第3話 書店でブックパイを提供するにゃ!

「そもそもブックパイって何なの? ここに来たのは、あのパイを食べたから?」

「そうにゃ。スキル【ブックパイ】は、食べた人に必要なものを与えてくれるブックパイを生み出す能力にゃ」

「……なんでブックパイ?」

「それは――モフの主が本を司る神様だからにゃ」

「な、なるほど」


 分かるようで分からない答えだった。


 それにしても、「食べた人に必要なものを与えてくれる」ということは、私はここに来る必要があったってことなのだろうか?

 私にあのパイを生み出す力をくれて、どうするつもりなんだろう。


「……もしかして、星宮書店を諦めろって思ってる?」

「違うにゃ! そんなの絶対ダメにゃ!」

「えー? てっきり書店を潰してカフェにでもしろって意味かと」

「そうじゃなくて、星宮書店でこのブックパイを提供するにゃ!」

「いや、うち書店なんですけど」


 書店は本を売る場所であって、本型のパイを売る場所では決してない。

 まあ最近はカフェ併設のオシャレな書店もあるけど。

 でもうちみたいな小さな店に、カフェをするスペースなんて――


「そこは心配ないにゃ。帰ったら分かるにゃ」

「……うちの店に変なことしてないでしょうね?」

「し、してないにゃ!」


 というか待って。

 なんか心を読まれてる気が!?


「モフは神様の遣いにゃ。それくらい朝飯前なのにゃ」


 目の前の超絶美少女――もといモフは、ふふん!という声が聞こえてきそうなドヤ顔でふんぞり返っている。

 人の心を勝手に読むなああああああああああああ!!!


「それじゃあ帰るにゃ。続きは帰ってから説明するにゃ」

「えっ? もう帰るの!?」

「ここは神域にゃ。人間は、用事以外での長期滞在は許されてないにゃ」

「そ、そうなんだ」


 ◇ ◇ ◇


 気がつくと、私は元いた部屋の椅子に座っていた。

 少なくとも30分近くはあの真っ白い図書館にいたはずなのに、目の前のブックパイは変わらずおいしそうな湯気をたてている。

 モフは、超絶美少女から普段の愛らしい猫姿に戻っていた。


「……これ、残りも食べていいの?」

「もちろんにゃ。でもその前に、モフもごはんがほしいにゃ」

「あっ、そうだった。ごめんごめん」


 私は慌ててモフのごはんを用意する。

 基本的に朝や昼間はドライフード、夜は猫缶などのウェットフードを与えている。


「はいモフ、ごはんだよ」

「にゃー!」


 モフは幸せそうに、猫用のフードボウルに入れた猫缶を頬張る。

 こうして見ると、いつもどおりのモフにしか見えない。

 喋ったり、超絶美少女に変貌したり、不思議な力を使って別世界に転移させたりする特殊な猫には見えない。

 今までの出来事が夢に思えてくるほど普通の、いつもの日常だ。


 ――24歳にもなってこんな不思議体験をするなんて。

 うちの猫が、まさか喋る超絶美少女だったなんて。

 そんなこと考えもしなかったな。


 まあでも今はとりあえず、冷めないうちに残りのブックパイを――


「――ってあれ、文字が」


 先ほどまで謎の記号にしか見えなかったブックパイの文字が、はっきりと読めるようになっていた。


 そこに書かれていたのは、『恵みのブックパイ』というタイトルだった。

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