第7話 一幕
「卒業したら、会えなくなるのかな?」
「人によるんじゃないの」
美桜の問いに僕は卒業証書授与で名前を呼ばれていく卒業生を思い出した。
「大学進学で遠くに行く人もいるし、ここで就職する人もいる」
「そう、だよね。みんな自分の夢に向かって決めて進むもんね」
「うん。新しい環境と人間関係とか、今よりもずっと世界が広がっていく。卒業したら大人の仲間入りだ」
そう笑えば美桜はそっか、と青空を見上げた。
「それでも悲しいかも」
「…………」
「仲良くなった人たちと離れ離れになるのは、やっぱり寂しいし悲しいな」
「……そう、だね。……うん、寂しいし悲しいし辛いかも」
「
「……僕も、あるかな」
「寂しい?」
「……そうだ。うん、とっても」
「悲しい?」
「たぶん、毎日思い返すかな」
「それは、辛い?」
「わからない。でも——」
言葉を一端切った僕は飛行機が雲を線で引いていく蒼穹を見上げ、ああ綺麗だな、と思った。
「その人たちと……その人と離れ離れになるのは耐えられない」
「…………唯月」
「美桜はどう?」
「わたし……?」
うーと想像してみる美桜の表情は沈痛なものへと変わり、苦く痛く寂しく笑うのだ。
「わたしも……一緒かも」
「寂しくて悲しくて辛いんだな」
「うん。……でも、わたしの我儘でその人たちの未来を閉ざすは……もっと痛い」
「……」
「わたしが大切に思う人たちには、ちゃんと選択して生きてほしいんだ」
そう笑う君は言うのだ。
——わたしはみんなと幸せになりたいから
彼女は願う。大切な人たちが自分の望む道へと歩み、その先で本当の幸せを掴み取ってくれることを。
彼女は笑う。それが、わたしが望む未来なんだと。
「…………」
「わたしはみんながちゃんと幸せになってくれるだけで、わたしも嬉しいの。もちろん、わたしも幸せになるけどね!」
その微笑みは美しく
僕の世界を輝かせてくれるのは、いつだって花のような君なんだ。
「…………そっか、美桜らしいね」
「そうかな……?えへへへ」
「うん、だから僕は決めたよ」
なにをと首を傾げる彼女に精一杯の幸せを願って。
「——僕は大切なその人に付いて行く」
美桜の眼が大きく開かれる。
「きっと、選択の時が来ても変わらない」
「……どうして?」
そんなの決まってる。でも、その言葉を言うのは今じゃない。だからこれが僕の願いだと笑って見せる。
「その人とずっといることが、僕の幸せだから」
唖然として立ち止まった美桜。風が僕と彼女を
別れと出会いの季節。
僕はだから恥ずかしいと思いながらも、きっとバレるとわかりながらもそう言わずにはいられなかった。
「いこう——美桜」
手を差し出す僕。美桜は僕の顔とその手を交互に見て、少し熱そうなマフラーで口元まで隠して小さく頷いた。
重なった手と手の感触と熱が、心地よく緊張へ誘う。
でも、この瞬間を幸せだと思った。
「卒業式で、美桜は泣きそうだね」
「な、泣かないよ!」
「どうかな?」
「笑わないでよ——!唯月のいじわる!」
「あはははは——!」
「もー……ふふっ」
春がもうじきやって来る。出会いと別れが交差する美しく儚い季節。
それでも、この手は離さないと、それだけは胸に誓った。
二人の楽し気な声音が春を呼ぶ青空の下、これからの世界を奏でていく。
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