第30話 都市の裏側へ (3)

コンサートホールのステージに蛇のような姿の種族が運び込まれる



「さぁ今回の目玉!感情によって姿を変えるなんとも奇妙な種族、こんな種族見たことない!『奴隷』だ!さぁこれは100万ウォルからスタート!」


いきなり高値でスタートをする



「ギン、あの子を保護するってどうするの…お金はあるの?」


「いや…正直さっきみたいな桁になったらどうにもならん。こっちが闇商売なら俺らも闇芝居で勝ち取るしか…」


ギンが冷や汗をかきながら答える

こんなに追い詰められているギンは初めて見た。


「どうやって?」

「ハルフーンに連絡した。あいつの創生魔法は再現度が高すぎて見分けられない。やってることは悪だがこのまま奴隷を見過ごすわけにもいかないだろう…」


ギンの言い方的におそらくギンは国王ハルフーンの協力を経て偽装のお金を作り、奴隷を買うつもりらしい。


やってることが完全にアウトなんじゃないかとも思うが、都合のいい話では世界は回らないというお母さんの話を思い出してエレシアは口を塞いだ。



「安心しろ。俺は爪痕を残さずに取引をするだけだ。ハルフーンの創生魔法は一日しか続かない。向こうはゼロ金で俺らだけ得をする作戦さ。」



二人で話していると再びコンサートホール全体が盛り上がる


「おっとここで19番が3倍だ!1500万ウォル!これは大きいぞ!」



ギンは値段を聞いてニヤリと笑い、「最高に美味しい金額じゃねぇか」と呟いて札をあげた。


左が青、右が白のライトを光らせて大きく掲げる



どうやら司会が一番後ろで札を上げるギンの姿を見つけたらしい


「な、、な、なんと!なんと!一番後ろの846番がここで!じ、10倍の高倍率だぁぁぁあ!!」


コンサートホールの席に座っているほぼ全ての客が一番後ろで札を上げるギンを見る


エレシアは一気に注目の的になったギンの後ろに隠れてバレないようにする



「まさかまさかのチャレンジャー!金額は15000万ウォルに跳ね上がる!これには誰も手出しできないか!?」



コンサートホール全体は落札のことなどどうでもいい雰囲気になり、ただただ一番後ろにいる10倍の札を掲げた謎の男にしか注目がいかなくなった



「おいあいつ誰だよ」

「見ない種族…誰?」

「くだらん。何も知らず適当に札をあげただけだろう。愚かだな。」


ざわざわと騒がしくなるホール全体に銅鑼ドラの音が鳴り、落札が決まる。



ギンは札を下ろし、相手から見られない程度にフードをあげて状況を確認したのちに、魔法陣を足元に展開して転移した。




「ふん。逃げたか。」

「くだらんお遊びか…」



会場は謎の男が消えたことにより再びざわざわし始めるが、司会の強制進行により再びオークションが始まった。










「あ、危なかったな…」

エントランスにある大きな柱の裏に転移したギンとエレシアは身を小さくさせてオークションが終わるのを待つ。


「ギン、でしゃばりすぎ。流石に私怖かったんだけど」

ギンはエレシアに怒られながら「すまんすまん」と笑いながら謝る


「一発で手の出しにくい金額を叩き出せば競り合った時より落札する確率が上がると思ってな。特に常連じゃないやつは他の客と競り合いしてるうちに常連に取られそうだったから一気に詰めたんだよ。」



適当に大きな倍率を出しただけだと思っていたが、それなりの理由があることにエレシアは納得する。



「それにしても抜け出してきて大丈夫だったの?」


「ああ、特に問題はないだろう。あとは全てのオークションが終わるのを待つだけだ。」




二人は柱の後ろに隠れながらオークションが全て終わるのを待った。









オークションが終わって数十分が経過し、参加していた客も随分と少なくなった。


「…よし。そろそろ俺らも動くか。落札した人はエレベーターを使って受け取り場まで行く仕組みらしいな。」



ギンはパンフレットの一番後ろ見ながら言った。


「行こうか。ハルフーンからも連絡がついた。」


ギンは立ち上がり、エレシアの手を引いてエレベーターまで走っていった。





エレベーターに乗り地下二階へと向かう。

地下二階に到着し、扉が開くと司会を務めていたデビル族の声が聞こえた。


二人はその声をたどりながら道を進む。

着いたのはオークション品が残り少なくなったミニホールだった。


ギンとエレシアはフードを深く被り、ギンはあらかじめ用意していた黒い手袋をはめて手をポケットに突っ込みながら商品受け渡しの場所まで歩いていった。



司会が最初に二人を見つけて声をかける


「846番ですか!?」


ギンは何も言わずにポケットから846の札を司会に見せる。


「確認いたしました。それにしてもあの高倍率での落札、気持ちよかったです!」


どうやら一番後ろの立ち聞きする場所からの高倍率落札は異例の事態だったらしく、ギンの判断に司会のデビルは感激したそうだ。



「さぁこいつが貴方様の落札した『奴隷』でございます。」


ギンはその奴隷に近づいて目を合わせたのちに「あぁ。間違い無いな。」と唸るやうな低い声で言った。



「それでは…15000万ウォルですが、どこにあるんでしょうか。」


ギンは事前にハルフーンに頼んで作ってもらった金を入れたスーツケースを魔法陣から取り出す。


「これで足りるか。」


スーツケースを開けてデビルに見せる。



「…少しこちらで精算させてもらってよろしいでしょうか。」


ギンはスーツケースの蓋を閉めてデビルに預け、部屋の隅の方に移動して生産が終わるのを待った。

なんとか偽物のお金だとバレずに済んだ。




しばらく経ってデビルが駆けつける


「精算が完了いたしました。15000万ウォルちょうどです。今回はオークションに参加いただきありがとうございました。」


ギンは縮こまる蛇の姿をする奴隷を両手で抱えてミニホールを後にした。





エレベーターに乗った二人はフードを取って大きなため息をする


「上手くいったね。」

「ああ。大成功だ。」


エレシアとギンはハイタッチをして笑い合う

その姿に奴隷は戸惑う


「あ…あの、本日はご購入いただき…ありがとう、ございます。」


弱々しい声だがはっきりとした日本語を喋っている



「お前…日本語が喋れるのか?蛇なのに?」


ギンの質問に奴隷は戸惑うが、何かを喋る前にギンが喋る



「とりあえず、話は後でたっぷりと聞いてやる。エレベーターから出たら柱の後ろで転移魔法を使ってこの街を出ようか。」


ギンの最後まで気を抜かない姿にエレシアは「わかった。」と身を委ねるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る