第24話 魔法習得と格闘術(3)
魔法習得から少しの休憩を挟んで、次は戦術を学ぶことになった。
「次は戦術についてお教えします。戦術においては私が魔法で作り出した敵とも戦ってもらいますので、実践を積む形で学んでいきましょう。」
「実践!?たしかにいざって時に怖気付いたら意味ないとは思うけど…」
「自信がないんですね?」
「ぐっ…」
思っていたことを先に言われてしまった。
というよりも心のうちに秘めておきたかったのだが、言われてしまった。
「だって…いざという時にはミノタウロスとかと戦うための戦術になるんですよね。そんな時に私ごときで通用するか…」
ここにきて弱音を漏らすエレシアにリフリアは心を鬼にして少しきつい言い方をする。
「エレシア様。この際言いますが、貴方様の弱みはそこにあると思います。それも、目に見えてわかるほどに…実際誰もが恐怖心なしで戦っているわけではありません。かつて私たちが人間と戦争したときでも、身近なところではギンでさえも、戦いは恐れるものです。」
ギンでさえも…
たしかにギンはヘラヘラ笑って物事をあまり気にとめないような性格をしているし、いざとなれば瞬時に冷静な判断をして戦いを鎮める立派な人間だ。
そんなギンは戦いを恐れない強い人だと思っていたが、どうやら違うらしい。
「エレシア様、戦いを恐れる者を見て、弱者だと感じますか?」
「…いいえ。」
「それでは言い方を変えます。戦いを恐れる者を見て、それは強者でないと思いますか?」
「…はい。」
弱者はもとから弱い者、強者でない者は強者という地位を何らかの事情により迫害されたもの。
そう、私は思ってきた。
だからこそギンは、『強者でない者』の立ち位置に分類され———
「その考えは間違っています。」
リフリアのずっしりと重く深みのある言葉に、エレシアは自分論が展開されるのを阻止される。
「エレシア様の考えは間違っています。戦いを恐れない者は、戦いの経験がない者のみです。戦いの経験がないのに戦いを恐れないと提唱している者こそ、私は弱者と考えます。逆に、戦いを恐れる者こそが、強者だと私は思います。」
その筋の通った考えに、エレシアはハッと気付かされる
自分は間違った考えで人を判断し、勝手に落胆していた…それも、ギンを含めて。
「エレシア様、本当の強者は戦いを恐れ、それでも物事が良い方向へと向かうために戦う者のことを言います。エレシア様がこれから学ぶ戦術はこういう時に使う手段なのです。」
エレシアはさっきまで『戦うのが怖い』という自分の気持ちに従って逃げていることを感じさせられた。
それは誰でも同じことであって、それを相手に見せないことが強者であることを教えられる瞬間となった。
「しかし、エレシア様がここで気づけたことも大切です。戦術をいくら身につけても気持ちに押し負けることは少なくないことでしょう。己に打ち勝つことも戦術を学ぶための一つの教えです。」
エレシアは悠々と話をするリフリアからを逸らした。
自分でもなぜ逸らしたのか分かっている。
自分の失態をもポジティブに捉えて糧とするリフリアに同情されているようで心地よくなかったからだ。
だが、その瞬間的な行動にもリフリアは見逃さずにすぐさま追い討ちをかけるように言葉を放つ。
「自分を正しなさい。あなたの意地の強さは長所であり短所でもあるのです。使い方によって自分自身が大きく進歩すれば、大きなスランプの元にもなるでしょう。今のうちに、心の中の自分を味方につけなさい。」
リフリアのその言葉は一言一言が重く心に響き渡り、そして自分を苦しませた。
だが言っていることは全て正しい、それを自分が受け入れなければいけないということも十分に理解している。
ただ、それを心の中の私が拒むのだ…意地っ張りな私が。
「私は…負けると分かっている戦いに突っ込む者の気持ちがわかりません…戦いを恐れる者は負けるのが怖いから恐れるのでしょう?それならなぜ自ら負けに行くのでしょうか…」
エレシアの消え入りそうな震えた声は、表向きではリフリアの話を受け入れようとするも、内面に住むエレシアに拒まれ葛藤しているそんな姿にも見えた。
「エレシア様、こちらへ」
リフリアは大きく両手を広げ、エレシアを優しく包み込むように抱きしめる
「『愛』ですよ。」
その優しい響きにエレシアはハッと目を見開いて涙を散らせた
「たとえ負けるのが定めだとしても、それは戦いの先にある未来を思う愛が強いからこそ最後まで戦うのだと思います。私が今こうしてエレシア様に戦術を教えることも愛です。」
愛
その制御ができない病にかかれば、どんなことでも全力を尽くして行うある一種の病気みたいなものだ。
だが、その病気は必ずしも自分を蝕むだけの病ではない。
人に与え、人に与えられ、それが人生を変える歯車となる。
愛は、全ての行動の動力源となる。
エレシアは愛というもので今まで頑張ってきたことを今更ながらに気づいた。
立派な大人になることも、いろいろな知識を蓄えることも、魔法を学ぶことも、全てはお母さんが私に与えた『愛』で動いていた。
その瞬間、エレシアの中で何かが弾けるような音がした。
「愛…愛って、いい響き。」
エレシアはリフリアに抱き抱えられながらそう語った。
そして、リフリアが何か言葉を発する前に目を見て何かを決意した表情で話す。
「私、もう逃げないよ。自分の弱さからも、心の中の自分にも。」
そのやる気と愛に満ち溢れた顔を見て、リフリアも潔く納得する。
「随分と長話をしましたね。早急に戦術をマスターして、ギンさんの元に戻りましょう。」
エレシアは威勢のある声で「はいっ!」と強く硬い返事をした。
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