィが魔法陣を展開し続ける
だが、距離の離れている魔法陣を維持することはマナを多く消費する
「頑張って耐えろ私!この身に変えても…!」
プルピィは全力で魔法陣が途切れないように繋ぎ止めるが、心身ともに限界だった。
(早くきてよ…!キマイラさんっ…!)
魔法陣の光もだいぶ弱くなり、とうとう点滅し始める
(だめ……もう、切れる!!)
意識が朦朧としてそろそろ倒れる…
諦めて魔法陣を解除しようとした時、身体中からマナが溢れ出る感覚が感じられた
振り向くとそこにはリフリアの側近でいつも秘書の役割をしていたドリヤードがプルピィにマナ増強魔法を使っていた
「あなたは…ドラード!」
「正直、リフリア様がプルピィに王位を継承するって言った時すごく悔しくて、腹立たしくて…あんたは心底嫌いだったよ!」
プルピィが何かを言おうとするが続けてドラードが話す
「でもね!リフリア様が推薦する理由、なんとなくわかるわ。誰とでも気軽に交流を持って自分の性格を曲げない感じ……私はすっごく嫌いだけど羨ましいわ!!」
ドラードは涙を流しながらただただプルピィを援護する
「…ごめんねドラード。こんなおしゃべりがギンと仲良くなって、恋をして、リフリア様に気に入られて…私だって———」
「自虐なんていらないよ!」
ドラードの言葉が胸の痛い部分を突く
「自虐なんて…やめてよ!あんたが望んでなくても私が望んでるの!人から羨ましいと思われてるんだから自信持ちなさいよおしゃべり!!」
ドラードの震える声をプルピィは感じ取って振り返ると、ドラードが涙を流して自分に魔法をかけているのが見えた
「ドラード…」
自分は誰にも望まれないただの厄介者だと思ったいた。
仲良くなろうとしても自分が話しすぎるせいでみんなから嫌われて、ギンの恋も成就しない…
そんな自分に価値なんてないと思っていた。
だけど、それは違ったんだ。
(私はエレシアの友達で、ドラードの目標…)
自分の生きる価値はこれまで地道に努力したものが結果として表してくれた
「ありがとうドラード。私、もう弱音なんて吐かないから!」
その力強い言葉にドラードは「そういうところだ…お前のいいところは。」と呟いて全力でプルピィのサポートをする
「これならもう少し耐えれる…早く帰ってきて!キマイラさん!
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