第6話 都市へ
カーバンクル達に助けられて早一週間が経過した。
自分一人で倒したイノガーも残すとこわずかの食料にもなり、その他の自給自足もだいぶ慣れてきた。
一人で生きることの難しさ、そして時には生命維持のために生命を危険に晒さなければいけないことも学ぶことができた。
お母さんが学んで欲しかったのはこれなのかもしれない。
「もうそろそろかな。準備もできたし…」
エレシアはイノガーの皮で作った大きめのリュックの中身を今一度点検する。
リュックの中には短剣、腹ごしらえ用の木の実、イノガーの腸を上手に使って作った水筒などが入っている。
「都市に行く準備はできた。あとはカーバンクル達に都市への行き方を教えてもらうだけ…」
大きなリュックを背負ってゆっくり深呼吸をする。
私も立派に成長したんだ。エレシアはそう心の中で呟いた。
エレシアはカーバンクル達がいる聖地から元の森に帰る時に行った手段を用いて聖地に行くことを試みる。
(目を瞑って……一、二、三、、そろそろかな。)
目をゆっくり開くと暖かくて眩しい光が目に入ってきた。
「うん。やっぱり来れた。」
エレシアはゆっくりと大きな深呼吸をする。
体内に入る空気が美味しくて、心の底から癒される感じがした。
「お久しぶりです。エレシア様。」
振り返ると三匹のカーバンクルが律儀良く座っている。
まるで私が来るのをずっと待ってたみたいだ。
「久しぶり。心の準備もできたし、そろそろと都市に行ってみようと思うの。」
エレシアがそう言うと赤色のカーバンクルは優しい笑顔を見せ、ゆっくりと語りだす。
「都市にはエレシア様がまだ知らない未知の世界が広がっています。新しいもの、新しい知識、新しい感情……どれも生きていく上でかけがえのないものとなるでしょう。」
続けて水色のカーバンクルも話す。
「ただし、油断しては行けません。見た目は優しい世界でも、裏では何が起こっているのか想像もつきません。エレシア様はそれを見抜いて行動しなければなりません。」
黄緑色のカーバンクルも話し始める。
「私たちはこの森から出ることができないのでエレシア様を見守ることはできません。ですが、エレシア様ならきっと、、たくさんの経験を積んで、いろいろな経験をして、さらに成長できることを願っています。どうか…お元気で。」
三匹のカーバンクルは優しい口調で、エレシアを包むかのように別れの話をした。
どの言葉も力強い意志がこもっていて、エレシアの心はありがたい気持ちでいっぱいに満たされた。
「何から何まで本当にありがとう。今度ここに来る時は都市の話沢山聞かせてあげるわ。」
エレシアはしゃがんでカーバンクル達の目線に合わせて、ニコッと笑顔を見せた。
「そろそろ行かなきゃ。」
エレシアが立ち上がろうとすると赤色のカーバンクルが「少し待ってください。」と言って大木の方へと走り出した。
しばらくして戻ってくると、口には紫色の宝石を中心としたネックレスを咥えて戻ってきた。
エレシアはカーバンクルからそのネックレスを受け取る。
「…これは?」
「これはカーバンクルの宝石でできたネックレスです。私たちカーバンクルは数年に一度だけ額の宝石が古いものから新しいものに変わる時期があります。その宝石で作られたネックレスです。付けていれば必ず、良いことが訪れるでしょう。」
エレシアはカーバンクルからもらったネックレスを付けてみた。
紫色の宝石は太陽の光を吸収して乱反射し、綺麗な色を放っている。
「ありがとう。私、都市で色々なことを学んで、お母さんに認められるように頑張るわ。」
エレシアは立ち上がってカーバンクル達を見た。
カーバンクル達はいつも律儀に座ってエレシアを見守っている。
「エレシア様の人生に神のご加護があらんことを。」
カーバンクル達のその言葉を最後に、エレシアは聖地を後にした。
まだ知らない未知の世界———
都市と呼ばれる場所に、エレシアは足を急がせた。
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