第8話 レッツフィッシング②

 ローラタウンは昔は漁業が盛んだったそうだ。

 だけど、我が国・ジュワユーズが誇る最大漁港にして貿易港がある海洋都市・オリヴィエの方が稼ぎが良いと漁師達の殆どがオリヴィエに移住してしまったため寂れてしまったのだという。

 寂びた小さな港だけど季節毎に違う魚、豊富な魚たちが沢山釣れると釣り好きの貴族達の間では人気なんだとか。


 そんな話をマイケルさんから聞きながらやってきたのは。


「マイケルじゃないか。ん? 隣のお嬢さんは?」

「メアリー・ローリエと言います。で、私の肩に乗ってるのが」

『ワガハイは由緒正しき猫神! 名はタマエル・ローラン・フォーリンラブ・・・・・・』

「猫のタマです」

『にゃ~!!!!!!』


 私しか聞こえないのに無駄に長い名前を言い始めたタマを遮り、自己紹介をする。

 やってきたのは港近くの釣り道具を専門に扱う店だった。

 私の挨拶に店主である初老の男性はニコリと笑う。


「君が昨日、町長が言っていた移住者だね。メアリーちゃんと言うのか。儂はロージン・ウィロー。小さい店だけど釣り道具屋をしているよ。

 この店に来るのは老いぼれの儂が言うのもアレだが隠居した貴族達ばかりだから若い子、女の子とは珍しい」


 そう言って初心者に使いやすい釣竿を持ってくるよと店主は奥に行ってしまった。

 釣りを親切に教えてくれそうな人で安心した~。釣りなんて初めてだから不安だらけだったんだよね。

 と言っても不安は残ってるけど。


『この店には看板娘はおらんのかにゃ?』


 初めての釣りで不安になっている私の肩で釣りをすることになった元凶は暢気に看板娘捜しをしていた。

 本当に美人が好きなんだな、コイツは。


 ロージンさんから初心者用の釣竿と餌をもらって、いざ釣り場へ!!


 と意気込んではみたものの。


「釣れない」


 すぐには釣れないことは初心者でも解っていた、流石に一時間かけても釣れないのは・・・・・・。

 海面に映る夕日が眩しい。夕日が目に沁みるってこういうことを言うのかな。


『ふにゃぁ~zzz・・・・・・』


 自分のご飯が釣れないという状況なのに暢気に自称猫神は寝ている。

 その姿に苛ついた私は思いっきりタマの首根っこを掴み持ち上げた。

 重い。とっても重い。


『にゃにゃにゃにゃ、にゃにするにゃ~!! 痛いから離せにゃ~!!』

「タマさん。私はね、貴方の為に一時間ぐらい釣りをしてるんですよ。それなのに貴方は寝てるんですか?」

『ワガハイは猫だぞ!? 猫が釣り出来ると思ってるのか!?』

「あ~、タマさんは猫でしたね」

『そうにゃ! だから・・・・・・』

「でもですよね?」

『にゃ?』

「猫だけど神様なんだから、何か特別な力を持っていると思ってるんですけど・・・・・・。もしかして、力は無いんですか?」


 ここまで煽るとタマはムッとした顔をする。

 さて、凶と出るか吉と出るか。


『ワガハイの力を、猫神の力を、疑ってるのか?』

「だって、貴方のために釣りをしているのに全っ然釣れなくて困ってるのに助けてくれないじゃないですか~」

『うう・・・・・・』

「神様だったら困ってる人を放っておかないですよね?」

『・・・・・・・・・・・・そこまで言うのなら仕方にゃい。ワガハイの力を見せようではにゃいか!!』


 ふへへへへ。上手くいった。

 ニヤける顔を押さえながら、やる気に満ちたタマを下ろす。

 猫神の力を見せてもらいましょうか!!


『さて、下僕よ。右手の甲をワガハイに向けたまえ』

「こう?」


 下僕と言われたけど今回は気にしないでタマに言われたとおりに右手の甲を向けるとタマが手を乗せブツブツと呪文を唱え始めた。

 暫くすると右手の甲に光り輝く肉球マークが浮かび上がる、何これ!?


『これでワガハイと下僕の魔力が繋がったにゃ!!』

「繋がった?」

『繋がったことによって下僕にもワガハイの力、招き猫の力が使えるようになったのにゃ』

「招き猫の力?」

『うむ。その力は自分から来て欲しいものを念じることによって招くことが出来る力にゃ。百聞は一見にしかず!! レッツフィッシングにゃ!!』


 なんかショボそうな力を授かったけど、まあ、使ってみるか。

 餌を付け直して、釣りを再開する。

 念じれば良いらしいから・・・・・・、魚来い!! 魚よ来い!!


――ビクンッ!!


 数分もしないうちに反応が!!

 本当に来たよ!! ショボいとか言ってごめんなさい!! 招き猫の力って凄い!!

 それにしても引っ張る力が強い!! これは大物!?

 力が強すぎて引っ張られそう!! でも負けてたまるか!! 折角来た獲物を逃すか!!!!!!


『下僕よ!! ここで招き猫の力を使って、力を招くが良いぞにゃ! そうすれば引っ張り上げられるにゃ!!』

「そういうことも出来るの!?」

『招き猫の力は何でも招くことが出来るから可能にゃ!! さあ!! つべこべ言わずにやってみるにゃ!!』


 私は釣竿を強く握りしめ、力が私に来るように念じる。

 するとドンドンと力が湧いてきた!! すげえ!! 招き猫の力すげえ!!

 これなら!!


「うおりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 釣竿を思いっきり引っ張り上げるとザブンッ!! という音と共に魚を釣り上げた。

 やった!! と心の中でガッツポーズをしながら釣り上げた魚を見た私とタマは声を上げた。

 歓喜の声じゃない、驚きの声を。


「釣れ・・・・・・。ええええええ!?」

『こ、これはにゃんにゃ!?』


 釣り上げた魚は緑色に輝く風を纏った魚だった。

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