第27話 エルフの森を後にして…
リフリアの魔法で作り上げた世界から現世界へと戻ってきた二人。
エレシアが目を開けると綺麗な森に囲まれた場所へと戻ってきていた。
リフリアが使った『イクステムリア』の魔法で移動してきた場所だ、そこに戻ってきたのだ。
リフリアは私から一、二歩下がってギンに話しかける
「少し貸してもらいましたが、よかったでしょうか。」
「ん…?もういいのか?数十秒しか経ってないけど。」
いみのわからないことを喋り出すギンにエレシアは「は?」と素で声を出してしまう。
すると同時にエレシアの頭の中で声が響いた。
(あの世界では時間の流れを最大限遅くしているので現実世界に戻ればそれぐらいの時間でしょう。気にしない方が話しやすいと思います。)
リフリアの脳内会話にエレシアも(確かにそんなこと言ってた!)と思い出して口を塞ぐ
「『は?』ってエレシア、お前リフリアに魔法かけられて部屋みたいなところに数十秒閉じ込められただけじゃねぇか。」
ギンが少し怪しがりながら聞くのをエレシアは「そ、そうだったわー」と下手な嘘をつく。
リフリアはその二人のやりとりを見ながらふふふと笑い、ギンに話しかける
「用事も済んだことなのでそろそろ帰った方が良さそうですね。面倒くさいことになる前に私が送ります。」
「ああ…色々とすまなかったな。俺のことも、エレシアの事も。」
ギンは私の頭を撫でながらリフリアにお礼する
リフリアも「こちらこそ、久しぶりにみんなと話をして楽しかったです。」
そう言ってリフリアは自分の隣に直径一メートルほどの魔法陣を作る
「さぁ、入って入って」
リフリアの指示通りにギンと私は魔法陣の中に入った。
「私とはここでお別れです。おそらくエルフの森のギリギリまでプルピィが送っていくと思いますのでそこで薬を貰って下さい。」
「薬?なんのこと?」
エレシアはギンに聞くが「森を出てから教えてやる」と言ってギンは何も教えてくれなかった。
「それではギンさん、エレシア様…じゃなくてエレシアさん。お元気で、またどこかで会いましょう!」
ギンと私はリフリアに手を振りながら魔法によって転移させられる。
リフリアはその魔法陣が消えるまでずっと手を振った。
「…さてと、」
魔法イクステムリアを解いて普段の部屋へと戻ってくる。
部屋に戻ってくるなりリフリアはそのままバタンと倒れた。
「リフリア様、大丈夫ですか!」
リフリアの側近のドリヤードが助けに来る。
「大丈夫…少し魔法の使いすぎたのと小瓶を飲みすぎたせいね。慣れないこともよくないわね…」
リフリアは側近に助けられてなんとか椅子に座り、ドリヤードの回復魔法でマナを補充する。
「うわっ、ごっそりマナが…久しぶりにこんなに使って、何かあったんですか?」
「えぇ。将来有望な子供に精一杯の愛を注いであげたくて、つい無理しちゃったわ。」
リフリアは相変わらずな優しい笑顔でドリヤードと話す
「それは確かに頑張りたくなる気持ちもわかりますけど…リフリア様も昔ほど魔法を使い続けることはできませんし、万が一できたとしても体に負担が大きすぎます。自分の身体の管理もしないといけませんよ?」
ドリヤードに注意されるも「私はまだまだ現役よ?」と軽いジョークをかけてリフリアは場を和ませる
「でも、王位継承のこともそろそろ考えないとね。今回沢山の魔法を一度に使ってみて自分の限界を感じたわ。少し嫌な話だけど、世代交代ってこういうことなのよね。」
リフリアは自分の立場をアーレスとエレシアの関係と比べながら考えた。
(アーレスも自分の限界に気付いているのかしら…私はまだまだ現役で頑張りたい気持ちもあるんだけど…いつまでも同じ地位にとどまることは難しそうね。)
「プルピィにしようかしら」
「プルピィ!?あのおしゃべりシルフのプルピィですか?」
リフリアの意外な発言にドリヤードも驚く
その姿をみてリフリアはウフフと笑う
「冗談よ。王位はあなたに継いでもらうわ。あなたの次はドルフにしてあげたいと思っているけど、私はプルピィが王位を継承している姿が見てみたいの。」
ドリヤードはプルピィが王位継承の話に出てくることに少し違和感を覚えたが、次の王位継承が自分だということに感謝の意を込める。
「私が次期エルフの森女王様…リフリア様のそばで常に行動してきたので、王位を譲られた暁には精一杯務めさせていただきます。」
「でも、私はまだまだ頑張りますよ。せめてあの方が立派に育つまで…」
「あの方って?」 「教えませーん。」
誰かの名前を隠すリフリアにドリヤードがしつこく質問し、いつも物静かだったリフリアの部屋はなんだか少しだけ暖かくなった。
魔法陣に乗って転移したギンとエレシアはクレーターの登り降りをする階段の一番下のところまで転移した。
「行きもこれでいいんだけどな…」とわがままを言うギンに「運動不足にはちょうどいいと思うけど?」と煽りを加えてエレシアはギンと話す。
なんと話しているとふと後ろから聞き覚えのある声がした。
「ギンとエレシア!王女様に出会えた?」
プルピィがどこからともなく現れる
「ええ。体調も治って問題なく話せたよ。」
「ええぇ!いいなぁエレシアはリフリア様と対面で話すなんて…私だって話したいし対面で話したことも一度あるかもしれないけどリフリア様はとっくに忘れてるだろうし…とりあえず話ができたならよかったよ!」
相変わらずプルピィの爆舌は止まることなく、ポンポンと言葉が発信されていく
ただ私は人と話すのが好きだからプルピィのおしゃべり口は嫌いではない。むしろ好きだ。
「いつか話す機会ができると思うよ!リフリアさん優しい方だったし、本当にこの森のみんなを大切に思ってるんだなぁって思った!」
エレシアの話にプルピィは「私もリフリア様の生話聞いてみたいなー」と嫉妬しながらもエレシアの周りをクルクル回る
「そうだ。プルピィ、二人分の薬を頼む。」
ギンの要望にプルピィは瞬時に薬を配る
「これは?」
ギンが説明しようと口を開く前にプルピィが間に割り込んで話をし始める
「エルフの森って呼ばれるこの空間小さな魔法の国みたいなもので、森全体にもちょっとした魔法が常にかかってるの。それはこの森を作った何者かが昔私たちの住んでいた森を再現するためにかけた魔法らしくて、エルフたちの精霊や妖精以外にはちょっとした害が及ぶのよね〜。だからこの薬を飲んで森から出ないとちょっと危ないの。」
一から全て教えてくれたプルピィを退けてギンが補足する
「特に今回はちょっと長居しちゃったからな。薬を飲んでも症状が現れるかもしれん。そこは覚悟しとけ。」
そう言ってギンはプルピィからもらった薬をパクッと飲み込む。
エレシアもプルピィに急かされながらも貰った薬を飲んだ。
「二人とも薬飲んだね?それじゃあ私の任務は終了〜!」
気がつけばエルフの森があるクレーター部分を抜けて道の険しい森へと来ていた。
「私はこれ以上行けないからみんなとお別れになっちゃうけど、久しぶりにこんなに話せて楽しかったぞ!ギンも、そしてエレシアにも。」
ギンと私は一旦その場で立ち止まってプルピィの話を聞く。
「別に俺は何もしてねぇよ。お前のおしゃべり口は久しぶりに来ても変わってなかったしな。」
プルピィが「なんですと!少しは変わったでしょう!」とギンに怒りながら戯れる
その光景を見るとエレシアはなんだか心が落ち着く。
「けどな!」
いきなりギンが大きな声で話すのでプルピィもエレシアもビクッと反応する
「お前が何にも変わってねぇの、俺は結構好きだぜ。懐かしい気持ちになる。」
その過去を思い出すようなしんみりとしたギンの顔にプルピィは大号泣し、ギンの頭にしがみつく
「うわぁぁぁあん!なんでギンは…ギンはこうやって別れる時に私の気持ちを悲しくさせるの〜!」
髪の毛をわしゃわしゃするプルピィに「おいやめろ!おしゃべり!」とギンは払い除けようとするが、その顔はなんだか楽しそうに見えた。
少しだけプルピィと話してギンと私は再び立ち上がった。
「じゃあそろそろ行くわ。久しぶりに楽しかったぜ。」
ギンの別れにプルピィは涙の雨を降らせながら精一杯私たちを送り届ける
その姿は私たちが見えなくなるまで続いた——
「楽しかったです。」
エレシアの一言にギンは優しい笑みを浮かべながら「ああ。そうだな。」と答えた。
森を抜けて二人は西に落ちかける太陽の光を浴びながら大きく背伸びをする
「くぅ〜…やっぱ森より都市部の方が居心地いいなぁ。」
その言葉に「時と場合にもよりますけどね…」とエレシアも答えた。
「さて…もうそろそろか。」
ギンの言葉の意味がよく分からなかったが、急に頭痛のやうなものが一気に押し寄せる
「痛い!なにこれ!」
エレシアはかろうじて声を絞りながらギンに訴える
もちろんギンも同じ境遇で頭を抱えて悶絶していた。
しばらく頭痛と戦っていると、だんだん痛みが引いてきた。
「…今日はいつもより強烈だな。」
ギンの慣れたような言葉にエレシアは状況を掴めないままでいた。
その様子を見てギンが説明してくれる
「エルフの森の副反応だ。あの場所全域にかかってる魔法は時間の経過速度を遅くする魔法。俺たちにとっては楽園かもしれねぇが実際はその逆、脳が収縮し始めて知能が低下しちまうんだ。だからプルピィから貰ったあの薬を飲んで森を抜けないと脳みそが収縮したままになっちまうんだ」
「だからギンはエルフの森の時に急いでいたの?」
ギンがエルフの森でやたらと急がしてきた理由とようやく辻褄が合った。
「さて…頭の痛みも治ったし、時間もいい感じだ。ちょっと気になる場所だけ寄って帰るか!」
「うん!」
ギンと私はエルフの森を後にして、ゆっくりと歩き出した。
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