自首と目覚め
目が覚めると咲が朝ごはんを作ってくれていた。
有栖先輩はまだ目覚めない。
「とりあえず俺は大智の家に一回戻って色々と問い詰めて場合によっては警察に突き出してくるよ」
「わかりました。咲は有栖ちゃんと一緒に居ます。起きた時に誰も居ないのは寂しいですからね……」
妙に実感のこもった言葉だったが、今は気にしている場合ではない。
大智が自力で縄を解いて逃げ出す可能性もある。
急いで向かう必要があるだろう。
◆◆◆
もう一度割れた窓から大智の家へと入る。
玄関の鍵がまだかかっていたことから逃げ出した線は薄そうだ。
2階の大智の部屋に入ると精気を失った大智が縛られた状態でそこには居た。
「よう、大智。よく眠れたか?」
「咲か……?」
「何がだ?」
「お前に情報を漏らした相手だ。完璧なはずだったんだ。有栖さんは一人暮らしで実家も遠い。バレるはずがなかったのに」
俺は大智の第一声に呆れる。
俺はともかくとして有栖先輩への謝罪もなしに真っ先に犯人探しを始めるなんて。
「大智、本当に残念だよ。俺は少なくともお前の事は友達だと思っていた時期もあった」
「俺だってそうだったよ。だけど颯斗、お前は俺から全てを奪っていったじゃないか」
「なんの話だ?」
「とぼけるなよ。俺の初恋も2回目の恋もお前が全て奪ったじゃないか!」
本当に全くと言っていいほど心当たりがない。
大智はなんの話をしているのだろう。
「ごめん。心当たりがないんだけど」
「初恋は有栖さんだ。2回目は咲。両方ともお前が奪っていったんじゃないか……。なぁ、俺と有栖さんがくっついた時のあのセリフは嘘だったのか?」
「ふざけるなよ! 咲はともかくとして有栖先輩はお前の自業自得だろ! 人のせいにするのもいい加減にしろよ!」
思わず声を荒げてしまう。
俺だって自分の初恋を捨ててまで大智と有栖先輩の恋を応援してたんだ。
それなのに先に裏切ったのはそっちじゃないか。
「もういい。動機も聞いたし、反省の色はない。今からお前を警察に連れて行く。俺はもうお前の顔を見たくない。窓ガラスは弁償していてやるから」
「それだけは勘弁してくれないか……。俺だって来年受験が控えてるんだ。今そんなことされたら」
「そんなことされたらなんだ? 元は大智が浮気したことから始まってるんだぞ。有栖先輩だってお前がそんなことしなければ……。本当にお前のことを愛してたんだぞ」
初めて有栖先輩と出掛けた時の光景がありありと浮かんでくる。
何処へ行っても大智の好みや趣味、惚気の話ばかりだった。
本当に大智のことが好きだったんだろうし、愛していたのがわかる。
だからそれだけに浮気されていたと知った時のショックは相当だったはずだ。
本当は俺と行動するのだって嫌だったはず。
大智はそこら辺が何もわかっていない。
「とりあえず証拠は全部あるんだ。自首しないなら無理にでも連れて行く」
「……分かった。自首するよ」
とりあえず一件落着したように見えて、何も解決していない。
有栖先輩がまだ目を覚ましていないからだ。
俺は大地の自首を見届けて急いで自分の家へと帰宅した。
◆◆◆
「お帰り、颯斗君」
玄関のドアを開け、待ち構えていたのは有栖先輩だった。
「有栖先輩、良かった……。怪我とかされてないですか?」
「うん。どうやら色々される前に颯斗君と咲ちゃんが助けてくれたみたいで」
「本当に良かった。俺、このまま有栖先輩が目を覚さなければどうしようかと……」
「あはは。私は意外と頑丈なんだよ?」
俺は思わず目に涙を溜める。
本当の最悪も想定していた。
このまま目を覚さずに一生を過ごすかもしれない。
そんな最悪を。
だけど無事に目を覚ましてくれた。
「うっ……ぐす……。本当によかった。よかったです……」
「颯斗君は心配してくれてたんだね。安心して私はもう何処にも行かないから。だから泣き止んでよ」
そういい、有栖先輩に抱かれヨシヨシと頭を撫でられる。
心地がいい。
こんな時間がずっと続けばいいのになんて考えも浮かんでくる。
「えーごほん」
そんな幸せな時間を咳払いによって終わりを告げる。
「あの咲もいるんだけど」
「そ、そうだったね!」
咲の存在を思い出した有栖先輩が俺をパッと離す。
そういえば咲に看病してもらってたんだったか。
「咲もありがとうな。色々と」
「別にいいです。颯斗先輩の為ですから」
「もう! 咲ちゃんも可愛いなー!」
今度は有栖先輩が咲に抱きつき、ヨシヨシと頭を撫でていた。
今日の有栖先輩はどうやら母性に溢れているらしい。
でもさっきの咲には少しドキッとさせられた。
勿論、口が裂けても本人には言えないが。
何はともあれ、これで一件落着と言えるだろう。
—————
昨日は星と沢山のハート、ブクマありがとうございました!
終わりそうな雰囲気出てますがまだ終わりません!安心してください!
いつも応援ありがとうございます。
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感想等も頂けますと嬉しいです。
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