第4話 秘密の扉のその先に――カフェ!?

 晩ごはんを食べ終えてひと段落ついた頃。


「凛、ちょっとついてきてほしいにゃ」

「うん?」


 私はモフに誘導されて階段を降り、1階の書店へと向かった。

 手探りで電気をつけると、当たり前だがいつもの書店が広がっている。


「……えっと?」

「レジを見てみるにゃ」

「レジ?」


 レジ締めはさっきやったけど、と思いつつも、一応レジを確認する。


「特に変わった様子は――いや、うん? 何これ?」

「それがカフェへの入り口にゃ。押してみるにゃ」


 レジの右端上に、「星宮カフェ」というボタンが増えている。

 モフは相変わらず何を言っているか分からないけど、まあレジのボタンを押したくらいで大したことにはならないだろう。

 私はそう考え、その「星宮カフェ」というボタンを押してみた。


 するとなんと――


 壁だった場所にドアが現れた。

 

「えっ!?」

「ここがカフェスペースにゃ」


 ドアを開けると、そこには丸や四角、星、楕円など様々な形をしたテーブル、そして椅子がいくつか置かれていた。

 どれも傷1つない美しい純白で、それ自体が輝いているように見える。

 壁や床、天井は夜を流し込んだように深い藍色で、小さな星がキラキラと瞬いて部屋全体が星空のような美しさだ。


 部屋の奥にはカウンターもあり、ガラス瓶に入った色とりどりの不思議なドリンクが並んでいる。

 ほかにも製氷機や食器、グラス、冷蔵庫、流し台など、カフェの運営に必要そうなアイテムが一式揃っていた。


 そして私自身も、気づけば白いブラウスと星空色のフレアスカートという見たことのない服を身に纏っていた。

 スカートは不思議ななめらかさを感じる生地でできていて、裾に向かうにつれて色が少し淡くなっているグラデーション仕様だ。

 そしてあちこちで金色の小さな星がキラキラと輝いている。


「待って、こんな可愛い服私には――」

「とてもよく似合ってるにゃ。凛にぴったりにゃ」


 いつの間にかモフは、またしてもあの超絶美少女姿になっていた。

 モフの服は、白いブラウスとグレーのフレアスカートだ。

 スカートの色は違うが、同じくグラデーションになっていて、こちらは銀色の星がちりばめられている。


 ――き、綺麗。

 私は、モフのどこか儚げな美しさに思わず目を奪われる。


「? どうかしたにゃ?」

「う、ううん。モフが美少女すぎて見とれてただけ」

「にゃ……に、人間は本当に猫が好きにゃ。どうしようもない種族にゃ」


 モフはそうつぶやきながらも、照れて頬を赤らめ顔を背けてしまった。

 あれ? もしかしてこの子、案外褒められると弱い?


「そ、そんなことより、カフェの説明を進めるにゃ!」

「ふふ。はーい、お願いします」

「カフェは木曜日の夜、週に一度だけ開店するにゃ。お客さんは1人限定にゃ」

「ひ、1人!? そんなの意味ないよっ!」


 星宮書店の売り上げの減少分をカフェで埋めるのかと思いきや、週に一度、たった1人だなんて。

 カフェで月に4~5人じゃ、利益どころか売り上げすら1万円にもならない。


「大丈夫にゃ。モフは本を司る神様の遣いにゃ。モフを信じるにゃ」

「そうは言われても……。でもせっかくここまで準備してくれたわけだし、まあ少しなら。書店業務が終わってからでいいんだよね?」

「もちろんにゃ。星宮カフェは夜9時開店にゃ」


 閉店から1時間後か。

 レジ締めと掃除は30分もあれば終わるし、それならいける。


「分かった。やってみる。それで、ブックパイはどうやって作るの?」

「まずここにこのお皿を出して、それからお客さんのことを思いながら集中して、『スキル【ブックパイ】』って唱えるにゃ」


 ――え。


「え、それだけ?」

「それだけにゃ。さっきモフもやって見せたにゃ」

「い、いやでも、私普通の人間だし……。じゃあ練習を」

「お客さんがいないとスキルが発動しないから、練習は無理にゃ。大丈夫、凛ならできるにゃ。ドリンクはモフが担当するにゃ。集中しないと中身が空っぽのパイができるから気をつけるにゃ」


 えええ。スキルなんて使ったことないのにぶっつけ本番なんて。

 猫だから!? 猫だから自由なの!?

 ああもう、頭が痛い……。

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