心配と約束

「颯斗先輩、朝ごはんできてますよ」

「おっありがとう。飯のこと咲に任せっぱなしで悪いな……」

「そんなことは。颯斗先輩には家を提供して貰ってますし」


咲の作るご飯はいつも美味しい。

プロ顔負けというと言い過ぎな気もするが、コンビニで毎日ご飯を済ましていた俺からすると今は天国だ。


「ところで有栖先輩、そろそろ学園に行けそうですか?」

「んーとね、まだお医者さんから許可出ないんだよね。もう少しだけ検査させてくださいって」

「なるほど……。ずっと家に居てる間に家事をしたら貰うのもなんか忍びないんですよね」

「まあそう言わずにさ。私が家事やった方が今は効率いいじゃない?」


あれから1ヶ月。

念の為、有栖先輩は小鳥ヶ丘家が所有する病院に検査を依頼した。

外傷はなかったが、誘拐される時に頭を強く打ったりしていたり、寝ている間に何かをされている可能性があったからだ。

それがかなり長引いている。

学園ではアイドルは学園を辞めたんじゃないかという噂が飛び交うほどだ。


「そうなんですけど有栖先輩だってそろそろ受験のシーズンじゃないですか。大丈夫なんです?」

「万が一受験に失敗したらこの家の家事見習いとして就職するから安心して!」

「それ何も安心できませんよ……?」


◆◆◆


「颯斗先輩! 一緒に帰りませんか?」


特に刺激のない1日の終わりは決まって咲が声をかけてくる。

大智は塀の中だし有栖先輩は学園に来れない。

必然的に咲と行動する機会が増えるわけで。


「いいよ。今日は何食べるんだ?」

「もう颯斗先輩ったら私がいつも放課後何か食べてるみたいじゃないですか。やめてくださいよ」

「いや事実だろ。いつも帰るたびに何処かに寄り道してないか? 昨日はクレープだったし」

「颯斗先輩、今はSNS映えが大事な時代なんです。友達ができるかできないかもそれ次第と言っても過言ではありません」

「そ、そうなのか?」

「そうです! だから颯斗先輩も有栖ちゃんも友達いないんですよ?」

 

サラッと胸にクリティカルヒットする銃弾を撃ち込まれたような気がする。

しかしSNSか……。


「なあ咲、それってガラケーでも出来るのか?」

「あの、颯斗先輩、咲今聞き覚えがあまりない単語を聞いた気がするんですけど」


そう、俺も有栖先輩もガラケーなのだ。

スマホなんて高度な物は俺は必要ないから持ってないし、有栖先輩は家から持つことを禁止されていたはず。


「だから2人ともリーンのID教えて欲しいって言った時、不思議な顔してたんですね……。家でもスマホいじらないから不思議に思ってたんですよ……」


先が信じられないものを見る目でこちらを見ていた。

俺達だって好きで持ってないわけじゃないんだが。


「颯斗先輩、今度の休みに有栖ちゃんを連れてスマホを見に行きましょう」

「俺はいいけど、有栖先輩は許可出るかな?」

「咲が責任を持って出させます。とりあえず2人は現代文明の力を体感してみるべきですよ」

「咲がそこまでいうならわかった。俺、スマホに変えるよ」


こうして休みに3人でスマホを見に行くことが決まった。


◆◆◆


「有栖ちゃん許可出た?」

「うん、ばっちり。咲ちゃんの言う通りにして正解だったよ」


帰宅してから咲は真っ先に有栖ちゃんと話し、スマホを持つ許可をするように電話をして貰った。

どうやら無事に許可がもらえたようで安心した。

颯斗先輩にあんなことを言った手前取れなかったらと思うと気が気でなかったから。


「ところで咲ちゃん、まだ颯斗君のこと好きなの?」

「ま、まぁそれは好き、だけど」

「颯斗君、格好いいもんねー」

「うっ、そうだけど。有栖ちゃんこそどうなの?」

「わ、私? さ、さぁどうだろ?」

「あっずるい! 自分だけ誤魔化さないでよ」

「誤魔化してるわけじゃないの。自分でもわからないんだよね。これが恋なのかなんなのか」

「そっか……。じゃあいつか分かるといいね」


そんな少し恥ずかしいことを言う有栖ちゃんの表情は咲から見れば恋をしている乙女そのものだった。



—————

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