第10話 エイプリルフール
はい。こんばんわ。いつもながらわたくし
……と、まー嘘なのですけど。
皆さんわかりましたよね。わたくしは美桜ではなく唯月で御座います‼
さてはて今日はなんの日で御座いましょうか?
正解は————エイプリルフール!
ルビを打てば
と、言うわけで嘘を交えたお話です。
「さようなら」
そう、彼女は儚げに涙を流して最後のお別れをした。
意味がわからなかった。理解できなかった。その言葉を知りたくなかった。
頭の中で何度もぐるぐると彼女の言葉が反芻する。
—―さようなら
彼女の去っていくその後ろ姿を呆然と見送ってしまい、このままじゃダメだ。その曖昧な感触のみが浸食しては
言葉ばかりの誠実さ。目線ばかりの仲間意識。声も張れない臆病さ。
胸が張り裂ける想いで、喉が拉げる重みで、脚がぐひゃりと歪む倦怠感。
何がどうしてそうなったのか……僕にいたらない点があった?僕じゃダメだった?あの言葉を信用してもらえなかった?この想いは伝わらなかった?
どうしようもない焦燥と恐怖。
—―さようなら
あぁ……っ⁉言わないで⁉囁かないで⁉声にしないで⁉
わかっている。そうしないと伝わらないことを。理解しているその言葉が現実であることを。
でも、それでもと、どこか諦めの悪い僕はきっと美化して書き換えた自分勝手な思い出だとしても、そこにいる彼女が——笑っていることを知っているから。
だから——走って走って走って。
その手を、春めく桜並木に流され溶かされそうなその白い手を、僕はただ懸命に命辛々に掴んだ。
「——っ⁉」
「——待って‼」
驚いて振り返った彼女の相貌はやっぱり、涙が透明な青い春の色に染めている。
その顔も好きだ。儚くて綺麗で好きだ。だけど——
「——僕は笑顔の君が好き」
「——っっ⁉」
「優しげな微笑が好き。怒った後のしょうがないなーってため息をつく笑顔も好き。友達と楽しそうに笑う顔も好き」
「——――」
「君が君らしく生きている、その笑顔が——君が好きなんだ」
何度でも何度でも。このどうしようもない想いを。どうしようもなく君への恋心を。どうか届いてと願って祈って縋って。
—―僕は君が——美桜が好きだから
彼女——美桜はその大きな瞳で僕を見る。何度も何度も。その涙を溜めた消えてしまいそうな眼で僕を見る。何度も何度も。
もしも邪険にされたら。拒絶されたら。喋りかけないでと言われたら。
きっと立ち直れない。そんな未来があるなら死んでもいいと思ってしまう。
僕は彼女と一緒に将来を歩いていく姿は見れない。けど、彼女がいない世界なんて想像できない。うんん。想像したくない。
ただ、君の瞳に僕がずっと映り続けてくれるなら、僕はきっと十分だ。
だから、伝えよう。だから、引き留めよう。だから、その手は離さない。
彼女の頬を伝う雫をそっと指先で拾い、びくっと身体を撥ねさせて硬直した君を愛おしいとそのすべてを覗き、啄むようなキスがしたいと煩悩を抑え込み、そっと頬を撫でる。
潤んだ瞳が恐怖に染まらないように、僕のすべてが伝わるように。
「美桜、君が好き。美桜が好き。だから、僕の傍にいて。これからもずっと僕を見て」
そんな我儘な告白に彼女は——
「わたし———」
………………………………
ふと、目が覚めた。ぼやける眼でみとめるのはいつもの教室。何にも変わらない誰もいない放課後の教室。
指で眠気を訴えてくる眼をこすり、うつ伏せになっていた身体を起こす。すると上から声が降ってきた。
「——おはよう、唯月」
「…………あ、うん。おはよう
僕が起きるのを待っていてくれたのか、美桜の手元には鞄があった。少しだけ申し訳なく思いながら、それでも嬉しいと思ってしまう僕はどうなのだろう。正常か不誠実か。いや、嬉しいの一言なんだろう。
君がいてくれる。何でもない日常に君が傍にいてくれる。僕は孤独じゃない。僕は一人じゃない。
美桜は優しげな微笑で僕に言った。
「一緒に帰ろ」
だから、僕はこう返事する。
「うん。」
今日の日が夢であるのか、はたまた嘘であるのか。
それでも、決して虚勢でも虚飾でも夢想でもない、たった一つの真実があることを知ってくれると有難い。
なんせ今日は——
恋愛日常譚 青海夜海 @syuti
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