元親友の告白

 次の日、早速俺と有栖先輩は大智を誘って一緒に帰路についていた。


「そういえば颯斗、今日俺の家寄ってくれないか? 前借りた漫画を返したくてさ」

「えー彼女がいる前で普通、他の人家に誘う?」

「まあまあ有栖先輩、ここは俺に免じて許してやってください。こいつこういうことに疎いんで」

「颯斗君がそういうならいいけど次は私も誘ってよね」


 そんなやりとりがあり、俺は大智の家を訪れていた。

 こいつの家に来るのも随分と久しぶりだ。

 有栖先輩とくっついてからはなるべく邪魔をしないように、自分の気持ちが変な方向へと行かないようにと避けてきたから。


「それで俺は大智にいつ漫画を貸したんだっけか?」

「咄嗟の言い訳だ。颯斗もわかってんだろ……」


 そう俺は漫画を大智に一度も貸したことはない。

 俺は漫画を基本的に電子でしか買わないからだ。


「大方、有栖先輩には話せない話があったんだろ。今日に限ってはなんでも聞いてやるから話せよ」

「……ったく。颯斗は本当に察しがいいな。俺さ、バイト先の子が好きになっちゃったみたいなんだ」

「それは有栖先輩と別れてその子と付き合うってことか?」


 ここで素直に別れると言ってくれれば俺は素直に大智の新しい恋路を応援できるし、有栖先輩の気持ちだって少しは落ち着くだろう。

 だが大智の口から出てきたのは俺の予想を遥かに超える発言だった。



 スーッと身体中の熱が冷めていく感覚に襲われる。

 人間って怒りを通り越して呆れることってあるんだなと初めて感じた。


「お前は有栖先輩とバイト先の子と二股をかけるってことか? 本気で言ってるのか?」

「俺は2人ともを愛したい。バイト先の子は長渕咲って言うんだけど、咲はとても健気でいつも俺を気にかけてくれる。けどそれは有栖さんも同じで俺には選べない……」


 正直、全く理解できない。

 こいつは本当にさっきから何を言っているんだ?

 今の発言で呆れと言う感情が再び怒りへと立ち返る。

 大智を今すぐにでも殴り飛ばしたい衝動を我慢して、録音機能付きのアプリをポケットの中で立ち上げる。


「それをお前と有栖先輩の仲立ちをした俺に話して何がしたいんだ?」

「いや、その、俺の二股がバレないように協力してくれないかなって思って……」


 俺は数秒考える。

 ここでこいつを叱りつけて殴ったところで何も起きない。

 下手したら俺が停学か退学になりかねない。

 ならここは有栖先輩の言った通り最大限の後悔をさせるべきだろう。


「いいよ。ただし有栖先輩に二股がバレて追求されたら別れてくれるか?」

「わかった。流石にそれぐらいはしないとくっつけてくれた颯斗に申し訳ないしな」


 こうして俺は大智と偽の協力関係を結んだ。



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