第14話 都市のお仕事(1)


ギンと過ごし始めて数日が経った。

一緒にいることにもだいぶ慣れてきて二人でいる時の緊張感も無くなり、気を使わなくても良くなってきた。


ただギンも初めて自分以外の人と過ごすという行為になかなか慣れず、結構ハプニングを起こした。


私の分のご飯を作り忘れている時もあったり、洗濯を上機嫌で干しているのも見ちゃったり、私がお風呂入ってる時に入ってきたこともあった……




ただ、だいぶギンも二人の生活に慣れてきたようで、休んでいた都市間取締官の仕事も今日から始めるそうだ。



いつもの黒コートを回しながら豪快に着る。

そのバサッという音に反応してギンを見つめていると、ギンがそれに気づいた。

「そうだ、エレシア。お前も一緒に来るか?」


「え!?いいの!?」


いきなりの提案に思わず声が大きくなる。


「だって家に一人ってのもつまらないだろ?都市転職ならまだこの都市のこともそんなに知らないと思うし、来た方が楽しいと思うが———」


「行きたいです!ぜひ連れてってください!」


都市の案内に加えて都市間取締官の仕事をする姿も見学できて、知らないことも聞けば教えてくれる。


こんな機会滅多にないと瞬時に判断したエレシアはギンの話を遮ってお願いをした。











「まずここが都市市場、見ての通りだからここの紹介はいらないか。」


家から歩いて数分のところにある大きな市場。

店はどれも出店タイプで売っているものの種類も違えば売っている種族も違う。もっとコアなものは特定の種族専用のお店だってある。


「お、おぉぉ。」

エレシアは改めてこの大きな市場を見渡して感嘆の声を漏らす。


「基本的にこの市場は日によって出店する店も違えば店の件数だって違う。王道の店は固定だがそれ以外の店は都市の端にある地域から売りに来たり自分で作った便利グッズなどを売ってる奴らもいる。毎日来ても飽きない場所だな。」


ギンも市場通りを歩きながらいい店を探す。


(森の中だと自分で食べ物とってこなきゃいけないけど、都市の人はこうやって市場を開催して食べ物を手に入れてたんだ…)


生まれてから自分で食料を調達していたエレシアは都市の話を聞いてからずっと都市の人が食料調達にきたところを見たことがなかったのでどのようにして食料を手に入れているのかずっと疑問だった。

だからこそここにきて初めて売り手と買い手による交換条件で手に入れていたことを知れたのはここでしか手に入れることのできない貴重な情報だと思う。


色々な店を見回りながら歩いていると右の店から図太い声が聞こえてくる。


「お!ギンじゃねぇか久しぶりだな!」


声の聞こえる方に目をやると体長二メートルを超えるオーガが色々な食材を売っている。


「おぉハンク!久しぶりだな。売り上げはどうだ!?」


ギンが今までに見せたことのないほどの嬉しそうな顔でハンクの店の方に向かう。

私はギンから離れないために子連れアヒルのようについていく。


「売り上げなんて今商売してるやつに聞くもんじゃねぇぞ?まぁぼちぼちって感じだけどな。」


上半身裸のハンクはオーガ特有の千歳緑色をした肌に人間のように顎髭が生えており、ダンディな見た目をしている。


「ほぉ〜、今日はやけに珍しい食材が揃ってるなぁ。」


ギンはそう言って看板に書かれた『目玉商品!』の列を見る。


「だろ!そこの鳥は『ベネスバード』地下洞窟を巣として暮らしてる鳥だ。そしてその隣が『ヤッカ』って木の実だ。」


ハンクは自分がとってきた食材を指差して自慢しながらギンに説明する。


「ヤッカってあれだよな?めちゃくちゃ美味しいけど中心にある種が苦いやつ。」


「そう!お前ヤッカを食ったことあるのか!随分と贅沢してるなぁ!都市警察!」



ギンとハンクはお互い楽しそうに食材について語っている。

普段あんな姿は見れないし、ギンがあんなに無邪気に話しているのを見ていると見てる方も場が和む。


「ところで…」

ハンクがそう言いながら私の方に顔を向けてギンに話しかける


「あの子は誰だ?もしかしてお前…パパになったのか!?」


ギンは「そんなわけねぇだろ。普通俺に子供が出来たら一目散にお前のとこ駆けつけて報告してるさ。」と語りながら私の方に寄ってきて両肩を後ろから掴まれる。



「この子はエレシア。両親が都市転職で今はこの都市にいないらしく、家に一人の生活らしいから契約を交わして今は俺の家で一緒に住んでる。」


私も何か言わないといけないのかと思いとりあえず「エレシアです。よろしくお願いします。」と軽く挨拶をする。



ハンクはその話を聞いた時、初めはあまり意味が分かっていない様子だったが時間が経つに連れて話を理解したらしい。


「そうか!ギンも一人暮らしはつまらなそうだったし、いい話じゃねぇか。それなら…」


ハンクは話しながら大きな図体を動かして目玉商品の列まで行き、そこに並んでいるベネスバード一匹を持ってくる。


「食料を二人分必要になったから消費が早いだろ。こいつはタダで売ってやる!」

そう言ってギンにベネスバードを渡す。


ギンは「流石にタダじゃあ申し訳ねぇよ。気持ちだけ受け取っとくぜ。」と言って貰ったベネスバードをリュックの中に入れ、ハンクに向かって硬貨をピンッと弾き飛ばして渡した。


(ギンはこの都市でそこそこ有名なのかな。ハンクさんと仲良さそうだし、こ面識があるとこういうサービスもあるものなのかな。)


森での食糧調達にサービスはない。自分で頑張って採ってきて初めて手に入れることができるからだ。


それはお母さんがいなくなった時、食料を調達するためにイノガーと戦ったところで十分に思い知っている。



(都市にはたくさんの人がいて、それぞれ助け合って生きているんだ。)

新たな発見を知識として蓄えて、エレシアはまた一つ都市と種族間の関わりについて学ぶことができた。

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