第22話 魔法習得と格闘術(1)
少し話が逸れましたね。
リフリアは立ち位置を変えずに髪をふわっと両手で靡かせて整える。
「では、本題に入りましょう。私がお教えするのは基本的な魔法の使い方と、それに相応しい戦術です。少し体力勝負になりますが、張り切っていきましょう。」
リフリアのやんわりとした声にエレシアは「はいっ!」とパリッとした威勢のいい声で返事をした。
「それではまず…」
「あ、あの!」
魔法を教えようとするリフリアを、エレシアが言葉を遮って止める。
「これ、さっきここに来る前にプルピィから貰ったものなんですけど…」
エレシアはそう言いながらリフリアにブレスレットを手渡す。
「プルピィが?ちょっと拝見してもよろしいかしら。」
リフリアはエレシアから預かったブレスレットを様々な角度から見る。
「付与魔法が込められていますね。『リペム』『パラポワ』『プロリエイト』どれも上手に構築されていて付与魔法にしては上出来ですね。」
「そのブレスレット、実は私が魔法を使えなくて嫉妬していたらプルピィが私に贈ってくれたものなんです。付与魔法なら魔法が使えない人でも使えると聞いて……ただ、それをギンに話したらある程度魔法の知識がないと使えないと言われて…私が魔法を習得したらそれらの魔法も使えますよね!?」
エレシアが懇願するように聞いてくるのに、リフリアは「もちろん。」と冷静に答える。
「魔法の使い方は種族によって大きく異なったり、似ていたりしています。基本的に私達エルフなどの精霊は大地の恩恵『マナ』を使って魔法を使いますが、例えば人間…ギンを例に挙げますと『詠唱古典式』で魔法を使っているので大きく異なっています。」
初めての単語にエレシアは早速ついていけなそうになるが、頭を抱えながらもなんとか知識を蓄えていく。
「ドラゴン族はどちらかというと私達に似ています。ドラゴン族は空から、コスモパワーという力を『魔素』というエネルギーに変えて使っているとアーレスから聞きました。」
「コスモパワー…」
私の手が届かない上の、さらに上にある未知の空間から送られるパワー
それをドラゴン族は魔法の元にしているそうだ。
「私は魔素を使わないので行ったことはないのですが、魔素の溜め方を二種類教えてもらったので順番に行ってみましょう。」
「わかりました!」
こうしてリフリアによるエレシアの魔法習得の道が始まった。
「片手を上げて天に感謝…コスモパワーを手のひらに集中させてグッと握り、魔素を作り出す。そこから胸に手を当てて魔素を体内に取り込む……」
エレシアはリフリアに教わった「人間状態での魔素の取り入れ方」を習得すべく、何回も何十回も同じ動作を繰り返した。
「だいぶ形になってきています!コスモパワーは通常状態だとどの種族からも感知することができませんが、一点に集めることによって赤い色を放つと聞いています。今のエレシア様の手のひらにも赤い光がだいぶ見えるようになってきました。コスモパワーをだいぶ呼び寄せることができるようになりましたね!」
何回行っただろうか…腕を上げたり下げたりの繰り返し、それに加えて自分は魔素が上手に取り込めているのかが見えないことによる不安感で、エレシアは既にヘトヘトだった。
エレシアは仰向けで息を切らしながら本音を漏らす。
「こ…これが魔法を習得する始まりの動作…まだ魔法を使ってすらいないのに……」
全く動いていない。ただ手を挙げながら天に感謝し、集まったコスモパワーを魔素に変えて取り込むだけの作業なのに、どうして自分がここまで体力を使うのかがあまりわからなかった。
「随分と疲れていますね。魔法にあまり縁がなかったんですもの、仕方ないです。」
リフリアは立ち位置を変えず、蔓で作った椅子に座っている。
「それでも、習得は明らかに早いです。これならもう一つの魔素の取り入れ方をお教えしてもいいと思います。」
そう言ってリフリアに向けて手を翳し、エレシアを回復させる。
体力が回復したエレシアはすぐに立ち上がってリフリアの方を向き、次の命令を待った。
「それでは…ドラゴンになってください。」
「ドラゴンに?」
「ええ。アーレスはドラゴンの姿の時に魔素を取り込む方法と人間の姿の時に魔素を取り込む方法の二つを教えてもらいました。ドラゴンの姿にあまりならないとしても、覚えておくべきだと思います。」
「それはそうなんだけど…私、自分の意思で完全にドラゴン化したことがないかも…」
正直ドラゴンの姿だと図体は割と大きくて幅をとるし、木々が生い茂る森の中では人間の姿の方が動きやすかったのであえてドラゴンになることは一度もしたことがなかった。
「それではこの際、ドラゴン化もマスターしてみてはどうでしょうか。人間の姿よりドラゴンの姿の方が戦力は格段に上がりますし、空を飛ぶのには必要です。」
「確かに…空を飛ぶためには必要なんだけど———」
「それでは早速ドラゴン化してみましょう!実践あるのみです!」
エレシアの文句を遮ってリフリアが気合いで話を流した。
「まず変形の仕方なんですけど、アーレスの教え方が下手すぎて…『お腹にグッと力を入れて全身を奮い立たせる』だそうです。」
「うん。全然わかんない。」
お母さんの大雑把な性格は昔の頃から相変わらずだ。
木の実は洗わずに食べるし、火加減を誤って食材を焦がした時でも呑気に食べるし、そう言った性格はどこに行っても変わらないらしい。
「とりあえずやってみましょうか。何かしらコツがあるのかもしれません。」
「やってみます。」
エレシアはお腹に手を当てて力を入れ、全身を奮い立たせる動作を繰り返し、繰り返し行なった。
「リフリア見て!し、尻尾が生えた!」
ドラゴンになる方法を教えてもらって三十分程度で、尻尾を出現させることに成功した。
「順調ですね!あとは奮い立たせる部分でコツを掴むと全身に鱗が現れて、そこからは自動的にドラゴンの姿に変わるそうです!」
「わかった。」
エレシアは尻尾をフリフリしながら自分を奮い立たせる動作を色々と試した。
尻尾が生えてからはドラゴンになるまであっという間だった。
「エレシア様!鱗が!」
奮い立たせる動作を試行錯誤しながら行い続けて十分ほどで鱗が全身を覆い、徐々に肥大化して立派なドラゴンの姿に変わることができた。
「できた!」
ドラゴンの姿のエレシアは唸り声のような声で喜んだ。
「上出来ですね。お母さんに似て立派な赤色です。」
ドラゴン姿のエレシアは全体的に赤色で、鱗の付け根が黒色になっていてより真紅色に輝いている。目もキリッとしていて堂々たる威厳を持った姿だった。
「それでは、ドラゴン化した状態でコスモパワーを集めてみましょう!」
リフリアは大きなドラゴンを見上げながら話した。
「まずは翼を大きく広げて——」
「待って?翼ってどこ?」
エレシアが後ろを振り返って自分の背中を見てみるが、そこにはどこにも翼がなかった。
「そういえばドラゴン族の方々は翼を普段から邪魔ならないようにしまっているのだそうです。翼を出す方法は…アーレスに聞いたところ『頭の中で羽を広げる感覚』だそうです!」
「わかった!やってみる!」
エレシアも大雑把に説明するお母さんの説明に慣れたらしく、文句ひとつ言わずに言われたことを実行した。
(自分が…羽を広げるように…想像するの。)
天使の羽、蝶の羽、私の友達のプルピィの羽、たくさんの羽が開くその仕草を懸命に頭の中で想像した。
(どういう風に羽を使っているのか…羽を大きく見せるには…羽を大きく…)
エレシアは目を閉じながら神経を研ぎ澄ませ、上を向いて背中を伸ばす
刹那、エレシアの背中から赤肌色の皮膜を持った大きな羽が現れた。
「最高です。このまま魔素を取り込む練習に繋げます。集中を続けて!」
リフリアのハリのある声にエレシアの気持ちが重なり、大きく立派な羽を斜めに広げる。
「羽の上にコスモパワーを溜めるのです。人間の姿の手のひらの上で行ったように!」
エレシアはリフリアの教え通りに人間姿で行ったあの感覚を使いながら羽に集中する。
コスモパワーは瞬く間にエレシアの羽の上に集まり、その姿はまるで赤い光を纏った流星のようだ。
「素晴らしい…まさかここまでの上達とは…あとは簡単です!人間の姿の時に行ったようにコスモパワーを圧縮、魔素に変えて自分の体内に取り込むのです!アーレスは一度羽を折り畳んで背中で圧縮し、そのまま羽を戻すことで魔素を取り込んでいました。それを実践しましょう!」
途切れそうな集中力を気合いで持ち堪え、エレシアは教え通りに羽を折り畳んで背中で圧縮し、羽を戻して魔素を取り込んだ。
「最高です!素晴らしい量の魔素が一度に取り込めました。これで魔法の練習に取り掛かれそうです!」
エレシアはドラゴンの姿から徐々に小さくなっていき、やがて人間の姿へと戻った。
いきなりの変身と魔素の取り込みで思った以上に体力を消耗したせいで、ドラゴンの姿の維持が保てなかった。
エレシアは足に力が入らずそのままぺたんと座り込んでしまった。
「大丈夫ですか!?」とリフリアが問うのに対してエレシアは元気な笑顔を見せて「大丈夫!」と汗をかきながらVサインを送るのだった。
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