第29話 都市の裏側へ (2)

迷路のような薄暗い路地を手がかりなしで歩き回る


他の種族ともすれ違うことがあるが、堂々としていればバレないことに気づいた二人は物陰に隠れることもせずどんどんと突き進んでいく。


「ギン、本当にこの道あってるの?」


エレシアが小さな声でギンに聞く


「わからない。けどこんなチャンス今しかないだろう…他種族とすれ違うわけだから近くにあるはずだ。当てずっぽうでも見つける価値はある。」


ズンズンと突き進むギンにエレシアは身を委ねるしかなかった。





しばらくしてギンが立ち止まる

ギンの後ろにずっとついていたエレシアはいきなり止まるギンにぶつかって「ひでっ」と弱々しい声を出した。



「明らかにここだろうな」


ギンの横から顔を出して確認する

目の前にあったのは古びた建物の外見にそぐわない、なんとも新しい扉だった。

古い建物にハリボテのようにくっついている扉は明らかに怪しい雰囲気を漂わせている。


「俺が確認してくる。手招きしたら入ってこい。」


エレシアは後方の確認をしながらギンの合図を待った。



しばらくしてギンの手が扉から出てきて小さく手招きをする。

おそらく当たりだろう。


エレシアは固唾を飲んで扉の中に入っていった。








扉を入ると古い建物の外見とは打って変わって豪華なエントランスの作りになっていた。


「な…なにここ…」


「こっちだ」


ギンが呼ぶ方には開きっぱなしになった大きな扉があった。

エレシアはギンに呼ばれてその扉のすぐそばまで移動する。



近寄った瞬間に聞こえる大きな歓声

次に目に飛び込んできたのは開きっぱなしになった大きな扉の向こうに見えるコンサートホールだ。


エレシアはギンの側によってコンサートホールを扉のすぐそばから覗き込む

客席はさまざまな種族でほぼ満席状態、ステージには———



「さぁ!次の商品に参りましょう!お次の商品もなかなかの品物、かつての魔導士がこの世界に持ち込んだとされる禁忌の書『アルマゲドンの覇者』です!」


ステージの中央部分でマイクを持った陽気なデビル族が司会進行を務めている

ステージに準備されたのは、おそらくデビル族が紹介していた本『アルマゲドンの覇者』だろう。



「見るからにやってるな…」


ギンは魔法陣を右手で作り出し、その中に手を突っ込んで真っ黒なフード付きコートを二枚取り出し、一枚エレシアに着せた。

もう一枚はギンが羽織り、フードを深く被る



「もう少し潜入するぞ。お前は何も喋るな」


ギンはエレシアにフードを被らせながら耳元で指示をする。

ギンの口調からもここが本当に闇オークションだということが想像つく。




ギンとエレシアは意を決してその闇オークションへと足を踏み入れた。






扉を抜けるとすぐに警備員のような人に足を止められる


「種族をお伺いしてもよろしいでしょうか。」


ここである程度の種族分けをしているのだろう。人間やゴブリン、その他身分の低い種族や社会秩序に忠実な種族だと一発退場だ。



「魔導士です。こちらは使い魔の『ザバージャ』」


ギンとエレシアは顔を精一杯フードで隠しながら警備員に答える


「それでは何か証明になるものを提示させていただけると…」



ギンは警備員に聞こえるように舌打ちをして魔法陣を作り出して本を取り出した。




「これで十分か?」


その本を見た途端に警備員は思わず後退りをする


「サタンの終焉記…!?失礼いたしました!どうぞ中へお入りください。」



ギンは本を仕舞い込んで警備員から札とパンフレットを貰い、エレシアを引き連れてコンサートホールの中に入っていった。

なんとか潜入することに成功できた。




コンサートホールの一番上で全体の様子を観察する


「席に座るのはやめておこう。隣の奴にダル絡みされると危険だ。」


ギンが冷静に判断する中でエレシアはどうも警備員を圧倒したものが何か気になって仕方がなかった。


「ギン…どうやって警備員を?」


ギンは慌ててエレシアの耳に顔を寄せ、小さく話す


「お前、喋るなって言っただろ…あれは偽物、『コピープレット』って魔法で昔コピーしたことがあったんだよ」


エレシアはギンの素早い判断に感心しながらも今後は喋らないようにと自分に念押しをする



大きな歓声が聞こえると思ったら既に本のオークションが始まっていた


「186番!2万ウォルの10倍で20万ウォルだぁ!なかなかの金額がつけられるこの『アルマゲドンの覇者』一体誰がこの戦いを制すのか!」



「このオークション、普通のオークションと異なる進行の仕方だな…」


ギンはオークションの一連の流れを見て判断する。


「番号札の上の方に二種類のランプ…これで数字を決めているんだろう。さっきの186番、俺らは後ろから見ているが正面から見れば左が青、右が白だ。」


ギンは警備員からもらったパンフレットの一番後ろについている「オークションについて」を読む


「青は数字の1、白は0を表しているらしい。だから10倍なのか…」


エレシアは引き続きオークションの流れを見る



「347番が1.2倍!24万ウォルになったところを469番が1.4倍で33.6万ウォルに跳ね上がる!」



「ギン、今札を上げた二人、左が白だった。」


「数が被らないように少数倍率を表す時は左を白色にして2桁と区別しているんだ。」



二人で協力しながらオークションの仕組みを理解する。



「それにしても…ここのオークションは掛け算方式なのか。飛んだ闇商売だぜ…」



通常なら足し算でどんどん増えていくのだが、ここはどうやら掛け算方式らしい。桁が違えば一気に膨れ上がる。




「さぁ33.6万ウォルになったのを…おっと!337番が1.6倍!ここにきてなかなかの倍率だ!合計で53.76万ウォルだ!最初の2万ウォルに比べれば20倍以上の価格だ!」


ギンがパンフレットのページをペラペラとめくって商品の詳細を読む



「予想金額は30〜50万ウォル、いい線いってる感じか」


「この商品は狙わないの?」


エレシアがギンに聞く


「いや、俺らオークションしに来たわけじゃなくてどういった物がどれくらいの価格で取引されてるかを調査しにきただけだから基本参加しないぞ。」


エレシアは「面白そうなのに…」と露骨に悲しみながらパンフレットを読み、ギンは再びオークションを観察する



「53.76万ウォルだ!337番の落札か!?おっとここで勝負をかけにきたぞ15番!まさかの2倍だ!!107.52万ウォル!」


札が上がったのはコンサートホールのほぼ最前列に座る魔女だった。

おそらくあの位置と番号からして常連なのだろう。


コンサートホール全体がワッと活気で溢れる

なかなかの倍率に客も盛り上がったのだ。


「一桁倍率は左側の光なしで右側だけを付けるのか…」



ギンは自分の札をいじりながらそのまま観察を続ける

正直見ていても全く飽きない。むしろここまで金額が上がると見ているこちらも面白い。



「さぁ盛り上がってきました『アルマゲドンの覇者』いよいよ落札だ!どうだ、決まるか!?」


スッとここでも札が上がる

ライトは左が白、右が赤だった。



「これは17番!1.5倍で161.28万ウォル!なかなか譲りません!」


17番は見た感じどこかの貴族らしいが客が邪魔でよく見えない。



「さぁ落札だ!どうだ!?他にはいないのか!?」


15番が露骨に悔しがる中、痩せ細ったゴブリンが銅鑼ドラを鳴らして落札が完了。

161.28万ウォルで魔導士の本『アルマゲドンの覇者』が落札された。



ギンはエレシアにペンを渡す

「さっきの本、161.28万で落札された。パンフレットにメモってくれ。」


エレシアは言われた通りに値段を書いてページをめくり、次の商品を見る

しかし次のページには『奴隷』という名前で種族不明の何者かがオークションに出ていた。



エレシアは急いでギンにそのページを見せる


「ギンこれ…物じゃない。種族不明の何かがオークションに出されてる」


それを見てギンはニヤリと笑う


「ついに正体現したか闇オークションめ…こいつは俺が落札して保護する」



おそらくこの奴隷がオークションに出るのはこれからオークションが始まる物の次にある


ギンとエレシアはそれまでにこのオークションの仕組みを覚えるのだった。





「さぁお次はこちら!海の中に住む美しい人魚、その涙は飲むと永遠の若さを保つことができる…『セイレーンの涙』さぁ!この超お宝、50万ウォルからスタート!」



ギンがパンフレットを読む

「セイレーンの涙!?これは完全にやってるな…セイレーンの接触は世界で禁止になってるはずだが…」


値段からして偽物だと判断しづらい。

もしこれが偽物だったらこんなに人が集まるわけがない。


おそらくここは本当の闇商売だ。



「おっと!いきなり15番が3倍だ!150万ウォル、さぁお次は…ここで19番がなんと5倍!?一気に膨れ上がって750万ウォルだ!!」


あっという間に金額が膨れ上がり、それと同時に客の盛り上がりもどんどんヒートアップする


「さぁここで誰が動くのか…」

ここでスッと札が上がったのは最前列の中央に座る魔族シャイターンだ。


「ここにきてついに1番が動いた!倍率は…15倍!まさかの15倍です!脅威の11250万ウォル!これは誰も札をあげれない!」



これまで以上にない歓声と、おかしなほどの金額でコンサートホールはこれまでにない盛り上がりを見せる


銅鑼ドラが鳴り、瞬時に落札が決まる

恐ろしいほどの盛り上がりを見せたのだった。



「最前列の奴ら…強敵だな。おそらくここの常連、裏金で成り上がった奴らばかりだろう…」


ギンが心配しながら観察する中、ついにパンフレットに載っていた奴隷がステージへと運び込まれる。




「さぁ…闇商売との決戦だ。」

ギンは悪い笑みを浮かべながら呟くのだった。

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