同棲と条件

「それで颯斗君、提案なんだけど」

「なんでしょうか?」

「そ、その、あんなことがあったでしょ?」

「そうですね」

「だからね、ここで一緒に住まわせて貰えないかなって」


 状況がいまいち読めない。

 有栖先輩はいつだって突然に俺が予想もしないことを言う。

 勿論、あんなことがあって一人暮らしに不安を感じるのは当然とも言える。

 けどだからと言って好きでもない男と同棲するのは違うだろう。

 何よりあのお父様がそんなことを許すとは思えない。


「有栖先輩、それはまずくないですか? お父様から許可はとりました?」

「勿論とったよ。お父さんはもう16は過ぎてるんだ。好きにするといいって言ってた!」


 お父様? 俺一応男なんですけど、大切な娘さんを何処の馬の骨とも知らないやつに預けていいんですか? 


「ダメかな? 私、これでも結構家事とかできるし役には立てると思うんだけど……」


 別にダメではないのだ。

 俺だって憧れて好きだった有栖先輩と同棲なんて一度は夢見たことがあるシチュエーションだから。

 だけどそれは大智を口実にしてるみたいで嫌だという気持ちもある。

 でも同時にこれを断ったら何かを失いそうな気もしていて。


「わかりました」

「本当!? やったー! 咲ちゃんやったね!」

「そうだねー。本当に有栖ちゃんはずる賢いね」

「え? 有栖先輩、咲もですか? 聞いてないんですけど」

「だって言ってないもん。でもこうなったら1人も2人も変わらないでしょ?」

「まあそうですけど……」


 正直、両親の残した家は部屋が有り余っている。

 俺以外の子供ができた時にと広く作ったらしいが俺以外の子供を作る前に2人とも亡くなった。

 そんな家だからこそ、誰かに使ってもらった方がいいのも確かだ。


「颯斗先輩が嫌なら別にいいですよ。元々、咲は住む場所になんて拘りないですから」

「あーもう! そういう言い方されたら断れないじゃん! わかりましたよ! 2人とも好きに住んでください。ただし風呂の時間と部屋は俺と分けてください!」

「やった! 家事は家賃代わりに私と咲ちゃんが全部やるから任せてね!」


 渋々、仕方なくではあるが許可をする。

 亡くなった両親も俺1人で住んでるより、女の子が家に居た方が多少は喜ぶだろう。


 ◆◆◆


「あの、咲?」

「何ですか?」


 お風呂上がり、キッチンでほぼ下着姿のまま料理をしている咲に声をかける。

 いやかけざるを得ない。

 上だけ服を着て下に何も履いてないからパンツが丸見えになっている。


「普通に俺、男なんだけど」

「そうですね?」

「分かってるならその格好やめない? 正直目のやり場に困るんだけど」

「んーとは言っても一人暮らししてる時はずっとこんな感じでしたし……」

「有栖先輩も笑ってないで何か言ってくださいよ!」

「えーでも咲ちゃんがそういう格好するのは自由だしいいんじゃないかな? 颯斗君、女の子っていうのは意外とだらしない生き物なんだよ?」


 そんなことを言われても俺は知らない。

 有栖先輩は普通にまともにパジャマ着てるんだから咲にもきちんと着てほしいところではある。

 そもそも料理するのにその格好は危ない。


「ともかくルールを作ります! うちの家ではお風呂あがりに上下服を着ないのは禁止で!」

「えー颯斗先輩、それは横暴じゃないですか?」

「そうだそうだー!」

「いや考えても見てくれ。俺が今の咲と同じ格好で作業してたらどう思う?」

「いや別にいいんじゃないですか?」

「私も別に」


 ダメだこの人達、人の話を聞かない。

 非常に困った。

 多数決という案は有栖先輩が悪ふざけをするせいで間違いなく通らない。

 こうなったら家の家主である以上、それを盾にするしかないだろう。


「ともかく目のやり場に困る格好は家の中では禁止! 咲も年頃の女の子なんだからさ……」

「わかりましたよ。別に颯斗先輩になら見られてもよかったんですけどね」

「そんなこと言われても折れないからな。有栖先輩もちゃんと言ってくださいよ」

「分かったよ。咲ちゃん料理する時は辞めようか。別に颯斗君と添い寝する時とかはいいと思うけど」

「いや添い寝もダメですからね!?」


 こうして俺と美少女2人の同棲生活が始まった。


 —————

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