第23話 魔法習得と格闘術(2)

ドラゴン化での魔素を取り込んで疲れ切ってしまったエレシアはしばらくの間休憩をとった。



「初めてにしては上出来です。これにて魔法の基礎が終わりました。これからの作業は簡単です。自分の体内にある魔素を魔法に乗せて、思い切り魔法を使うだけですから。」


その言葉を聞いて表情が明るくなるエレシアに、リフリアも喜んだ。


「リフリアさん、少しいいかな…」


「ええ。どうしました?」


「私、魔法が使える状態になったらまず最初にプルピィの魔法を使ってみたいなぁ…って思ってて。」


モジモジしながら喋るエレシアにリフリアは「もちろん。帰りにプルピィにも見せてあげましょう。」という提案をし、エレシアはそれに「それいいかも!賛成!」と元気な声で答えるのだった。




エレシアの汗も引いて体力も戻り、再び魔法取得の修行を始める。


「まず、魔法を使うには魔素を身体中どこでも自由に動かす必要がありますが…それは必要なさそうですね。」


「え!?どうして?」


驚くエレシアにリフリアはゆっくりと説明する。


「まだ見えていませんか?エレシア様は今、十分な魔素を取り込んでおり、身体共に極限値を引き上げた状態にいます。その赤い微弱なオーラ…エレシア様でもきっと見えると思います。」


エレシアは自分の体を見てみるがオーラなんて全く見えない。いつもと変わらない姿だ。


「うーん、いまいちよくわからない。」


「それならばこれもいい機会ですし、自分自身が取り込んだ魔素を感じてみましょう。」


リフリアはそう言うと右指を差し出して人差し指を伸ばし、『1』を作った。


「手順通り行きます。その一、コスモパワーを手のひらに溜めたときのように神経を研ぎ澄ませ、体内にある魔素を感じ取ります。」


エレシアはリフリアが言う順番通りに言われたことを実行してみる。


「その二、魔素の塊を見つけ、それを頭の中で動かすのように触れてみる。」


「その三、自由に動かせるようになった魔素を自分の頭の方へと持っていき、ゆっくりと目を開いてみなさい。」



エレシアは手順をしっかりとこなして、ゆっくりと目を開ける

すると、リフリアの周りに黄緑色のオーラがゆらゆらと揺らいでいるのが見えた。


「見える…リフリアさんの周りに黄緑色のモワモワが見える!」



「成功ですね。その目で自分の体を見てみてください。」


エレシアは言われた通りに自分の体に目をやると、そこには微弱ながらも赤色のオーラを纏っているのが見えた。



「見えた…これが、魔素…」


「そうです。体内での魔素移動も出来ていますし、魔法習得は早そうですね。」


喜びに目を輝かせるエレシアにリフリアも嬉しくて笑みを溢す。



「それでは実際に魔法を使ってみましょう。まずはブレスレットをつけている左腕に魔素を移動させ、ブレスレットに魔素を送ってあげましょう。」


リフリアの言葉に「わかりました」と反応し、言われた通りに左腕に魔素を動かす。


(言っただけですぐ実行できる…アーレスと違って覚えが早いのね。)


魔素に反応したブレスレットは共鳴反応を起こし、赤い光を放ち始める。



「上手です。あとは魔法を詠唱するだけで発動が可能です。今回一番わかりやすい魔法は…『パラポワ』ですね。自身の魔力を強化する魔法。一度使ってみましょう。」


リフリアの教えにエレシアはこくりと頷き、息を整えて詠唱する



『パラポワ』



自身の足元に簡易的な青色の魔法陣が展開される。


「…?」

だが、それ以外特に変わったところはない。


「あの…これ、ちゃんと出来てます?」


「ええ、もちろん。魔素移動をしてみるとよくわかるかもしれません。」


エレシアは言われた通りに魔素移動をしようと目を瞑って集中する


「…わぁ!魔素の塊が、さっきよりも強い光になってる!」


さっきまで赤く光っていた自身の体内にある魔素は、パラポワの魔法のブーストにより中心部がオレンジに見えるほど煌々とした光を放っていた。



「上手です。それでは…次の魔法を使っておつかいをしてもらってもよろしいでしょうか。」


「わかったわ。どんなの?」


リフリアは魔法で記憶の断片を再びエレシアに見せて、一つの小瓶を映し出した。


「これです。これを『プロリエイト』でとってきて欲しいのです。プロリエイトは見たことのあるものしか取り寄せることができませんが、実物でなくても見てしまえば取り寄せることができるのでやってみましょう。今の魔素量ならパラポワのブーストもあって使い果たすことはまずないでしょう。」


「わかりました。やってみます」

意志の固い返事をして、エレシアは再びブレスレットに魔素を送り、魔法を詠唱する



『プロリエイト』



瞬間、自分の手の先に小瓶が握られていた。

おそらく成功だ。


「できました!リフリアさん!」


エレシアはプロリエイトで取り寄せた小瓶をリフリアに手渡す。



「上出来ですね。ありがとう。」


リフリアはその小瓶を開けてぐいっと一口で中の液体を飲み干した。

すると、明らかに今までに感じたことのないマナのエネルギーをエレシアは感じた。


魔素を頭の方に集中させて見てみると、リフリアを纏うオーラが格段に膨張していた。


「す、すごいオーラ…これが精霊…」


「この空間、案外持続させているだけでも多くのマナを消費するのです。ですから定期的にこうやって補充しないと、いくら私が魔法の達人だったとしても限界が訪れてしまいますからね。」



わざわざ私のためにここまで…

そう考えると長時間修行に付き合わせているのに対する申し訳なさと、感謝の気持ちが同時に込み上げてくる。



「さぁ、私のマナも回復できたことですから、どんどん魔法を習得してしまいましょう!」


「わかりました!」




こうして何時間も何時間も、魔法習得の練習が続いた。

適度にエレシアがプロリエイトで小瓶を調達し、リフリアはエレシアに新しい魔法をどんどん教えていく…そんな時間がグルグルとサイクルしながら流れていった。








「…おおよその魔法は終わりましたね。攻撃系、防御系、アシスト系、簡単な治癒系、いくつかの特性系、全ての系統の魔法を覚えました。他にも高度な魔法はいくつかありますが、最初のうちはこの五種類があれば魔法で戦っていけます。」



エレシアは体力の限界で地面に寝転がりながら「あ、ありがとう…ございます。」と絞り出すように感謝の言葉を放った。



「これで魔法の知識は終わりです。次は戦術を学びますので、少し休んだらまた特訓しましょう。」



エレシアは露骨に「嫌だなぁ」という顔をするが、お母さんの気持ちに応えるべく「頑張ります…」と一言呟くように返事をした。

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