第28話 都市の裏側へ (1)
太陽の日も真上から落ち始め、気温も少しずつ下がってきた。
ギンの後をついてエレシアはひたすら整備された道を歩く
ここは都市部の家が立ち並ぶ場所とは違い、野原が手付かずのままになっている
「ギン、どこに向かってるの?」
やけに強い風がエレシアの髪の毛を引っ張りながら、エレシアはギンに聞く。
「あぁ、流石に俺も仕事しなきゃと思って以前から気になってた場所に行こうとしてるんだけど…」
そこまで喋ったギンはエレシアの方を向いてなにやら絶望する
「どうしたの?」
「い、いや…これから行く場所、居酒屋とかが立ち並ぶ都市の中でも危険区域に指定されてる場所なんだが…その、エレシアがいたな…」
ギンはどうやら私の存在を忘れて一人で居酒屋の立ち並ぶ場所に潜入しようとしていたらしい。
「別にいいよ?」
「そういうことじゃないだろ…居酒屋に子供連れが来たら逆に目をつけられるだろ…」
ギンの心配する気持ちもよく分かるが、私はその言葉がどうにも『子供だから足手まといだ』という文脈にも聞こえて少し不機嫌になる
「私はまだ子供だけど、いちいち心配をかけなくても大丈夫。大丈夫だから私も連れて行って。」
ギンは「だから…」とエレシアの顔を見て何かを話そうとするが、エレシアの肝の座った強い眼光は明らかに初めて出会った時の弱々しいエレシアではないことが一目で分かる。
「お前…エルフの森で何かあったか?」
「はい。少しだけリフリアさんとお話しして…もう弱いだけの自分じゃないんです。」
ギンは「んー」と唸りながら考え、渋々と言葉を絞った。
「…わかった。基本俺が側についているからよっぽどのことがない限り大丈夫だと思うが、油断はするなよ。俺も自分のことでだいぶ精一杯なんだ。」
その緊迫感ある言葉の重みにエレシアは次行く場所が本当に危ない所だということをひしひしと感じた
日が落ちてきて涼しい風が吹く
その風がなんとも不気味で、気味の悪い寒さを引きつける
「…あそこだ。」
ギンが指さした先にあったのはピカピカと光り輝く小さな街だった。
街の外からでもわかる騒がしい声と、機械音。
ギン曰く「カジノ、ギャンブル、居酒屋、公には出ていない取引などが多発している場所」らしい。
エレシアはさっきまで見てきた街との圧倒的な違いに思わず「うわぁ」と本音混じりの言葉を呟く
「やっぱり止めるか?今ならまだ間に合うぞ。」
「いや、行くよ。私も都市の表部分だけじゃなくて、裏側も知りたいから。」
エレシアの固い決意にギンも「そこまで言うならもう止めはしないからな。」と忠告して歩き出す。
「行くぞ。」
日の光が黄色を超え赤色に染まる頃、私とギンは闇の街『ペリクロム・リゾート』へと足を運んだ
中は案の定いろいろな種族の笑い声や話し声でギンの近くにいてもギンの声が聞こえないほどにうるさかった。
「離れるんじゃねぇぞ!」
ギンが手をぐっと握りしめて私を迷わないように誘導する。
どうにか人気のないところまで行きたいが、なかなかに大きな身体をした種族ばかりで思うように進めない。
「お前不正か?殺ろされてぇのか?」
「ゴーレム族は石頭だ。なに言ってもわかりゃしねぇ。」
「お前やる気か!?アァ?」
周りから聞こえる声は誰も根太くドス黒い声だけ。午前中に聞いた市場の声とは全く正反対の声だ。
「いい場所を見つけた。行くぞ。」
私はギンに引っ張られながら巨大な身体をもつ種族の間を縫って逃げるように通った。
建物との間にできる路地までなんとかたどり着き、そこで一息つく
「こりゃあますます怪しいぜ…今のところ声をかけられたりされてねぇが、正直俺がいても『人間』って扱いだと狙われやすい。慎重に行くか。」
ギンは再び歩き出し、街の中心部へと踏み入れるのだった。
さっきまでいた場所とは変わって今度はギャンブル場のようなところに来た。
みんなでテーブルを囲って賭け事をしたり、マスターを中心にみんなが固唾を飲み込んで結果を待つ席もある。
「ギャンブル場か…いいな。」
いきなり高評価するギンにエレシアは驚きと呆れの感情を持ってギンを見るが、「ハハハ、ジョーク」と白々しい返答をしながらその場を後にする。
街の中心部には大きなタワーがあるがそこはどうやら立ち入り制限があるらしく、常にドーベルマン種族が見張っていた。
ギンとエレシアは物陰からその様子をこっそりと伺う。
「うーん…このタワーは入れないからまた今度にするか…」
「逆に普段は入れるの?」
「いや、多分入れない」
行動の返答がこんなにも一致しないだろうか
エレシアはギンの能天気さとなんとかなるだろう精神に今日も苦戦する
「とりあえずこのタワーの内部事情は国がなんとかしているだろう。俺らがやるのはそういうところじゃなくて、もうちょっとグレーなラインで商売とかをしてる場所を探すことだ。」
「確かあの場所が怪しくて…あそこは使われなくなった地下があるし…」とブツブツ呟きながら来た道を帰るギンにエレシアは心配になりながらも後をついていった。
再びギャンブル場に足を運び、建物との隙間にある小さな路地にギンは足を踏み入れた。
ギンに手招きをされてエレシアはギンの近くに寄る
「ここから本当に危ない調査になる。俺ら取締官ですら情報が出回らない場所だ。今一度気を引き締めるぞ。」
ギンはエレシアに耳打ちをして、路地を進む
(気を引き締めるのは私よりもギンの方だと思うんだけど…)
ヘラヘラしながらここまで来たギンに不安感があるが、実際のところ実力は認めざるを得ないほどに臨機応変に対応できるので人柄の問題だろう。
どうしてギンはあんなにも頼れるリーダー感が無いのだろうか…
エレシアはそんなギンのことを考えながら離れないように後をついていった。
しばらく路地を歩くと奥の方に不自然な扉があるのを見つける
おそらくその場所がギンの一つ目の目的地らしい。
ギンが鍵の有無を確認し、空いていることを確認したのちに私を後ろに待機させる。
「エレシア、お前は後ろを頼む。誰か他の人が来たら瞬時に俺の背中を突いてくれ。」
私は言葉を発さずにコクリと頷いて後方を確認した。
「じゃあ、行ってくる。合図をしたら入ってきてくれ。」
ギンはゆっくりと扉を開けてヌルッと中に入る。
エレシアはただギンの合図を待つだけだった——
「ごめん。ここハズレ」
ギンが入って何秒経っただろうか…
時間を数える間も無くギンが出てきた。
「特に利用されてる形跡がなかった。ここハズレだ。」
そう言ってギンは扉を全開にしてエレシアに中を見せる
エレシアはその扉の中をそっと覗き込んだ。
中はバーのような空間がかろうじて原型をとどめているだけの廃場所だった。
「本当だ。それにしても荒れてるね…」
瓶の破片がそこら中に飛び散り椅子やテーブルはほぼほぼ壊滅状態、一部の場所は焼け跡すら残っていた。
「取り立てか、客との抗争か、考えられることはいくつもある。治安が悪いとこういう場所は至る所にある。次行くぞ。」
ギンが急ぎながら次の目的地へと進むのを、エレシアは離れすぎないようついていった。
「ここだな。」
「あれ、ここって…」
見覚えのある場所だ。
居酒屋を抜けたすぐにある路地。
「ここ、さっき一息ついたところじゃん。」
居酒屋の混み合った道を抜けて一息ついた時の場所だ。
「あぁ。一応ここも怪しいと思ってた場所だ」
ギンが耳打ちをしながら話しているとスライム族やガーゴイル族などのいわゆる『反社会的種族』が路地の奥から出てきた。
ギンとエレシアはバレないように物陰に隠れ、聞き耳を立てる。
「なんか今回のオークションイマイチだったな。」
「品揃えが俺らのお目当てじゃないのが残念だ。」
話を聞く限りオークション会場があるらしい。
それこそ今まさに行われているそうだ。
「ギン…」
「あぁ。大当たりだ。」
ギンはなぜか嬉しそうに答えた。
二人が完全に見えなくなり、二人は物陰から出る
「エレシア、ここからは本当に危ない。それでも行くか?」
ギン自身も答えはわかっているはずなのに何回も聞くということは、本当に危ないことがわかる。
けど私は……
「行くよ。何があっても。」
ギンは何かを諦めるようにため息をついて自分の上着をエレシアに着せる。
「精一杯体を隠せ。もともと体が小さい種族という
エレシアはギンからもらったブカブカな服のボタンを上から下まで全てつけて準備を整える。
「準備できたよ。」
「よし、闇オークションの真相を暴きに行くか。」
ギンとエレシアは薄暗い小さな路地を、ゆっくりと歩き出した。
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