初めてのお泊まり
「颯斗、それで早速なんだがこの休日にアリバイ作りに協力してくれないか?」
「いいけど、何をすればいいんだ?」
「簡単だ。お前はこの休日俺と過ごしたって有栖先輩に言ってくれればそれでいい」
「わかった」
そんな表面上だけのアリバイ作りをしてもいつかバレる。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
最も俺から有栖先輩に伝えるわけだが。
◆◆◆
「ということがあったんですが」
「よく報告してくれたね。颯斗君なら私に伝えずに、両方のスパイをうまくやるかと思ってたよ」
「サラッと酷いこといいますね。流石に先に約束した方に義理は通しますよ。それに大智のやっていることは流石に許せないことですから」
こういうことをする奴は許せない。
ましてや俺の好きだった人を横から奪い取って相手だ。
「じゃあこの休日は間違っても大智君と顔を合わせないように気をつけなくちゃいけないね」
「そうですね……ってもしかして、休日一緒に行動する予定でした?」
「え? 違うの?」
確かに俺と有栖先輩は浮気という名の協力関係に戻った。
だけど、それで毎週一緒に過ごしていたらそれは大智のやっていることと違わないんじゃないか?
いやこれは立派な復讐なんだ。
しょうもない二股なんかと同じにしたら、それこそ有栖先輩に失礼だ。
「颯斗君は嫌かな……?」
「そんなことはないので、その捨てられた子猫みたいな目やめてください」
「やった! それでバレないようにしないといけないってことは迂闊には外に出れないよね」
「ええまぁ。何処に大智がいるかもわからないですし、有栖先輩は有名人ですから」
「そうそう。だから私の家に来ない?」
思考回路が一瞬、考えるのを放棄する。
有栖先輩はいつも突拍子もないことを言う人だとは覚悟していたつもりだったが。
「颯斗君?」
「はい」
「この休日、私の家に遊びに来る?」
「お邪魔させていただきます……。親御さんとかは大丈夫なんですか?」
「安心してよ。うち親いないから」
何をもって大丈夫と判断しているのか、全くわわからない。
有栖先輩は多分自分で言っていることの重大さをわかってないはずだ。
そういうことにしておかないと俺の心がもたない。
「とりあえずわかりました。お邪魔させていただきます」
◆◆◆
というわけで今、俺は何故か有栖先輩の部屋にいる。
いや自分で頷いたのだから不思議なことでないのだが、まさか本当に上げてもらえるとは思わなかった。
「そこらへんでくつろいでいてくれていいよ。私は夜ご飯の仕込みしてるから」
「は、はい」
有栖先輩の家は1LDKの手狭な、しかし1人で暮らすには充分な広さだ。
内装は白を基調として人形なんかがそこそこにあり、有栖先輩らしい部屋と言える。
というか有栖先輩さっき夜ご飯とか言ってなかったか?
「あの、有栖先輩?」
「なに?」
「夜ご飯の仕込みとはどういうことでしょうか?」
「夜ご飯は夜ご飯でしょ。今日は泊まりの予定だと思ってたんだけどもしかして違う?」
「そんな予定は一切ありませんでしたけど……」
「じゃあ着替えとかももってきてないの?」
「はい。普通に夕方ぐらいにお暇する予定でしたし」
「それじゃあ仕方ないから夜ご飯だけ食べて帰っちゃって」
「わかりました……」
してやられた感がすごい。
これはよくある交渉は無理なところを提示してから、ボーダーを下げるという奴なのだろう。
夜ご飯なんて食べる予定はなかったのに。
別にそれによって何か困ることがあるわけでもないからいいのだが。
◆◆◆
「それじゃあ、あーん」
「えーと有栖先輩?」
「何かな?」
「いやどう考えても今の状況、どう考えてもおかしいと思うんですけど」
「だって私と颯斗君はもうあーんをし合った仲じゃない」
「いやそうですけど……」
一度したから家でもやるという道理が俺には全くわからない。
だが夜ご飯をご馳走になっている以上、多少の融通は利かさないといけないだろうし、何よりここで引いたら負けな気がする。
俺も有栖先輩に負けじとスプーンを差し出す。
パクリと有栖先輩が俺のスプーンを口に含む。
「そうそう。これがやりたかったのよ」
「だからわざわざハヤシライスなんかにしたんですね……」
どうやら始めから確信犯だったらしい。
それなら先に言って欲しかった。
俺にだって心の準備ぐらいあるのに。
◆◆◆
「すー、すー」
俺の膝の上で穏やかな寝息が聞こえてくる。
夜ご飯を食べ終わった後、有栖先輩と今後の作戦を話しながらテレビゲームをしていたのだが、気が付いたらこの有様だ。
適当に起こして帰ればいいとは思うのだが、問題は俺も眠い。
ここ数日、大智のことや有栖先輩のことを考えすぎて寝不足だったことが祟った。
少しだけ俺も寝よう……。
◆◆◆
「……と君、颯斗君!」
目を開けると目の前にいるはずのない有栖先輩の顔があった。
「有栖先輩、俺もしかして寝ちゃってました?」
「それはもうバッチリね。可愛い寝顔取れたし私としては全然いいんだけど」
「俺が手を出したとか考えないんですか?」
「大丈夫だよ。颯斗君はヘタレだから」
なんかとてつもなく、男としては言われてはいけないことを言われた気がしたが。
「すいませんでした。何もしてないとはいえ、女の人の家に泊まるのは……」
「あはは、謝らなくていいよ。私も寝落ちしちゃったし」
「今後気をつけます……」
「別にいいのに」
別によくはないと思うのだが。
こうして俺の初めてのお泊まりは幕を閉じた。
—————
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