後輩と誘拐

 夏休みも終わろうとしていていた8月後半、次は有栖先輩と連絡が取れなくなった。

 大智とは連絡を取れるようになっていたので聞いたが、知らないの一点張りだ。

 流石に昨日まで連絡を取れていた人が急に連絡を断つなんてことは普通だったらあり得ない。

 俺は有栖先輩のお父様にも連絡を入れたが実家にも帰っていないということだった。

 いよいよもって何か事件に巻き込まれた可能性が高くなっている気がする。

 そんな時、またあの謎のメールアドレスからメールが届く。


『小鳥ヶ丘有栖は捕われた。救いたければこの条件を飲め』


 脅しとも取れる文章だ。

 条件は学園奥にある廃校舎に20時過ぎに来ること。

 武装は許さないこと。

 金銭の要求をするつもりはないこと。

 などなどが書かれていた。

 これ以上のヒントがない以上、俺はメールの主に言う通りにする趣旨を送り、20時まで待つことにした。



 ◆◆◆


 廃校舎は80年も前に使われていたもので取り壊しが検討されたものの、歴史的価値が高いとして未だに残されている。


「要求通りきてやったぞ。宮渕咲」

「へー、よくあーしってわかったね」


 暗闇から出てきた人影は大智の浮気相手である宮渕咲だ。

 俺も有栖先輩もあのメールアドレスはおそらく彼女からのものであるという予想はしていた。


「それでお前は有栖先輩をどうするつもりなんだ?」

「あ? 颯斗先輩、なにか勘違いしてねぇか?」

「何がだ? あんなメールを出しておいて今更……」

「あーしは大智に誘拐された有栖ちゃんを颯斗先輩と助けたいだけだっつーのに。あーしが犯人みたいにメール出したのは、そうじゃないと颯斗先輩来ないだろ?」

「確かにそうだが、お前が大智と共犯でないという証拠もなくないか?」

「はぁ……。颯斗先輩、まだ思い出してくれてないんだ」

「思い出す? 思い出すと俺とお前は初対面じゃ……」

「去年の春、女の子が絡まれていた時に助けませんでしたか?」

「え、もしかしてあの時の……?」

「そうですよ。思い出してくれましたか」


 去年の春先、女の子がヤンキーに絡まれていたのを確かに助けた記憶はある。

 だけどあの時、助けた女の子は今みたいに金髪じゃなかったし宮渕って名前でもなかった気がした。


「でもじゃあなんで大智とくっついたりなんてしたんだ?」

「颯斗先輩が咲からの告白を好きな人がいるって断ったからですよ。咲からの細やかな当てつけみたいなものです」


 いまいちわからないが俺は宮渕咲の告白を一度断っているらしい。

 もしかしたらそれは面と向かってされたものではなかったのかもしれない。

 だけどそれは彼女にとっては勇気のある行動だったことだけは確かだ。


「それで有栖先輩が誘拐されたっていうのは本当か?」

「本当です。犯人は大智で部活の後輩グループを使って攫ったみたいですね。報酬は有栖ちゃんの体とか言って。監禁場所は大智の家。本人がペラペラ喋ってくれましたよ」

「あいつも落ちるところまで落ちたな……。それで咲は手伝ってくれるのか?」

「仕方ないですね。報酬は期待してますよ?」


 こうして俺と咲は大智の家へと赴いた。


 ◆◆◆


「しかし玄関から入るわけにはいかないよな……」

「まあそうですね。向こうは大智をいれて6人。私はともかく颯斗先輩は喧嘩弱そうですし」

「仕方ないけどベランダ側の窓を破って入ろう。窓が割れる音に乗じて移動すればなんとかなるはずだ」


 住居侵入になるが、ここは仕方がない。

 先に犯罪を犯したのは向こうだ。

 必ずなんとしても有栖先輩を無事に返してらわないといけない。


 ◆◆◆


 ベランダ付近に落ちていた手頃な石で窓ガラスを割り、鍵を開けた。

 幸い大智の家の作りは理解している。

 大智達は2階にいたらしく、俺と咲は一旦風呂場に隠れることになった。

 ガヤガヤと人数が降りてくるのかと思いきや、意外にも確認しにきたのは大智1人だ。

 俺はそれを確認して咲に大智を昏倒させてもらう。

 その手際は見事なもので手刀で一発だった。


「お前凄いんだな……」

「ヤンキーに絡まれてから護身術を勉強したんです。それで才能があったみたいで」

「才能なんて言葉で片付けれるのか? とりあえず2階に上がってみよう。大智が1人で降りてきたってことはもしかすると後輩達は帰った後かもしれない」


 ◆◆◆


 2階、それも大智の部屋の前へと辿り着いた俺は部屋に聞き耳をたてる。

 話し声はしない。

 俺は意を決して、扉を開ける。

 そこには手と足を縛られた状態で有栖先輩が寝かされていた。

 どうやら気絶しているみたいだが、外傷はない。


「とりあえずこれ解いてパパッと撤収しよう。後輩達がもしかすると帰ってくるかもしれない」

「んーまぁそうですね。それでどこに運ぶんですか? 有栖ちゃんの部屋は危ないですよ」

「それはわかってる。だから俺の部屋だ。咲もついてきてくれると助かる」

「なんかこんな形で初恋の人の部屋に入るのは不本意ですけどまあ仕方ないですね」


 こうして無事有栖先輩を救い出すことには成功した。

 俺の家は幸い両親もおらずに空き部屋がたくさんある。

 有栖先輩を俺のベッドの上に寝かせた後、咲は客室で布団に俺はリビングのソファーの上で寝ることにした。

 気絶していた大智は縄で縛っておいたので暫くは動けないだろう。

 また明日にでも動機を聞かないといけないかと思うと気分は鬱だ。



 —————

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