スマホと家業

「颯斗君、これ凄い。どう言う原理なんだと思う?」

「いや俺もわからない側ですからね? 咲に聞いてくださいよ」

「咲もわかりません。そんなことは学者さんにでも聞くべきです」


テンションの上がった有栖先輩を捌くのは結構大変だ。

有栖先輩はテンションが上がるとすぐ子供みたいにはしゃぐ。

そこも可愛いところなのだが。


「お客様本日はどのようなご用件でお越しでしょうか?」

「えーとこの2人の携帯をスマホに変更したくてですね」

「これは……。少々お待ちください。上の物を呼んで参ります」

「はい……?」


有栖先輩の携帯を見た瞬間に店員さんが血相を変えて上司の人を呼びに行った。

もしかしたらデータを移行できないとかそう言う事情があるのかもしれない。

なんたって俺も有栖先輩も携帯を持ってから10年は変えていないはずだ。


「すいません。担当を変わります、橋田と申します」

「よろしくお願いします。それで何かあったんですか?」

「いえいえ、とんでもない。ただそちらのガラケーがかなり貴重な物でしてデータ移行はできますが、うちでは受け取りかねます」 

「お父さんに貰った携帯なんだけど私もしかしてとんでもないもの渡されてたのかな……?」

「お父様から? と言うことは失礼ですがお客様、お名前は?」

「小鳥ヶ丘有栖ですけど」

「なんてこった……。すいませんがお嬢様の携帯をこちらの店舗で帰ることは致しかねます」


何かよくわからないが有栖先輩の携帯をこの店では変えられないらしい。

携帯自体が貴重なのも確かだが、多分他にも理由はあるのだろう。

例えば外に漏れたら困る情報が入っているとか。


「少し先に小鳥ヶ丘様、御用達の店があります。どうかそちらをお使いください。お連れ様もです」


俺達は渋々店を出て言われた店舗へと向かった。


◆◆◆


「ようこそ、有栖様、お連れ様方お待ちしておりました」


深々と頭を下げる老紳士が店の入り口に立っていた。

見たことがないぐらい立派な口髭に態度が相まって執事みたいだ。


「爺! なんでここにいるの?」

「有栖様が携帯を変えられると言うことでしたので付き添いをお父様から頼まれたのです」

「お父さんも心配性ね……」


どうやら本当に執事さんだったらしい。

それにしても前から思っていたが、有栖先輩の実家ってなんなんだろう?

気になった俺は聞くことにする。


「あの、すいません」

「どうかされましたかな?」

「有栖先輩の実家ってどういう家なんですか? すいません、知識がないもので」

「それ咲も気になってました」

「ほっほっほ、致し方ありませんな。あまり旦那様の名前は表舞台では出てきません故。旦那様のお仕事は諜報です。簡単に言えば現代に生きる忍者ですかな」

『なにそれかっけー!』


俺と咲の声が完璧にはもった。

流石に現代に生きる忍者なんて肩書きを聞いてふーんと流せる人の方が少ないだろう。


「私としては少し恥ずかしいんだけどね。実の父親が現代の忍者なんて呼ばれてるの」

「有栖先輩、恥ずかしがる必要はないです! 凄いかっこいいじゃないですか! な、咲」

「はい! 咲もそう思います!」

「そうかな……? 私としては家を継がないからなんでもいいんだけどね」

「有栖様、いつでもお戻りになられていいんですからな。我らは歓迎いたしますぞ」

「爺、もうその話いいからは早く変えてよ」


有栖先輩が珍しく少し不機嫌になる。

恐らく何か家業が絡む嫌なことがあったのだろう。

お家騒動には俺達が口を出すべきじゃない。

流石にそのぐらいは弁えているつもりだ。


「……わかりました。お連れ様もどうぞ。今回は旦那様からの好意で全て無料でやらせていただきます」


こうして俺と有栖先輩は無事にスマホへと変えることに成功した。

そしてこの後、有栖先輩のSNSがバズり大変なことになるのはまた別のお話。



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